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日本と北欧:幸福度に大きな差があるのに、意外に多い共通点

  • 投稿カテゴリー:人が変わる
  • 投稿の最終変更日:2024年10月22日
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北欧の国々は幸福度で常に上位にランキングされます。一方、日本のランキングはあまり高くありません。意外に思われるかもしれませんが、実は日本と北欧の国々には多くの文化的な共通点があります。今回はその共通点と、共通点が多くあるのにもかかわらず、幸福度ランキングに差がある理由を探っていきます。

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はじめに

以前本サイトで「求めるものが高すぎる。フィンランドが7年連続幸福度ランキング1位の理由」という記事を書きました。北欧の国々は、毎年、幸福度ランキングで上位を占めていますが、なぜそれらの国々は幸福度が高いのか、その理由を考察しました。

一方で、日本の幸福度はあまり高くなく、北欧諸国と幸福度ランキングでは大きな差がついています。意外に思われるかもしれませんが、実は日本と北欧の国々の間には多くの文化的な共通点があります。今回はその共通点と、共通点が多くあるのにもかかわらず、幸福度ランキングに大きな差がある理由を探っていきます。

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日本と北欧の国との共通点

一般的に、日本とアメリカやヨーロッパなどの欧米諸国の文化は大きく異なると理解されていますね。その違いについては、学術的なものから一般的なものまで、数多くの本や論文が出版されています。皆さんもその違いをいくつか挙げることができるでしょう。

日本の戦後の経済成長を支えたのは、先進技術の発達、企業の長期的視点、高い教育レベル、合意に基づく意思決定、労使関係の調和、大企業と政府との協力関係、そして、個人よりも集団を優先し、権威を尊重する文化、献身的な労働意識などでした。
そしてこれらは今でも欧米諸国とは異なる日本特有の特徴だと考えられています。

しかし、この特徴は日本だけに当てはまるわけではありません。実はスウェーデンにも当てはまります。その特徴がまさにスウェーデンの経済成長をも支えました。日本とスウェーデンには、共通するいくつかの社会的、文化的特徴があるのです。

礼儀正しさ、受動性、協調性、権威への服従、面目を失うことの恥ずかしさ、内気さ、社交性の欠如、紛争回避、感情を表に出さない性格、合理性の重視、中流意識などなど、これらは「典型的な日本人」の特徴でもあり「典型的なスウェーデン人」の特徴でもあります。「スウェーデン人はヨーロッパの日本人だ」と言う人がいるほどです。他のスカンジナビア諸国にも当てはまりますが、スウェーデンのほうがより多く当てはまるかもしれません。

まず、日本とスウェーデンやその他の北欧の国々にどれほどの共通点があるのか、具体的に見ていきましょう。(1)

なお、スカンジナビアとは、スウェーデン、ノルウェー、デンマークの3国を指し、それにフィンランド、アイスランドを加えたのが北欧諸国(北欧5か国)です。

1.村社会の伝統と規則

日本は文化と思想において、ラテン系よりもゲルマン系に近しいです。ゲルマン社会と日本社会では、農村から近代文明への道筋に共通点があります。その文化や価値観は、共同体的かつ束縛的な村社会の伝統と規律に由来しています。

どちらの国も文化的には後発国であり、比較的最近になるまで都市化が進みませんでした。また、スカンジナビアと日本はどちらも国土が征服された歴史がないため、村落文化の多くを今に至るまで維持しています。

2.合意形成

社会や政治や組織では、合意形成の原則、つまり、コンセンサス主体の意思決定が根付いています。スウェーデンでは、日本の稟議に似たシステム、すなわち企業内で議案の回覧を通じて合意が形成されるシステムがあります。スウェーデンでは、問題を解決するためにチームを作りますが、これは日本的なアプローチでもあります。

3.集団心理、権威への服従

両国間の最も顕著な類似点は、集団心理です。典型的なスウェーデン人は、自分を個人主義者だと思っていますが、実際の態度や行動は、個人よりもむしろ集団をはるかに気にしています。この点で、日本人とスウェーデン人の態度には多くの共通点があります。
スウェーデン人は、権威や規則に対する不満を口に出すことが多いにもかかわらず、実際はそれに従うことも多いです。自分を偉大な個人主義者と称するわりには、権威に従い、規範を受け入れ、上からの命令に従順である傾向があります。日本人も同様ですね。

また、謙虚さ、礼儀正しさ、丁寧さといった行動基準とは別に、集団思考への強い社会規範があります。
コロナのパンデミック中にマスクを着用していたのは、 罰金回避や感染予防の意図ももちろんありますが、社会的エチケットの意味合いも強く、着用しないと周囲から追放されるからです。

