会社の存続と成長にパーパス(目的・存在意義)が必要なように、あなたも、長期的に充実し満足できる人生を送るためには、会社に頼りっきりになるのでなく、あなたの目的と存在意義を見つける必要があります。あなた自身のパーパスプロジェクトです。
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はじめに
本書「The Purpose Myth: Change the world, not your job(邦訳)仕事ではなく世界を変えよう ―「パーパスの神話」に騙されないために」は、自己実現のために会社を辞める必要はなく、今の会社で働きながら、自分のパーパスを自分で実現していく事を勧める本です。
著者のシャーロット・クレイマー(Charlotte Cramer)は、戦略コンサルタント、神経科学研究者、そして受賞歴のある社会起業家です。本書は2020年12月出版で、現時点(2021年7月)では日本語訳版は発行されていません。
➡ 2022年3月追記。私の翻訳による日本語版が発刊されました!!その日本語版のリンクも追加しました⇩
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会社のパーパス(目的・存在意義)の重要性
会社のパーパス(目的・存在意義)の必要性を訴える声が大きくなってきています。私も下記の様な関連する記事をいくつか書いてきました。
これからの時代、企業には、パーパス・ドリブン、つまり、会社の存在意義を理念の中心に据え、強い目的と意志を持って社会課題に取り組んでいく事が求められます。そして、ビジネス環境の不確実さ、環境問題や所得格差等が深刻になる中、多くの人がそのような社会的な課題に真剣に取り組む企業で働きたいと考え、特に若い世代の人たちほど、その思いが強くなってきています。
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会社のパーパスとあなた個人のパーパスは別物
一方で、筆者は問いを投げかけます。
ミレニアル世代の70%もが会社のパーパスに共感できないと感じています。
パーパスを会社からの視点ではなく、個人や従業員の視点から見た場合、全ての人が、自分と価値観が合う会社で働く事は可能でしょうか?価値観が合わずパーパスに共感できない会社で悩んでいる人は会社を辞めて転職したり起業するべきなのでしょうか?
筆者は、あなたが本当に意味のある人生を送りたいのであれば、個人の価値観や理想を会社に期待し過ぎず、自分自身のパーパスを持つ事が必要だと述べます。
確かに会社はあなたに無理な仕事や理不尽な仕事の仕方、むだな作業の要求をするかもしれません。しかし、逆にあなたも会社に過度に期待したり頼りきったりしていませんか?
会社に、帰属感や居心地の良さ、親密な関係や安全性を求め、社会への貢献、公平性、透明性を求め、同時にやりがい、自己成長、教育、自己啓発の機会、自分のアイデンティティ、安定した生活、充実した人生、人生の目的、家族の幸せ、健康管理、レジャーの支援、老後の支援、あらゆる可能性を求める。。。給与をもらっているとはいえ、求め過ぎなんじゃないでしょうか?(笑)(1)
会社にとっては、従業員や社会が共感できる目的や存在意義を持つのは大切です。しかし、だからと言って、個人が会社に全てを押し付け、要求する事は正しいのでしょうか?
