機能しないチームには5つの特徴があります。(1)信頼の欠如、(2)対立への恐れ、(3)コミットメントの欠如、(4)責任の欠如、(5)結果に焦点がない、の5つです。
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前回「効果的に機能するチームの作り方」について紹介しました。
今回は、機能しないチームの特徴と、どうすればその機能不全を克服できるか、アメリカのビジネスコンサルタントであるパトリック・レンシオーニ(Patrick Lencioni)2002年著「The Five Dysfunctions of a Team: A Leadership Fable 邦題:あなたのチームは、機能していますか?」を紹介していきます。パトリック・レンシオーニは、特に経営陣の育成や組織の健全性を専門とする経営コンサルティング会社The Table Group社の代表です。
私は、本書も他の書籍同様、英語版の原本を読んでいます。日本語版は読んでいないため、日本語版と違う表現や言い回し等についてはご容赦下さい。
下図が本書で紹介している機能しないチームの5つの特徴です。それぞれの機能不全とそれを克服するためのアイデアを見ていきしょう。
図:機能しないチームの5つの特徴
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機能不全1:信頼の欠如
まず初めにここで使われている「信頼」という言葉は、一般的に使われる「〇〇君!今回も信頼してるぞ、頑張ってくれな!」という、過去の成果に基づいて人に期待をする「信頼」ではありません。ここでの「信頼」は、互いに弱みや間違い、失敗などをさらけ出しても、責められたり非難される事がなく、自己防衛に身構える必要が無い関係という意味の「信頼」です。
本書は、信頼のないチームのメンバーの特徴を以下の様に挙げています。
- お互いの弱点や間違いを隠す
- 助けを求めることを躊躇し、助けを差し出すことも躊躇する
- 物事を深く掘り下げて明確にする事を避け、拙速に結論づける
- 悪意を持つ
- 会議は苦痛、できるだけ一緒にいる事を避ける
~ 機能不全1(信頼の欠如)を克服するためのアイデア ~
残念ながら、信頼は一夜にして成す事はできません。しかし、以下のような事を取り入れ、少しづつ信頼を形成することができます。最初の例は簡単ですが、後になるほど難しくなり、ある程度の信頼レべルが既に構築されている事が条件になります。
1-(1). チームメンバーへの質問タイム
質問は、兄弟の数、出身、好きな事、趣味など、個人的かつ抵抗なく答えられるものにします。比較的無害な情報を共有するだけで、チームメンバーはお互いに関心を持ち、より個人的な関係を築く事ができます。打合開始時のアイスブレイクに取り入れられますね。
1-(2). チームの有効性の演習
各メンバーが思う、チームに対する最も重要な貢献を話してもらいます。難しい場合は、同様のより答えやすい質問でも良いでしょう。
1-(3). 性格と行動の好みの分析
本書では、MBTI(Myers–Briggs Type Indicator:マイヤーズ・ブリッグスタイプ指標)を紹介しています。他にもVIAのThe Power of Character Strengths等の個人の強みを判断するツールがあります。日本語でもその他数多くのツールが紹介されています。そのようなツールを使って性格をより客観的に分析し、チームで共有します。
メンバーがお互いをよりよく理解し共感できるようになることは、チームの障壁を取り除いていくのに役立ちます。
1-(4). 360度フィードバック
360度フィードバックは、上司だけでなく同僚や部下からフィードバックを得る仕組みです。日本でも360度フィードバックを取り入れる企業は増えてきていますが、信頼がないチームでは、報復を恐れたり、お互いにプラスの評価しかせず、建設的な評価が出来ません。
著者の意見では、360度のプログラムを機能させるための秘訣は、報酬や正式な業績評価から完全に切り離すことです。評価のためというよりはむしろ、能力開発ツールとして使用されるべきで、雇用者が有害な影響を与えることなく、メンバーが長所と短所を特定できるようにします。
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機能不全2:対立への恐れ
組織だけでなく、夫婦や友だち同士でも健全な意見の不一致や対立は必要です。
特に仕事面では、建設的で客観的な意見の不一致の共有がなかなかできず、会社の上層部に上がるほどこの傾向は強くなります。
健全な対立は長期的には時間の節約になります。情熱あふれる議論は優れたチームに不可欠です。しかし、多くのチームが「時間がかかるから」という理由で、意見の不一致について話しあう事を避けます。対立を回避するチームは、解決しない事で問題を先送りし、何度も何度も同じ問題に繰り返しぶちあたるので、結果的には膨大な時間とエネルギーを無駄にしています。
以下、対立を恐れるチームの特徴です。
- 会議が退屈
- 裏ルートで決まる政治と、多発する個人攻撃
- チームの成功に不可欠だが物議を醸すトピックスは無視する
- メンバーの意見や視点を活用できない
~ 機能不全2(対立への恐れ)を克服するためのアイデア ~
2-(1). 正しい対立の認識
対立が生産的であり、多くのチームがそれを回避する傾向があることをまずチームで認識する。
2-(2).「採掘者」の設定
チーム内の埋もれた意見の不一致を掘り起こし光を当てる「採掘者」の役割を設定し、勇気と自信のあるメンバーに任命する。
2-(3). リアルタイムでの中断
意見の対立にメンバーが居心地の悪さを感じた場合、中断して自分たちがしていることがなぜ必要であるか思い出させる。
2-(4). その他のツール
TKI(THOMAS-KILMANN CONFLICT MODE INSTRUMENT:トーマスーキルマン コンフリクト・モード検査)のようなツールを使い、対立(コンフリクト)を理解し、解決・解消するために診断を行う。