4.調和と紛争回避

どちらの国でも、誰かが喧嘩を仕掛けてくるような状況に陥ることはあまりなく、争いを嫌います。調和を保つことが最善のアプローチとみなされています。

5.労働倫理

どちらの社会も高い労働倫理と義務感に基づいて築かれています。ただし、これは特に「スウェーデン的」ではなく、むしろゲルマン的またはルーテル主義(ルター派)に由来しています。

ルター派は16世紀初頭、カトリック(ローマ教会)の堕落を批判し、聖書に帰れと、ドイツで始まり北欧に広がりました。北欧諸国は17世紀から20世紀初頭まで、完全にルター派が浸透し、社会民主主義の福祉国家の基盤になりました。ルター派の信仰は、もともと地域にあった共同体主義や文化とよく合致しており、信仰がそれをさらに後押ししました。
1930年代から1980年代の黄金期において、北欧の福祉国家と社会民主主義の政治経済システムの発展にルター派の倫理が大きな役割を果たしています。強い労働倫理、男女平等、社会民主主義に表れるその他の北欧の基本的な価値観も、ルター派の倫理から派生したものです。(2)

6.謙虚さ

どちらの国民にも、他の国の人たちにはない謙虚さがあります。
スウェーデンでは以前も紹介したヤンテローベン(Jantelagen)がそれを保証し、日本では厳しい階層構造や社会規範がそれを保証します。

7.内気さと遠慮

スウェーデン人と日本人はどちらも、知らない人に会うと最初は内気で遠慮がちです。もちろん、個人差はありますが、他の国々と比べると外向的、社交的だとは決して言えません。両国とも、友情を育むには時間がかかり、逆に十分に育まれた友情は、他の多くの外向的な国よりも強いのが特徴です。

スウェーデン人も日本人も、他人との垣根を打ち破るために、アルコールを利用します。ちなみに、これは男性にも女性にも同様に当てはまります。日本とスカンジナビア諸国を除いて、男女が仕事の後に一緒に飲みに行くのが一般的な国はほとんどありません。

8.感情を表に出さない

もう1つの共通する特徴は、感情をあまり表に出さないことです。
どちらの国民も、一般的に、静かで控えめで内向的であり、他の国の人たちほど外向的ではありません。とても礼儀正しいですが、友好的または親切ではなく、冷たく堅苦しく見えるほどです。むしろ、ほとんど話さない静かな人ほど、ベラベラしゃべる人よりも、有能で、思慮深いと思われる場合さえあります。

ここでも、両国の人たちは、感情をオープンに表すために、アルコールに頼らざるを得ないかもしれません。

9.中流意識

日本人のほとんどが自分を中流階級だと考えています。スウェーデンでは、階級を重視することはほとんどなく、上級管理職も労働者も非常に似たような生活スタイルを維持しています。これは、スウェーデンの税制によって強化されており、実際の収入に関係なく、すべてのスウェーデン人の所得をほぼ同じレベルに抑える役割を果たしてきました。

10.リスク回避

向こう見ずな人はあまりいません。どちらも用心深く、慎重な判断を求めます。また、徹底したプロセス指向です。
両国のエンジニアチームと一緒に議論したことがあれば分かるかもしれませんが、新しいバージョンに異なるグレードの材料を使用するかどうかを決定するために、丸1日を費やすことがあります。そして、決定が下されると、完璧さを求めるためのさらに長い次のプロセスに移っていきます。

11.洗練・品質・自然

両国の人たちが、他の国では問題なく機能するものを、粗悪品としてばかにするでしょう。両国ともにとても高い品質志向、そして細部の仕上げへのこだわりがあります。自国の製品にプライドを持ち、他国の低品質のものや下品なものを見下す傾向があります。

スカンジナビアと日本のデザインを融合したものをジャパンディ(Japandi)と呼び、最近注目されています。装飾要素を必要最低限​​に抑えたシンプルかつ、自然素材を生かし調和と本物らしさを加える高品質なデザインです。デザインを超えて、日本の禅とヒュッゲのミニマリズムが混ざりあっているとも言えるでしょう。

12.自然主義

スカンジナビアの国々も日本も自然に対する畏敬の念を持っています。自然とのある意味ロマンチックな、あるいは精神的な絆があると言っても過言ではありません。日本には「森林浴」という言葉がありますが、スカンジナビアの人たちも、よく森の中を散歩します。これは、他の西洋諸国にはあまり当てはまりません。

13.ヴァイキングとサムライ

最後に、ヴァイキングとサムライは、歴史上最もユニークな戦士たちです。まったく正反対でありながら、同じ「名誉」という概念を共有しています。サムライは教養があり、規律正しく、表現力豊かでしたが、ヴァイキングは無謀で野蛮で凶暴でした。しかしどちらも、名誉ある死を望んでいます。侍は不名誉に生きることよりも死を選択しましたが、ヴァイキングの目標も、戦士として、戦いの中で死ぬことでした。

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北欧人と他の西洋人との違い

では、スカンジナビアの人たちは、他の西洋人とは何が違うのでしょうか?