企業が目的・存在意義を明確にする必要がある一方で、あなたも、長期的に充実し満足できる人生を送るためには、あなたの目的・存在意義を見つける必要があります。あなた自身のパーパスプロジェクトを始めるのです。
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人間の3つの基本的ニーズ
著者はFacebookやGoogle、Children’s Hospitalなどで働き、自身の社会的活動を進めてきた経験、そして多くの社会的起業家にインタビューをした結果から、個人が満たされた生活を送るためには、次の3つの基本的なニーズが満たされる必要があると言います。
Survive(サバイブ、生活):衣食住や安全などの物質的なニーズ
Strive(ストライブ、貢献):り良い世界に貢献したいという精神的、感情的なニーズ
Thrive(スライブ、成長):学び、好奇心を満たし自己を成長させる、知的なニーズ
著者は、収入を得るための仕事つまり「生活」のための仕事は、「貢献、成長」するための仕事と同じでなければならないという間違った神話(パーパスの神話)と長年格闘してきました。
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「生活のため収入を得る仕事」≠「貢献、成長のための仕事」
筆者は、ホームレスにお金を配るとどのように使われるか分からないので、お金ではなく必需品を提供する「クラック・アンド・サイダー(CRACK + CIDER)」と後に名付けるホームレス支援の取り組みを心の中に温めていました。ずっと心の片隅にあったそのアイデアを、ちょっとしたきっかけである人に話してみたところ、「それは良い!うちの店のスペースを使ってやっていいよ」と提案され、始めるきっかけ(逆に言うと始めなければならないきっかけ)を得ます。最終的にこの取り組みは大きな支持を得て、The Guardian、BBC News、FastCompanyなどのメディアからも賞賛されるほどに成長します。
著者は、この支援やその後の取り組み、多くの人たちとの対話やワークショップを通して、「収入を得るための仕事」は「自分が何者か」とは関係がなく、「仕事は、収入を得る手段であると同時に、その人のパーパスを満たさなければならない」という結び付けは間違いだという結論に至ります。
つまり、「生活のため収入を得る仕事」≠「貢献、成長のための仕事」です。
1つの食材が身体に必要な全ての栄養素を満たす訳ではないように、1つの会社が必ずしもあなたの3つのニーズ全てを満たせる訳でもありません。
ひょっとしたら、あなたが今働いている会社では3つのニーズを全て満たしているかもしれません。しかし、それはまれなケースで、みんなが皆、あなたの様に人生と働いている会社の目的がリンクしている訳ではなく、「今の会社では自分の貢献、成長ニーズは満たせない。。」という人の方が多いのです。
そのような人の中には転職しようかと悩む人もいるでしょう。
しかし、社会貢献しつつ、自己成長も実現しながら、生活に必要な収入も安定的に得る仕事を見つける又は作り出す事は、簡単ではありません。
「生活」欲求は満たされているのに、その会社を辞めて3つの要素を同時に満たす仕事を見つけ出す事が難しい上に、下手をすると満たされていた生活さえ失うリスクもあります。
今の会社で「生活」ニーズがある程度満たされているのであれば、その仕事で安定した生活を確保しつつ、それと並行して別の手段で「貢献、成長」を実現するのです。
この書籍(原書)が発行されたのは2020年、コロナウイルスが猛威を振るっている最中です。著者自身もトランプ政権時代の移民政策に振り回されアメリカに戻る事が出来なくなったり、コロナで多くの人が職を失い命も失い、ごく普通の当たり前の生活を送っていた人たちが生活を維持する事さえままならなくなり苦しむ姿を見てきた背景もあるのでしょう。
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あなたのパーパスプロジェクトを妨害する報酬やエゴ
日本ではサイドワークとして「副業」という言葉がよく使われ、「本業以外で収入を得る事」と捉えられる事もありますが、筆者は「貢献、成長」を満たしていく自分自身の仕事では必ずしも収入を得る必要はないと言います。あなたには生活のための仕事が既に別にありますから、パーパスプロジェクトで報酬を得る前提は必要ありません。
もちろん、個人のパーパスをビジネスに繋げて成功させるだけでなく、社会への大きなインパクトを実現している人もいますが、達成できるのは限られた僅かな人たちです。
むしろ、報酬を得なければならない事を前提にしてしまうと、本来の目的を曇らせ、動機を低下させてしまう事があります。また報酬を得れば得るほど、本来の目的から離れ、収入を増やす事が目的になっていく事もあります。「副業する」「起業する」は目的ではなく、あなたが達成したい目的の手段です。
