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書籍紹介:The Psychology of Money お金の心理学

  • 投稿カテゴリー:人が変わる
  • 投稿の最終変更日:2023年10月9日
  • Reading time:10 mins read

資本主義は、富を生み出すことと、妬みを生み出すことの2つを得意とします。私たちが望むものは、妬みとエゴによって肥大化していきます。幸せは他人との比較ではありません。幸せは結果から期待値を差し引いたもので、貯蓄額は収入からエゴを差し引いたものです。「十分」という感覚がなければ、人生は楽しくありません。

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サイコロジー・オブ・マネー:The Psychology of Money

今回はモーガン・ハウセル(Morgan Housel)2020年著の「The Psychology of Money : Timeless lessons on wealth, greed, and happiness(邦題)サイコロジー・オブ・マネー:一生お金に困らない「富」のマインドセット」を紹介します。

本サイトでは「お金」に関するトピックスや書籍は、今まであまり扱ってきませんでした。今回、この本を紹介するのは、ハウセルがベンチャーキャピタル会社のパートナーで、経験豊富な投資家でありながら、本書が、株や債権といった実践的な投資のアドバイスではなく、お金に関する私たちの見方や姿勢を扱っているからであり、その姿勢が、私が他の記事で紹介しているような人生感や価値観と深く結びついているからです。

経済的に成功するということは、他人との比較でも、誰よりも多く稼ぐことでもありません。難しい科学や数学でもありません。大切なのは、自分の偏見や心理を知るソフトスキルであり、さらに重要なのは、何を知っているかよりも、どう考え、どう行動するかです。

※ なお、いつものように、私は本書の英語版を読んでいるため、日本語版との表現の違いについてはご了承ください。

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各章のダイジェスト

本書は基本的に各章が完結する形で書かれています。それぞれの章の要点を紹介していきましょう。

1章:誰もが過去の経験というレンズを通して、お金を見ている

例えば、戦争を生き抜いた人たち、高度成長期や失われた30年を育った人たち、激しいインフレを生きた人たちと、モノの値段がほとんど変わらない経済を過ごした人たち、様々な経済や社会環境の中、異なる収入、異なる価値観を持つ親に育てられ、誰もが、世界の仕組みについて自分だけの実体験を持っています。
貧困の中で育った人は、裕福な家庭に生まれた子供には想像できないような方法でリスクと報酬を考えます。
まずは、自分が、自分の実経験に基づいてお金に関する判断をしていることを知ることです。そして、それが正しいこともあれば、間違っていることがあることを知ることです。

2章:人生の多くの結果は、努力以外の力や運によって導かれる

人生で大成功を収めた特定の人たちを目指すことには注意しましょう。その人たちが成功したのは、実力があっただけでなく、運もあったからです。一生懸命頑張れば、必ずその人たちのようになれると思い込むことはやめましょう。結果のすべてが、努力や意志に起因するわけではありません。極端な成功例を一般論に落とし込んではいけません。

3章:十分だという時を知る

自分にとって十分なお金の量を知ることが大事です。人は、ゴールにたどり着くと、期待値をさらに上げます。つまり、ゴールポストをさらに遠くに設定し直します。もっとお金が欲しい、もっと権力が欲しい、もっと名声が欲しいという欲求が生まれるからです。そして、ゴールポストにたどり着くと、そこに既にたどり着いている人たちに遅れをとっているように感じます。追いつきたいと思いますが、満足感よりも野心を高めることは危険です。
最も難しく、最も重要なファイナンシャルスキルは、「ゴールポストを固定しておくこと」です。

4章:最大のリターンを目指すのではなく、複利の力で安定したリターンを継続的に得る

最高のリターンは1度きりのもので、2度は繰り返せません。最高のリターンを目指すのではなく、長く続けられる比較的良いリターンを目指すこと、そのためには、複利を味方につけることです。