スカンジナビア(スウェーデン、ノルウェー、デンマークの3国)、そしてフィンランド、アイスランドも加えた北欧諸国は、間違いなくヨーロッパの一部です。

しかし、彼らを他の大陸のヨーロッパ人と異なるものとして特徴づける要因がいくつかあります。
それは、人の同質性です。かつてスカンジナビア半島の最北端に住んでいた遊牧民であるラップ人やフィンランドで多数派のフィン人を除けば、ほとんどは北欧人種です。このグループの同質性によって、かつては同一で今でも相互に理解できる言語、類似した文化や伝統、宗教観が共有されています。

また、デンマークを除いて、北欧諸国は海によって他のヨーロッパ諸国から物理的に隔離されています。
スカンジナビアは厳密には島ではなく半島ですが、この地理的な条件は、たとえば英国(ちなみに、英国の大部分は北欧系の人々です)に見られるのと同じ「島国精神」を生み出しました。国民的アイデンティティと文化に誇りを持っており、世界の他の地域にあまりに溶け込むとそれを失うのではないかと恐れています。

また、別の地理的な条件に起因する特徴もあります。北欧人は、ヨーロッパの最北端に住んでおり、他のヨーロッパ地域よりも常に厳しい気候条件で生活しています。季節の移り変わりを敏感に感じ取り、さまざまな祭りで祝います。

キリスト教以前のスカンジナビアは、他のヨーロッパの地域とはかなり異なり、多神教を特徴としていました。
スカンジナビアはヨーロッパにおけるキリスト教以前の信仰の最後の砦でした。北欧諸国の中で最も保守的なスウェーデンでは、12世紀まで正式にキリスト教化されませんでした。ヨーロッパの大陸側の国々では、それまで約1,000年にわたってキリスト教の考えを元に文化が形成されてきた歴史があります。

先ほど16世紀の宗教改革後、北欧諸国にルター派の強い影響がもたらされたと紹介しました。カルヴァン派のヨーロッパのように資本主義を奨励するのではなく、ルター派は北欧世界で社会民主主義の福祉国家を推進しました。

しかし、今日、大多数は宗教に無関心です。国民の大多数は、スウェーデンではキリスト教以前の古い宗教的祭りを、よりカジュアルで非宗教的な観点から尊重することに関心を持っています。クリスマスショッピングやキリスト教の結婚式など、キリスト教の商業的側面が人気があるのも興味深い日本との共通点です。両国で人気のあるその他の祭りは、土着信仰に遡ります。

宗教に関心がなくなってきているというのは、社会保障が機能している裏返しと言えなくもありません。つまり、十分な支援を受ける人が増えるにつれ、教会に頼る人たちが減少していったとも言えるでしょう。

また、宗教は集団のアイデンティティでもあるので、均質な文化では宗教同士が競い合う必要がないという面もあるでしょう。さまざまな人たちが混在する社会では、社会的な優劣によって差別されたりするため、人々は信仰に執着することがあります。北欧諸国では、この影響ははるかに小さかったのです。多くの人が無宗教である日本にも通じる点でしょう。

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日本と北欧諸国との違い

ではなぜ、北欧諸国とこれほど多くの共通点があるのに、日本は幸福度ランキングでこれらの国に大きさ差を付けられているのでしょうか?

すでに紹介したように、精神的、文化的には共通するものが多いです。しかし、以前も紹介しましたが、北欧諸国に共通してある、所得の平等性、充実した社会保障、誰もがアクセスできる高いレベルの医療や教育、子育て支援、政府への信頼、低い貧困率、長い休暇などが、日本には欠けています。

また、日本と北欧諸国に共通してある要素でさえ、日本は度が過ぎています。エクストリームに振れ過ぎているのです。

以前、北欧諸国は、充実した社会保障によって、国民が物質的に困窮するのを防ぎ、ある水準以上の生活を提供して社会を下支えする一方で、行き過ぎた贅沢な生活を期待することを制限するような文化的志向があると説明しました。それは「中庸」にも通じる文化的志向ですが、今の日本はそのようなバランスを欠いているのです。