例え「収入を得るための会社」がパーパス・ドリブンだとしても、企業は継続的に利益を上げなければならないので、現在の資本主義社会の中では、営利企業が純粋に社会的パーパスだけのために存在するという事は実際はとても難しいのです。
パーパスを曇らせるのはお金だけではありません。筆者はホームレスの取り組みが成功していくにつれ、「はっ」と気が付きます、「自分はホームレスを助けたいというより、成功したい、多くの人に認知されたい、自分は慈善事業をやっている素晴らしい人間だという事実を多くの人に知ってもらいたいというエゴやステータスのためにやっている」。
パーパスプロジェクトは、かっこいいキャッチフレーズとか、毎日楽しく仕事しようとかではなく、葛藤があります。模索しながら魂から思いを引きずり出し、不完全で、転びながら二歩進んだら一歩下がるような、しかし少しづつ前に進むような作業です。
報酬が無くても、ステータスが上がらなくても、心からやりたいと思える「貢献、成長」の取り組みです。
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パーパスプロジェクトの始め方、進め方
「生活:収入を得るための仕事」と「貢献、成長:社会貢献と自分の成長のための作業」は切り離し並行して実施できます。著者の場合は、むしろ並行して進めた方が効率的にできました。
筆者はこの本の執筆のために4か月間完全に仕事から離れメキシコに滞在したそうですが、メキシコ滞在中は24時間自由な時間があったのにも関わらず、結局1日最大2時間しか机に向かいませんでした。
平均的なスマホユーザーは、1日に2,617回、画面を触ったり、タップしたりスワイプしています。(2)
更に、平均的な人は仕事中、1つの仕事を3分しか持続できていません。(3)
机について「さあやるぞ!」と思った矢先に、FacebookやYoutubeを見始めて気が付けば1時間なんて事もあります。更に悪い事に、一度集中力が途切れると仕事を回復するのに20分以上かかります。
「時間がない」と言う人は、時間を無為にしたり、非効率に過ごして、言い訳をします。月曜日から金曜日まで朝から夕方まで、収入のための仕事をしても、貢献、成長に必要な時間は十分に捻出できます。
また、あなたのパーパスプロジェクトは、あなた自身が全てを決める事ができます。「そうじゃないだろ!」と口を出したり、横槍を入れる上司もいません。
大きな目標に圧倒されず、できるだけ小さな事から始めていけばよいのです。例えば、次のようなチェックリストを作ります。
□ この記事を最後まで読む
□ 窓の外を眺めてリラックスする
□ 時間をチェックする
こんなチェックリストでも全部最後までチェックが入ると達成感で脳にドーパミンが分泌されます。ドーパミンは、楽しさ、嬉しさ、モチベーションを高める神経伝達物質です。
自身のパーパスプロジェクトは、今までそれを考えた事もなかったような人にとっては、簡単な作業ではありません。
すぐに見つけようとする必要はありませんし、すぐには見つかりません。どうしたらいいかもすぐには分からないでしょう。スキルも必要です。しかし、時間を効率的に使って集中できる時間を作り、継続的に模索し行動していけば、何年かかるかもしれませんが、見つける事が出来ますし、必要なスキルも身に付ける事ができます。
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最後に
本書では他にもパーパスプロジェクトの進め方のステップやアイデアの数々を分かりやすく紹介しています。自分探しやあなたの目的を探すためのヒント、課題と解決策をどう見つけるか、アイデアをスケールするための方法です。
それらは、起業・副業のノウハウにも通じるため、多くの他の起業本や副業本で紹介されている事と共通する内容も多いです。そのような他のリソースも使いながら進めていけばよいでしょう。ただし、先にも述べたように起業・副業は手段であり、パーパスプロジェクトの目的を継続的にしっかり見つめる事が大切です。
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参考文献
(1) Esther Perel, “HOW’S WORK Prologue“
(2) Michael Winnick, “Putting a Finger on Our Phone Obsession, Mobile touches: a study on how humans use technology“, dscout, 2016/6
(3) Gloria Mark, Shamsi Iqbal, Mary Czerwinski, Paul Johns, “Focused, Aroused, but so Distractible: A Temporal Perspective on Multitasking and Communications“, the 18th ACM Conference (Conference Paper), 2015/2