チームをうまくまとめる秘訣は色々紹介されています。しかし、その前段階であるチームの最初の立ち上げ方に配慮がなく、後になって取り返しがつかなくなる例は少なくありません。目的と必要なスキルを明確にした上で、必要十分なだけのメンバーを集め、最初にチームのルールを共有して進めます。
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チームをうまくまとめる秘訣は、①心理的安全性の確保、②相互信頼の醸成、③メンバー相互の積極的傾聴、④自律型チーム、⑤コンフリクトマネジメント、など数多く紹介されています。しかし、その前段階であるチーム立ち上げの仕方、そもそものチームの作り方は慎重に行われないどころか、あまりに軽率に決められてしまう場合も多いものです。
どんなにチームを効率的に動かそうとしても、そもそものチーム設計が間違って結成されてしまっては、その後どうあがいても目的を効率的に達成する事はできません。今回は効果的に機能するチームの作り方を紹介します。結成された後のチームのマネジメントのあり方についてはこちらの記事をご覧下さい。
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1.チームの目的を明確にする。そもそもチームを作る必要があるのか?
まずは、チームの目的を明確にする事ですね。私は今まで、何をするにしても目的を明確にする事が大切としつこいほど繰り返していますが(汗)、チーム作りも同様です。「何のためにチームを作るのか?」が大事です。
以前、「プロジェクトが失敗する理由:プロジェクトと目的設定の順序が逆」で、プロジェクトは、何らかの目的を達成するために立ち上げるのであり、プロジェクトを開始してから目的を設定するのではないと紹介しました。チームに関しても同様です。
まず第一に、そもそも、チームを作らない方が効率的なのに、わざわざチームを作ってしまうという根本的な間違いがあります。まず一人でできるような作業はチームで行わない。一人でできる作業は一人で行うのが最も効率的で、人数が増えるほど非効率になります。一人でやった方が効率的な作業を複数の人間でおこない、わざわざ非効率にしてしまうというのは実はよくある誤りです。
一人で行うのが良い作業は、例えば、専門的な知識が必要とされる作業や、分業が難しい作業、創造的な業務などです。これらの作業は、必要な能力を持つ一人の人が行うのが効率的です。一人で完結する割と単純な作業もそうです。仕事量が一人では消化しきれない場合でも、チームでやるよりは一人一人に仕事を振り分けてやる方が効率的です。
逆にチームで行う方がよい作業は、複数の専門知識を必要とする複雑な課題に取り組む場合や、幅広い視点が必要なタスク、複数の人間が参加するで相乗効果が期待できるタスクです。ただし、ある限られた場面でのみ複数の視点が必要なだけであれば、ブレーンストーミング等の機会にだけスポットで参加してもらい、常時メンバー化する必要はない場合もあります。
ランニングのように一人で行うスポーツでも、他のメンバーがいる事で相乗効果が発揮され記録が伸びるようなタスクもあれば、逆に周りに人がいるだけで煩わされたりプレッシャーがかかり、効率が落ちるタスクもあります。
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2.チームメンバーに必要なスキルを明確にする
次に目的を達成するためチームに必要なスキルを明確にします。チームをしっかり設計し、設計に基づきメンバーを組織する事です。
チームの目的はあるが、チームに必要なスキルを明確にしていない事はないですか?
