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なぜ企業は従業員のモチベーションを奪うのか?Just don’t demotivate us!

  • 投稿カテゴリー:組織が変わる
  • 投稿の最終変更日:2024年4月21日
  • Reading time:11 mins read

いかにして従業員のモチベーションを高めるかは、常に企業の重要な関心事です。しかし、もっと大事なのはもともとモチベーションが高い従業員のやる気をいかに削がないかです。悲しいかな、多くの企業が、従業員からモチベーションを奪っておきながら、うちの従業員にはやる気がないと嘆いています。

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はじめに

最近、モチベーションに関する記事を2つ書きました。
ひとつはモチベーションの仕組みや分類についてもうひとつはお金と仕事のモチベーションの関係についてです。

仕事のモチベーションは、いかにして従業員のモチベーションを高めるかという視点で語られることが多く、多くの専門家やメディアがそのための様々な方法を提案しています。
感動的なスピーチ、公平な評価制度、インセンティブの導入、イベントの企画、心理的安全性、仕事の場所や時間の自由度の向上、研修機会や福利厚生の充足などです。

しかし、そもそもモチベーションが高い従業員にとってもっと大切なのは、その高いモチベーションをくじかれることなく、会社と自分の目標の達成に向かって、仕事に取り組み続けられるかどうかです。

つまり、従業員のモチベーションで最も大事なことは、もともとモチベーションの高い従業員のモチベーションを下げないことです。

残念ながら、モチベーション、モチベーションと騒ぎながら、現実には、モチベーションを上げるどころか、やる気ある従業員のやる気を削ぐ企業がほとんどです。そして、やる気を奪い取っておきながら、「うちの従業員にはやる気がない」と嘆く企業のなんと多いことでしょう。これを書いているのは4月中旬ですが、高いモチベーションをもって入社した新入社員がやる気を奪われ、早くも退職し始めているというニュースさえ目にします。

今回は、従業員のモチベーションを高めるという視点ではなく、従業員がもともと持つ高いモチベーションをいかに保つかという真逆の視点から見ていきます。そして、悲しいかな、実際には企業がやる気ある従業員のモチベーションをいかにして削り取っていくか、その実情を紹介します。

この手のトピックスは、例を挙げ始めるとほんとにキリがなく、無限に書き続けることができるほどですが(笑)、なんとか13点に絞りました。では紹介していきましょう。

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やる気ある従業員の高いモチベーションを削り取る会社の取り組み

1.不必要な手順や会議を積み重ねる

長く、退屈で、なにも生まれない会議。アリバイ作りのためのコンプライアンス業務。
増え続ける非生産的な手続きの数々に、会社が作った手順のために仕事をしているんじゃないかと錯覚するほどです。

モチベーションの高い従業員は、限りある時間をできるだけ成果に結びつけるための作業に費やしたいと考えます。そのため、不必要な手順や過度のルール化、意味のない会議はモチベーションを下げる要因になります。

企業は、それらが仕事に有害であることを認識しなければなりません。次から次へと無駄な手順を積み上げて従業員の時間を奪う管理者は、自らの非効率さを認識しなければなりません。
従業員から時間を奪うのではなく、組織の目標を達成するために、従業員にどう時間を与え、どう有効に利用してもらえるか、どう行動づけられるかを自問すべきです。

もちろん仕事に規則は必要です。誰が何をするのかという明確な役割分担や判断基準、秩序や規律を守るためのルールは間違いなく必要です。しかし、それらはあくまでも仕事をする上での土台に過ぎません。

意味のないルールに従わなければならなかったり、制約が多すぎると、人間の根源的な欲求である主体性や自主性が損なわれていきます。

また、安易な手順化や過度のチェックリスト化は、「手順に従っておけばいいんでしょ」と、従業員から責任感や考える力も奪っていきます。チェックリストの形骸化によって引き起こされた事故や問題の数々をニュースを見ることも珍しくありませんね。

2.マイクロマネージする

前項にも共通しますが、マイクロマネージは、仕事ができない従業員に仕事をさせるには効果があるかもしれませんが、仕事ができる従業員にとっては有害でしかありません。
トップ・パフォーマーは、抑制されることではなく、自由度を与えられることを望んでいます。彼らをコントロールしようとして、勢いを殺したり、時間を奪ってはいけません。

また、不思議なことに、仕事のできる人にはあれやこれやと細かく要求するくせに、仕事ができない人にはむしろ放任主義で、その結果、問題を大きくして噴出させるマネージャーもいます。