※ なお、「複利」とは利子にも利子がつくことで、時間をかければかけるほど資産の伸びが大きくなることを言います。仮に利子が年率3%で一定とした場合、100万円の元本が倍の200万円になるのは、複利の効果で24年です。元本にしか利息がかからない「単利」の場合は34年かかります。

5章:良い投資とは、良い決断をすることではなく。一貫して大失敗しないこと

お金の成功を一言で表すとしたら「サバイバル」、生き抜くことです。大きなリターンにこだわるよりも、破綻したり、あきらめざるを得なくなることなく、投資というゲームにいかに長く参加できるかが鍵です。
それは保守的であることとも異なります。保守的とはリスクを避けることですが、そうではなく、あるレベルのリスクは取るが、破綻することなく、確率を上げるのです。

6章:半分くらい判断を間違えても、富を手にすることができる

私たちの関心は、短期間で大きな利益を得た人たちや、超富裕層の大成功事例など、起きる確率が何万分の1、何百万分の1の出来事にひきつけられます。
その人たちが行ったことを再現するのはほとんど不可能です。私たちは、奇跡を再現しようとするのではなく、自分自身の現実的な目標を見据えて、基本的なことをきちんとやるだけです。健全で賢明な決断をしていれば、仮に半分くらい判断を誤っても、富を築くことができます。
何をするにしても、多くのことはうまくいかないと知っておく必要があります。それが世の中というものです。ですから、個々の取り組みに一喜一憂するのではなく、常に全体を見て、自分がどうだったかを判断すべきです。

7章:お金がもたらす最高の価値は、自分の時間をコントロールできるようになること

お金の本質的な価値は、自立と自律を得ることにあり、自分の人生をコントロールできているという意識がもたらす、ポジティブな感情です。好きなときに、好きな人と、好きなことができる生活を送れることが、人を幸せにします。モノではなく時間が、人を幸せに導くのです。

8章:自分が持っている財産に他人はそれほど関心をもっていない

人は、他人から評価されたい、賞賛されたいという思いから、富を求める傾向があります。しかし、実は、自分が持っている富に他人はそれほど興味がありません。

9章:自分がどれだけお金を持っているか人に見せびらかすためにお金を使うことは、お金を減らす最短の方法

私たちは、車や家や高級料理など、目に見えるもので富を判断しがちです。しかし、本当の富とは目に見えないものです。真の豊かさとは、必要となれば必要なものを購入できる選択肢を持っていることです。後で何かを買うことができるという、まだ取られていない選択肢です。世の中には、一見控えめに見える人でも実際には裕福な人と、裕福そうに見えるだけの人がいますが、この違いを知らなければ、お金の判断を誤らせる元凶になります。

10章:富を築くことは、収入や収益よりも、貯蓄率と大きな関係がある

富を築くことは、貯蓄率(収入の何%を貯蓄に回すか)と大きな関係があります。さらに重要なのは、富の価値は、自分が必要とするものと相対関係にあるということです。
より少ないお金で幸せになれることを学ぶと、もっと簡単に、自分をコントロールできるようになります。

11章:徹底して合理的であろうとするよりも、より現実的であろうとする

現実は理論だけでは動きません。私たちは表計算ソフトではなく、人間です。論理に縛られ過ぎず、より現実的であれば、私たちは幸せを維持できる可能性が高くなります。

12章:過去の実績は将来の結果を導くものではない。

過去の実績は、現代における変化を考慮していません。世界は変化しています。未来予測を、過去のデータに過度に依存してはいけません。

13章:失敗や不測の事態のために、余裕を持つこと

計画は重要ですが、最も重要なのは、計画が計画通りに進まないことを前提に、誤差を許容し、余裕をもって計画することです。計画は、現実を生き抜いてこそ意味があります。そして、誰にとっても、現実は不確実性に満ちています。良い計画は、不確実さをないものにすることではなく、不確実さに正面から向き合い、失敗の余地を見ておくことです。余裕を持たせておけば、少しの間、物事がうまくいかなくても、台無しになることはありません。