チームに必要なスキルが分からなければ、どんなメンバーを入れればよいか分からないはずです。
よくある間違いが、取り合えず先にメンバーを決めてしまってから、そのチームで行う業務や分担を決めたり、スキルの足りないメンバーに半ば強制的に担当してもらうというやり方です。
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例えば、既存事業とは全く異なる新規事業開発を行うのに、既存事業しかやった事がなく、新規事業の進め方のノウハウのないメンバーで固めるという間違いがあります。更に新規事業開発は、メンバーの多様性が必要になる場合も多いですが、チームに必要なスキルの多くが欠けているだけでなく、逆に同じようなスキルやバックグラウンドを持ったメンバーが必要以上に入れてしまう事もあります。
「いや~、そう言われても、社内に人間がいないから。。」と言う反論もあるかと思いますが、本当に結果を求めるのであればメンバーを社内の従業員に限る必要もないですよね。社外のリソースを一切利用していない会社さんはほとんどないかと思います。チームでも社内に適材がいなければ社外のリソースを使う事も考えます。
足りないスキルに関しては、時間的余裕があるならば、社内の従業員をトレーニングして必要なスキルを習得してもらう事もできます。全く新しい事に挑戦するような場合で、必要なスキルがよく分からない場合もあるかもしれません。そのような場合は、社内外に相談しながら解決できる力があるメンバーにするとか、できるだけ自己学習能力を備えた成長マインドを持つメンバーにするなどの対応が考えられます。当然これらも立派なスキルです。
学習している時間が無いのであれば、既にスキルを持った社外のメンバーにチームに入ってもらいます。
社外からのメンバーに関しては、新たな採用や、他社のサービス、個人事業主を利用する事等が考えられます。働き方改革の流れから副業解禁となる会社も徐々に増えてきており、「副業」どころか「複業」とまで言われるほど個人の働き方も多様化し始めてきています。様々なバックグランドを持つ人達と様々な形態で共創できる環境とリソースが広がっていますので利用しない手はありません。
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私は海外業務経験が長いですが、日本企業の海外事業展開でもこのスキル不足の問題はよく起こります。海外事業には日本国内の仕事では必要とされない多くのスキルが求められます。
限られたスキル、しかも同じようなスキルの日本人で固めてしまい、本来チームに必要なスキルが穴だらけになっている。その結果大きな失敗をしてしまう。そもそも海外事業で必要なスキルを洗い出して事前に手当していない事が原因の発端です。
日本でも最近でこそジョブ型雇用の導入が広がってきていますが、チームに必要なスキルが明確になって初めてメンバーに必要なスキルが明確になり、ジョブディスクリプション(職務記述書)が作成できます。スキルが穴だらけのチーム組成になってしまうのは、基本的に社内の人材でなんとかしようとしてしまう日本型雇用の弊害でもあります。
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なお、役割には、ここまで述べた業務上の役割以外に、チーム内の社会的役割もあります。チームがうまく機能するためにそれぞれのメンバーが担う役割です。
社会的役割には、チームを勇気づける役割、チームに調和をもたらす役割、メンバー間の緊張を和らげる役割などがあります。
「起業の科学」の著者であり株式会社ユニコーンファーム社長の田所雅之氏は、チームに必要な役割を「ゴレンジャー」に例えて説明しています。つまり職務的な役割の他にゴレンジャーの5人のようなそれぞれに異なるキャラクターがチームには必要です。(1)
Google社の「People Analytics」部(人間解析部?)のダイレクターのブライアン・ウェル氏は、同様に「スタートレック」を引用しています。(2)
スタートレックチームには、地球人とバルカン人のハーフであるスポックまで登場しますから、これ以上ダイバーシティのあるチームはないでしょう(笑)。スタートレックのチーム構成に興味がある方は、こちらのキャスト紹介をご参照ください。。。
チームが成功するためには、必要な価値観を共有できるメンバーとする事が大切です。
例えば先に紹介したような新規事業開発チームには好奇心があるメンバーが必要であり、チーム内の自由な議論を可能にするためには心理的安全性を確保するための基本ルールに従って行動できる素地が必要になります。これらもスキルになりますね。
図:ベストチーム:メンバーの社会的役割(イメージ図)
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3.必要最小限のメンバー構成にする
ここまでで、チームの目的と必要なスキルを明確にしました。
その情報を元にメンバーを揃えていきますが、メンバーはできるだけ必要最小限とします。よくある間違いが、繰り返しになりますが、必要なスキルを持ち合わせていないメンバーを入れる事であり、また、同じスキルを持つメンバーを必要以上に入れる事です。
必要なスキルを持ち合わせていないメンバーを入れても、手持ち無沙汰になるか、不必要な混乱が生じるだけです。
チームに同じスキルを持つメンバーが過剰にいる場合、また必要なスキルがないメンバーがいる場合、やる気や能力の高いメンバーに仕事が集中し、ほとんど仕事をしない人が出てきます。これを社会心理学では「社会的手抜き(social loafing)」と言います。経済学上は「フリーライダー(ただ乗り)現象」と言われます。
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社会的手抜き(social loafing)の研究は、リンゲルマン(Maximilien Ringelmann)による綱引きの実験から始まりました。綱引きは人数が増えるほど、一人当たりの努力は軽減するというものです。下のグラフは、その実験結果ですが、8人のチームでは、一人で綱引きをする場合に比較し、一人当たり半分の力しか発揮できていません。社会的手抜き(social loafing)は、リンゲルマン効果(Ringelmann Effect)とも言われます。