1.平等主義

スカンジナビアが日本とまったく異なるのは、女性の扱い方です。日本人男性は女性に対して横柄ですね(もちろん、全員がそうだとは言いません。。。一般論です)。スカンジナビア人は「台所は女性の領域」などといった日本の伝統的な考え方に、すぐに眉をひそめるでしょう。男女平等のみならず、スカンジナビアで広く見られる社会的な平等主義は、残念ながら日本ではあまり見ることができません。

2.強すぎる階層主義と権威主義、厳しすぎる労働環境

さきほど権威主義が両地域に共通してあると説明しました。しかし、日本の権威主義は強烈過ぎます。階層構造が強く、多くの人が肩書き崇拝者です。日本人は権威の指令に従って働きすぎです。北欧諸国の人たちも権威主義ではありますが、主張すべきところでは主張します。

また、北欧諸国は、年間を通じて長い休暇があり、ワークライフバランスが優れていることで知られています。これは、ワークライフバランスがうたわれるだけで実態が伴っておらず、いまだ過重労働さえ強いられる労働者が多い日本の労働環境とはまったく対照的です。日本では労働運動もほとんど機能していません。労使関係の調和というよりは、いまだ経営者が決めたものを労働者が受け入れているという構図です。

3.社会規範の遵守

日本では、社会規範に関する強烈な周囲からの圧力(ピアプレッシャー)があり、例え社会システムに問題があっても、それを変えようとするよりも、変えようとする人たちを非難する傾向が強い社会です。

4.社会福祉

日本の子どもの貧困率は今、OECD加盟国の中で最悪の水準にあります。子どもの貧困率は、1980年代から上昇傾向にあり、今日では実に7人に1人の子どもが貧困状態にあると言われています。(3)
北欧でも、移民の受け入れやその他の様々な影響により、子供の貧困率は増加傾向にはありますが、それでも日本よりは低い水準に抑えられています。北欧諸国には、子供に限らず、困窮したときに誰もが確実に助けが得られるように、政府のみでなく、社会全体にセーフティネットの考えが浸透しています。日本では弱者が社会的に孤立するケースも少なくありません。

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下の棒グラフは、The Culture Factorのツールを利用した日本とスカンジナビア3国との比較ですが、日本(グレーの棒)は、権力格差、達成や成功への動機、リスク回避、長期的思考が他の3国より高く、個人主義や楽しみの項目が低いのが分かります。特に、達成や成功への動機の日本の突出度はすごいですね。日本人の達成への動機は「生きがい:Ikigai」として外国でも知られるようになってきていますが、ある意味、ヒュッゲの対極にある概念です。これも幸福度の差と関係があるのでしょうか?日本人は自分に求めるものも高すぎるのかもしれませんね。

図:日本とスカンジナビア3国の文化比較

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さいごに

今回、スカンジナビアや北欧諸国と表現することで、これらの国々を一括りにしてしまったこともありますが、もちろんこれらの国々の中でも共通点もあれば、違う点もあります。

例えば、一般論で言えば、スウェーデンは、自然もありますが、都市で暮らすことを好みます。
デンマークも自然の比較的少ない小さな国でより都会的です。
一方、ノルウェーの人たちは自然の中で過ごすのが好きです。ノルウェーはヨーロッパのどの国よりも長い海岸線を持ち、海洋と天然資源に重点を置き、ほとんどの人が海岸沿いに住んでいます。

今回は特にスウェーデンを取り上げることが多かったですが、その共通点の多くはその他の北欧の国々にも当てはまるものです。

Finnish Nightmares(邦題)マッティは今日も憂鬱」というフィンランド人の女性が書いたフィンランド人に関する漫画があります。漫画の中の「フィンランド」を「日本」に置き換えて読んでも、あまり違和感がありません。

主人公マッティは典型的なフィンランド人で、シャイで人見知り、静けさと平穏、そしてパーソナルスペースを大切にしています。

マッティがマンションから出かけようと玄関のドアをかけると、同じ階の住人が廊下に見えたので、通り過ぎるまでドアに隠れてひっそりしているとか、マッティがバス停でバスが来たので手を挙げたら、違った行先のバスだったと気づいたけど運転手に間違ったとも言えずそのまま乗り込んでしまうなど、まるで日本人のようです(笑)。日本語版もありますが、平易な英語なので、ぜひ原書で読んでみて下さい。面白くてかわいい本で、あっという間に読み終わります。

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参考文献
(1) Michael Fredholm, Senior researcher, “Vikings and Samurai : Cultural and Economic Similarities between the Japanese and the Swedes“, Michael Fredholm, 1992.
(2) Robert H. Nelson, “Lutheranism and the Nordic Spirit of Social Democracy : A Different Protestant Ethic“, Aarhus Universitetsforlag, 2017/8.
(3) “子どもの貧困対策“, 日本財団

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