3.仕事の方向性を勝手に決める

あれやこれやとマイクロマネージする一方で、重要な意思決定からキーパーソンを外すという不思議な事態が起きることもあります。
モチベーションが高く能力の高い従業員は、重要な意思決定から外されると、単に蚊帳の外に置かれていると感じるだけではなく、侮辱されていると感じます。
さらに問題なのは、そのようにして下された決定がたいていズレていることです。自分が関わることなく決められた的外れな指示に、従業員はいっきにやる気を失うのです。

4.真剣に読むつもりのない報告書を作らせたり、まじめに実施するつもりのない計画書を作らせる

日本企業には「やったふり症候群」が蔓延しています。ほんとはやりたくないけど、社会的に求められているからとか、他の会社もやり始めたからという理由で、形式上導入し、やったふりをしておくことです。
その影響を受けて、従業員は読むつもりもない報告書を作らされたり、実施するつもりもない計画書を作らされることもありますが、何日もかけてやった仕事が、誰の目に留められず、サーバーに保管されているだけだと気づけば、自分の価値を見失っていきます。

5.不誠実または公正でない言動やあいまいな言動をとる

リーダーシップのないリーダーは、企業のためでなく自分のために働きます。部下の業務に必要な情報を抱え込んで共有しなかったり、手柄を横取りしたり、不当な評価をしたり、自分のミスや認識不足の責任を押し付けたりします。
また、不明確なメッセージを発信して混乱させたり、部下の活躍を阻んで自分のポジションの確保を最優先します。

真のリーダーは正直さと誠実さを備えています。従業員や部下の前で自分の責任を正直に認めることができれば、彼らから尊敬とコミットメントを勝ち取ることができますが、残念ながら、現実には、謙虚さや謙遜は、ごく一部のリーダーにしか備わっていない特性です。

会社のリーダーたちに完璧な謙虚さを求めることは無理だとしても、会社の最高責任を持ち、最高給与を得る人たちなのですから、せめて従業員を妨害したり、裏切ることだけはやめてほしいものです。
経営陣や上司から「してやられた!」と感じた場合、従業員は降りかかる火の粉を避けるための防御に全力を注ぐよう行動を変えていきます。

6.会社の目的を実現することよりも、自分の地位を守るために従業員を利用する

これも前項と同じですね。ただし、自分の地位を守ろうとする管理者たちだけを責めることはできません。会社にはそのような政治的な駆け引きがうまい人が成功する不文律の「成功のルール」があるからです。しかし、モチベーションが高く成果をあげようとする従業員は、その「成功のルール」に沿った行動は取らないのです。

7.従業員のモチベーション管理は、HRや人事部門の仕事だと思っている

従業員のモチベーション管理は、仕事の特性にかかわらず、すべてのリーダーの仕事です。
「給料が安くて、部下のモチベーションが上がらない」とか「うちの従業員はモチベーションが上がらないのは、人事施策が他社より遅れているからだ」などと他部署のせいにする前に、自分に問題がないか考えて下さい。

8.質の低い仕事を強いる、責任を取り外す

意識の高い従業員は、その忙しいスケジュールにかかわらず、「手を抜くこと」や「雑な仕事を強いられること」を嫌がります。自分の仕事に対するプライドを奪われた従業員は、モチベーションを失います。彼らにとって、退屈な仕事を強いられることほど辛いことはありません。
また、責任感ある従業員から、責任を奪ってはいけません。彼らは責任をもって質の高い仕事を遂行したいのです。

9.やたらと従業員意識調査をおこなう

従業員調査が有効なのは、エンゲージメントやモチベーションを高めるための何らかの施策や企業努力をおこなった後で、それがどのような違いを生んでいるかを知りたいときです。
しかし、そのような取り組みを何もしていないのに定期的に従業員調査をおこなう会社があります。
体重計に毎日乗るだけでは体重が減らないように、定期的に測るだけではモチベーションは上がりません。

また、定期的に調査する割には、フィードバックも改善策も伝えません。
もともとモチベーションの高い従業員は、改善すべき点を明らかにしたり、新たな行動に結びつくようなフィードバックを求めています。例えそれが少々批判的であっても、むしろ、挑戦し、やる気を引き出すのに役立つのです。

10.不十分すぎる評価

大きな成果を収めた従業員に対して、インセンティブを与えるものの、それが低すぎて、裏目に出ることがあります。評価されたというよりは、努力が理解されていないとか、侮辱されたと受けとめることさえあります。

英語で、ペニー・ワイズ・アンド・ポンド・フール(penny wise and pound foolish)と言う言葉がありますが、日本語では「安物買いの銭失い」でしょうか。

ある調査研究によると、70%もの従業員が、金銭的な報酬がなくても、上司がもっと頻繁に「ありがとう」と言ってくれるだけで、モチベーションやモラルが大きく向上すると答えています。心のこもった感謝の気持ちに代わるものはありません。褒めるのはタダですし、大金を払う必要もありません。

逆に、過小評価されていると感じたり、自分の貢献が正しく理解されていないと感じると、やる気をまったくなくしてしまうほどの逆効果をもたらします。むしろ余計なことはせず、何もしない方がまだましです。

11.無意味な先延ばし

物事を寝かせておけば、勝手に何かが進展するとでも思っているのでしょうか?