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機能不全3:コミットメントの欠如
優れたチームは明確でタイムリーな決定を下し、反対意見を持つメンバーも含めたすべてのメンバーから完全な支持(コミットメント)を得て前に進みます。
明確な決定をしない経営陣がもたらす深刻な結果は、組織の深いところに根付く解決不可能な不和です。これは、どの機能不全よりも、部下に危険な波及効果をもたらします。組織の上位にいる経営陣の間での小さなギャップは、下位の従業員に到達するまでに大きな差異に拡大します。
コミットメントの欠如の2つの最大の原因は、コンセンサスと確実性への欲求です。
● コンセンサスへの欲求
全てにメンバーのコンセンサスを求めることは危険です。優れたチームは、完全な合意が不可能な場合でも、全員の意見をきちんと聞き、賛同を得るための方法を見つけます。全員の意見を丁寧に聞く事で、グループが最終的に下す決定が何であれ、全員が納得でき前に進めるのです。
● 確実性への欲求
もはやビジネスに100%の確実性を求める事はできません。優れたチームは、決断が正しいかどうか保証がない場合でも、明確な行動方針を決め前進できます。
以下、コミットメントが欠如するチームの特徴です。
- 方向性と優先順位についてチーム間にあいまいさを残す
- 過剰な分析と無駄に決定を遅らせる事で機会を逃す
- 自信の欠如と失敗への恐れ
- 同じ議論を何度も繰り返す
- 会議や決定の後に蒸し返す
~ 機能不全3(コミットメントの欠如)を克服するためのアイデア ~
3-(1). 会議の最後に、会議で決定された事をはっきり確認し、参加者で合意する
従業員は、同じ会議に出席した複数のマネージャーから、一貫性がなく矛盾した発言を受け取ることに慣れています。仮に同じことを聞いてもそれぞれ違う解釈をする事もあります。
3-(2). 期限の設定
明確な決定をする事は大切ですが、それと共に明確な締め切りを設定共有し、規律と厳しさを持って順守する事も等しく大切です。
3-(3). 不測の事態と最悪のシナリオを描く
事前に不測の事態が発生した時にどうするか簡単に話し合っておく、又は、もし最悪の事態が起きた場合どうなるかを明らかにしておきます。そうする事で、仮に誤った決定をしても、想像したより損害がはるかに小さいことに気付くことができ、恐怖を軽減することができます。
3-(4). 数多くの小さいリスクに慣れておく
チームが十分な議論を行った後に、更なる分析や調査を行う事を止めて、リスクが低い事項からいち早く行動に移す事です。小さなリスクの場数を踏む事でより大きなリスクに対処できるようになります。
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機能不全4:責任(アカウンタビリティ)の欠如
チームを傷つける可能性のある行動、チームの利益に逆効果と思われる行動についての責任(アカウンタビリティ)です。優れたチームは、お互いを尊重し、お互いのパフォーマンスに大きな期待を寄せ、相互にそのパフォーマンスへの責任を負います。
以下、責任(アカウンタビリティ)を回避するチームの特徴です。
- 異なる基準を持つチームメンバーを腹立たしく思う
- 同調や平凡さを奨励する
- 成果物の定義と締め切りの欠如
- 唯一の情報源としてチームリーダーに過度の負担をかける
~ 機能不全4(責任・アカウンタビリティの欠如)を克服するためのアイデア ~
4-(1). 目標と行動指針の公表
チームメンバーがお互いに責任を果たしやすくするための良い方法は、チームが何を達成する必要があるか、誰が何をする必要があるか、そして成功するために全員がどのように行動しなければならないかを明確にすることです。
4-(2). シンプルで定期的な進捗レビュー
メンバーの目標と行動指針に関する簡潔なレビューを頻繁に行います。
4-(3). チームとしての報酬
報酬を個人のパフォーマンスからチームの成果にシフトすることにより、チームは責任の文化を作り出すことができます。
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機能不全5:結果に焦点がない
チームの究極の機能不全は、メンバーがグループの目標以外の事を最優先にする事です。 結果に焦点がないと、例えば単にグループの一員である事やそのステータスに満足し、チームを犠牲にして個人のゴールを優先させます。
以下、結果に焦点を当てていないチームの特徴です。
- 停滞し成長できない
- 競合他社を打ち負かす事ができない
- 目的達成志向の従業員を失う
- チームメンバーが個人のキャリアとゴールに注力する
- 散漫
~ 機能不全5(結果に焦点がない)を克服するためのアイデア ~
5-(1). 結果を公に宣言する
結果を公にコミットすることを厭わないチームは情熱的に結果を追い求める一方で、 「最善を尽くして頑張ります!」とプロセスを強調するチームは、意図的または無意識に失敗する事を前提にしていて、その準備をあらかじめしておき伏線を張っておきます。
5-(2). 結果ベースの報酬
チームメンバーが結果に注意を集中できるようにする効果的な方法は、報酬を特定の結果の達成に結び付けることです。結果がなくても「頑張る」だけで報酬が得られると、結果を出す必要はないというメッセージを与えてしまいます。
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以上、チームの5つの機能不全とそれに対処する方法の紹介でした。
機能不全克服のためにリーダーが出来る事は、ここに紹介した機能不全克服のアイデアを自ら率先して実行する事に尽きます。弱みや失敗を自ら率先して共有し、チームの意見の不一致に関して安易に口を出す事をやめ、結果的に間違いとなる可能性がある決断を自ら行うのです。リーダー自らが面目をつぶすリスクを負う事で、部下も同じリスクを取れるのです。