14章:未来の自分は、今の自分が予想もしないように変わる可能性がある

長期的な計画を立てるのは意外と難しいものです。なぜなら、人の願望は時間とともに変化するからです。外的な環境だけでなく、自分自身が予想もしていなかったように変わる可能性もあります。私たちは、過去に自分がどれだけ変化したかは認識していますが、将来、自分の性格や願望、目標がどれだけ変化するかを過小評価します。

また、大学卒業後に選んだ会社だからという理由だけでキャリアに忠実であり続ける人がいますが、自分の未来を変える選択も受け入れなければなりません。

15章:すべてのものには値段があるが、そのすべてが表示されているわけではない

すべてのものには値段があり、それが見えなかったり、見ないふりをしているからといって、支払わなくてもよいことにはなりません。市場は上がったり下がったりします。時には損をすることもあります。それを損失ではなく、ゲームをプレイするための費用や手数料として捉えましょう。不確実性、疑念、後悔は、金融の世界ではよくあるコストです。それらは支払う価値があります。
手数料を払ってでも、長くゲームに参加することが、長い目で見て富を築く方法なのです。

16章:自分とは違うゲームをしている人たちから金銭的なアドバイスを受けることを避ける

背景も金額も目標も違う人のアドバイスを自分に当てはめても、結局はうまくいきません。それよりも、自分の時間軸を理解し、平均値を見て、一般的に自分の状況にある人たちに有効なことをすることです。
お金に関して、自分とは異なるゲームをしている人の行動や言動に振り回されないようにすることほど重要なことはありません。自分がどのようなゲームをしているのか理解し、それ以外は無視しましょう。

17章: 悲観主義の誘惑に耐える

一時的に物事が悪い方向に動くことは必ずあります。私たちがすべきことは、じっと耐えてそれを乗り切ることです。物事が悪くなる時があることを予想し、逆にそうでなかったときは驚くぐらいに考えましょう。
また、うまくいっていることはゆっくり進み目立ちませんが、悪いことは急に起き、多くの人の注目を集めます。私たちには悪いことばかりに目が向く傾向があることを知ることが大事です。

18章:ストーリーは統計に勝る

何かが真実であってほしいと思えば思うほど、それが真実である確率を過大評価した物語を信じやすくなります。私たちは極端なストーリーに目を奪われます。気をつけなければならないのは、話が良すぎて真実味がないのに、そのようなストーリーに簡単に夢中にならないことです。

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名言・格言が満載

この本には、気の利いた多くの名言が織り交ぜられています。そのいくつかを紹介しましょう。

現代の資本主義は、富を生み出すことと、妬みを生み出すことの2つを得意とする
Modern capitalism is a pro at two things: generating wealth and generating envy.

幸せとは、結果から期待値を差し引いたものである
Happiness is just results minus expectations.

仲間を追い越したいという気持ちは、モチベーションにはなるかもしれませんが、「十分」という感覚がなければ、人生は楽しくありません。幸せは他人との比較ではありません。また、期待が結果を上回っている限り、結果に満足できず、人は幸せにはなれません。

貯蓄額 = 収入 - エゴ
Savings = Income – Ego

10章で、富を築くことは、貯蓄率と大きな関係があり、富の価値は自分が望むものとの相対関係にあると説明しました。自分が望むものは、エゴによって肥大化していきます。多くの人は、一定以上の収入を越えると、エゴが欲するものにお金を使います。つまり、人に自分を良く見せるためにお金を使います。

エゴを小さくすることができれば、自分をよく見せたり、他人より多く持つ必要もなくなります。
つまり、この富の方程式からエゴを取り払うことができれば、お金に関して余裕を持つことができます。

貯蓄には、将来具体的に何かを購入するという目標は必要ない
You don’t need a specific reason to save.