図:リンゲルマンによる綱引きの実験の結果, © Teslawlo at English Wikipedia
社会的手抜きが発生する要因には、以下の様な環境要因や心理的要因から発生する動機付けの低下があります(Wikipedia:社会的手抜き)。
- チームとして評価されるが、メンバーが個々に評価される可能性が低い環境。
- 優秀なチーム内にあって、自分の努力の量が報酬に影響しないなど、努力への動機が弱い環境。
- あまり努力をしない集団の中では、自分だけ努力するのは馬鹿らしいという心理から、集団の努力水準に同調する。
- より優れたメンバーがいる事で当事者意識が薄くなる。
社会的手抜きを防ぐ方法としては、チーム全体での評価のみでなく、メンバーそれぞれの責任・アカンタビリティを明確にする事です。しかし根本的には、必要以上の人間を入れない事です。小規模でムダなく効率的に設計されたチームでは、メンバーそれぞれがポテンシャルを発揮しない限り目的を達成する事は出来ず、社会的手抜きをしている余裕はありません。
研修やセミナー等でいくつかのグループに分かれて課題を行うような事は良く行われますが、一つのグループの人数が多すぎると、メンバーの貢献度に差が出てきますね。一部の人たちが作業に貢献するだけで、テーブルの脇でほとんど眺めているだけの人も出てきます。これはメンバーに能力がないというよりは、作業に対してメンバーの数が過剰な事で起きる事象です。
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また、必要以上の人間を入れる場合の別の悪影響として、プロセス・ロスがあります。チームの成果には直接寄与しない管理業務に労力と時間を取られるようになります。チームが大きくなるにつれて、プロセス・ロスも増大していきます。
Amazonの創業者ジェフ・ベゾスが提唱したチームのルールに、有名な「ピザ2枚ルール」があります。1つのチームはピザ2枚を囲める人数以下にするというものです。具体的には5人から7人位です。
NASAはシミュレーション研究を使用して、チームの規模と月面での生存との関係を評価しました。この結果、最大5人のチームが最善の決定を下すことが分かりました。
Google社が最高クラスの人材しか採用しないのは有名です。能力や熱意の低い従業員は、管理のための多くの労力を必要とするのみでなく、優秀な人材の足を引っ張るからです。Google社はプロセス・ロスを極限まで減らした企業と言えるかもしれません。
チームで仕事の進めるための仕組みにはスクラムもあります。スクラムは、複雑なプロダクトを開発し持続するフレームワークです。スクラムチームのメンバーは3人から9人程度です。(3)
スクラムガイド(The 2020 Scrum Guide TM)でも、スクラムチームは、機敏性を維持するのに十分なほど小さく、スプリント内で重要な作業を完了するのに十分な大きさで、通常は10人以下と述べています。一般的に、小規模なチームの方がコミュニケーションがよく、生産性が高い事が分かっています。チームメンバーが多くなり過ぎる場合は、複数のまとまりのあるチームに分割する必要があります。(4)
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4.グラウンドルール(規範)の設定
グラウンドルール(規範)は、チーム内のメンバーに期待される行動を示したルールです。規範には明示された規範(Explicit Norm)と隠れた規範(Implicit Norm)がありますが、グラウンドルールはチームで共有される明示された規範です。
グラウンドルールは、チームがうまく機能するための重要な下地であり、チームのパフォーマンスの鍵となります。例えば、規範に反して、遅刻したり締め切りを守らないメンバーは、チーム全体のパフォーマンスに大きな負の影響を与えます。
チーム形成時に、基本的なグラウンドルールを作ります。事前にリーダーが大枠だけ作っておく事もありますが、可能な限りメンバーで話し合って作り上げます。
運用の過程でうまく機能しない規範があったり、問題があれば、必要に応じて見直していきます。隠れた規範は出来るだけメンバー間で明示化する事が望まれます。
チームでの問題解決や規範の継続的な改善を可能にする自律型組織とするために、チームには心理的安全性の確保が必要になります。
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以上、チームの作り方のポイントを紹介しました。
日本企業の生産性が世界の中で年々低下してきている要因の多くは、スキル不足やスキルのミスマッチ等、今回紹介したそもそものチームの作り方のような、組織の上流側の問題にあります。最初に述べたように、そもそものチーム設計が間違っていて、その間違った設計に基づいてチームが結成されてしまっては、その後どうあがいても目的を効率的に達成する事はできません。最初のボタンの掛け方を見直す事が必要です。
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参考文献
(1) 田所雅之, “スタートアップの最強組織づくりは、あの特撮テレビドラマに学べ!”, ダイヤモンド・オンライン, 2020/12
(2) Cade Massey, Brian Welle (podcast), “Effective Teams and Managers: What Google Has Learned“, Wharton Business Daily Wharton School of the University of Pennsylvania, 2016/5
(3) Vytas Butkus, ”Too Big to Scale – Optimal Scrum Team Size Guide”, Toptal, LLC
(4) Ken Schwaber and Jeff Sutherland, “The 2020 Scrum Guide TM“, © 2020 Ken Schwaber and Jeff Sutherland