12.何が起きているのか、何をしようとしているのか分からない

コミュニケーションが悪すぎて、従業員は、そもそも会社が何をしようとしているか、他の人たちが何をしているのかも分かりません。人の話を聞こうとしないから、逆に会社も従業員が本当は何を考えているのかも理解していません。自分の話を聞いてもらえないことは従業員にとってモチベーションを下げる大きな要因です。

13.有害な職場環境

いくら優秀な従業員といえども、ひとりで成果を出すことはできません。
同僚との良好で強い人間関係、共通の目標に向かってお互いつながっているという感覚は重要です。

逆に、腐ったミカンは他のミカンも腐らせます。誰かが、虚偽の報告をしたり、ミスを隠蔽したり、重要な事実を省略したり、あることを言いながら別のことをしたり、責任転嫁するようになって、それを同じミカン箱の中で放っておくと、他の従業員も同じようになり、それが常態化していきます。

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まとめ

結局、モチベーションの高い従業員がやる気を失うのは、経営者や管理者など、マネジメントの問題です。
問うべきは、なぜ従業員はモチベーションが低いのか?ではなく、なぜ従業員にかつてはあったモチベーションが失われたのか?です。従業員が勝手にモチベーションを失ったわけではなく、組織やリーダーが従業員からモチベーションを奪ったのです。これをよく考えてみてください。

リーダーシップは、従業員が持つ高いモチベーションを保つために不可欠です。モチベーションを奪う管理者は、自分自身が会社の目的達成への高いモチベーションを持っておらず、自分自身を守るモチベーションにより支配されています。

仕事を成し遂げるための努力はせず、仕事を避けるために努力する。
仕事を成し遂げるための努力はせず、仕事をうまく報告するための努力をする。

リーダーシップが欠けたリーダーは、チームに悪影響を及ぼし、従業員は士気を失います。 リーダーには、チームを管理するための柔軟で包括的なアプローチと、自信と自主性を与えながら明確なコミュニケーションを取る能力が求められます。

経営者やマネージャーといえど、完ぺきではありません。うまくいかないこともあります。しかし、うまくいかなくても、少なくても姿勢や態度を示すことが重要です。その姿を部下たちは常に見ています。

以前紹介した自己決定理論(Self-Determination Theory)では、自律性有能性関係性が、人の3つの基本的な心理的ニーズです。逆にこれらを奪い取ることが、モチベーションの高い従業員には大きなダメージになります。
自己決定理論では、いかなる動機もない状態をアモチベーション(amotivation)と言いますが、モチベーションの高い従業員がこの状態に陥れることは避けなければなりません。

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最後に何冊か本を紹介しましょう。
モチベーションやアモチベーションを実務レベルで分かりやすく知りたい方は、次の「Motivate to Win: How to Motivate Yourself And Others(邦訳)勝つためのモチベーション:自分と他人のやる気を引き出す方法」がシンプルにまとまっていてお勧めします。問題は日本語版がないことですが、平易な英語で整理されていて、読みやすいと思います。

また、以前も紹介した自己決定理論(Self-Determination Theory)をベースにしたダニエル・ピンク(Daniel H Pink)の「Drive(邦題)モチベーション 3.0」は言うまでもないモチベーションのベストセラーであり名著です。モチベーションをより深く知りたい方はご覧ください。日本語で読むことができます。

モチベーションやアモチベーションをさらに深く、より広く包括的に知りたい方は、以前も紹介した、自己決定理論の開発者であるリチャード・M・ライアン(Richard M. Ryan)とエドワード・L・デシ(Edward L. Deci)2017年の共著「Self-Determination Theory : Basic Psychological Needs in Motivation, Development, and Wellness」や、オックスフォードハンドブックシリーズの「The Oxford Handbook of Work Engagement, Motivation, and Self-Determination Theory 」をご覧ください。どちらも日本語版はなく、また値段が張りますが、内容は無茶苦茶濃いです。


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