貯金している人たちに対して「そんなにお金を貯めてどうするの?」と聞く人がいますが、貯蓄には、具体的に何かを購入するという目標は必要ありません。
もちろん、特定の目的のためにお金を貯めることは、素晴らしいことです。しかし、世界は予測不可能です。貯蓄は、予想もしない最悪の事態が起きても人生が破綻しないようにする、避けることができない出来事に対するヘッジなのです。予測や定義が不可能であることが、貯蓄をする最大の理由の1つです。
また、支出目標を持たない貯蓄は、選択肢と柔軟性を与え、考える時間と、待つ力、飛びつく機会を与えてくれます。余裕を持つことで、自分の意思で軌道修正できるようになるのです。

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さいごに

投資家としてより良い結果を出したいのであれば、時間軸を長くすることが最も強力な手段です。時間を味方につけましょう。

物事がうまくいっているときは謙虚さを、うまくいかないときは自分への思いやりを見つけましょう。実際は、見た目ほど良くも悪くもありません。世界は複雑で、運やリスクは現実です。それを見極めるのはとても難しいです。運とリスクの力を認められれば、自分をコントロールでき、チャンスが増えるでしょう。

自分がプレイしているゲームを明確にし、自分の行動が別のゲームをプレイしている人たちに影響されないようにしましょう。長距離走をしているのに、短距離走者の戦略に惑わされてはいけません。

エゴを減らして、富を増やしましょう。富は収入とエゴのギャップであり、目に見えないものです。いかに周りの人たちに自分を良く見せるかより、自分がどれだけ幸せに過ごせるかを考えましょう。あなたはお金を使って人から尊敬と称賛を勝ち取ろりたいと思うかもしれませんが、優しさや謙虚さによって、それらを得る可能性の方が高いのです。

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この本の冒頭では、ロナルド・リード(Ronald Read)とリチャード・フスコーネ(Richard Fuscone)という、異なる人生を歩んだ2人の男性を紹介しています。最後のこの2人の違いを紹介しましょう。

ロナルド・リードは、25年間ガソリンスタンドで車の修理工をし、17年間JCPenney(アメリカの百貨店)で床掃除係として働きました。彼の主な趣味は、薪を割ることでした。
38歳のときに2ベッドルームの家を12,000ドル(150万円)で購入し、そこで一生を過ごしました。

92歳で亡くなったとき、彼は全米で話題になります。

遺言を通じて、彼は1.2百万ドル(1.5億円)を地元の図書館に、4.8百万ドル(6.0億円)を地元の病院に寄付したのです。身近な家族でさえも、誰も彼が億万長者だとは夢にも思いませんでした。彼はわずかなお金を少しづつ貯めて優良株に投資し、何十年も持ち続けた結果、複利の効果で全資産が800万ドル(10億円)以上になっていたのです。

もう一人の男、リチャード・フスコーネは、ロナルド・リードが亡くなる数カ月前に話題になりました。
彼は、ロナルド・リードにはない、あらゆるものを兼ね備えていました。ハーバード大学で学び、MBAを取得したメリルリンチの幹部であるフスコーネは、金融業界で大成功を収め、40代で引退して慈善活動家になりました。

2000年代半ば、フスコーネは多額の借金をして、コネチカット州グリニッジにある1,670平方メートルの家を増築しました。この家にはバスルームが11、エレベーターが2つ、プールが2つ、ガレージが7つありました。

そこに2008年の金融危機が襲いかかります。

高額の負債によって、彼は破産しました。彼は破産判事に「私は現在、収入がありません」と言ったそうです。まずフロリダ州のパームビーチの自宅が差し押さえられ、2014年にはグリニッジの邸宅が差し押さえられました。贅沢な作りのフスコーネの家は、流動性が極めて低く(買い手が付きにくい)、予想よりもとても安い値段で差し押さえられ、オークションにかけられたのです。

大学も出ていない、トレーニングも受けていない、経歴もない、経験もない、人脈もないリードが、最高の教育、最高のトレーニング、最高の人脈を持つフスコーネを、結果として大きく凌駕したのです。

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