変化は常態です。世界は変化するのが当り前で、それが止まることはなく、昨日と変わらない今日はありません。ただし変化の度合いは一定ではなく、捉え方も人それぞれです。変化が急で大きいと、私たちは不安になって確かな昨日にすがりたくなります。私たちが変化に抵抗するのは、その先にあるものが見えないからです。変化は恐怖との対峙です。
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はじめに
- 「誰もが自宅にコンピュータを持つ必要はない」~ メインフレーム販売会社社長、1977年
- 「世界市場にはコンピュータを5台以上持つキャパシティはない」~ IBM会長、1943年
- 「自動車は新奇に過ぎない。馬で十分なんだよ」~ 銀行家がヘンリーフォードに諭した言葉、1900年
- 「君達の音はひどい。ギタリストに将来はない」~ デッカレコード責任者がビートルズに向けた言葉、1962年
上記はいずれも(1)、当時業界に君臨していた博識ある人達の発言です。今の世の新規事業担当者も、同じようなコメントを会社の役員から聞いたことを30年後に思い出すかもしれませんね。いつの世にも、新しいモノや考え方を否定し、受け入れることに抵抗し、現状にしがみついていたい人はいます。
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人はなぜ変化に抵抗するのか
今回、人はなぜ変化に抵抗するのか見ていきます。
その説明の前に、2つほど但し書き(注意点)があります。
1つ目の但し書きとして、すべての変化に人が抵抗するわけではありません。
例えば、給与倍増します!福利厚生を大幅に改善します!オフィスに今風のオープンスペースを設置します!勤務体系を自由にします!といった会社の変化は従業員から抵抗にはあいませんね。むしろ歓迎されます。
では、どのような変化が強い抵抗を生むでしょうか?
先が読めない変化、未知なるものへの対応、自分がついて行けるのか恐怖や不安を感じるような変化です。
抵抗は「恐れ」が生みます。変化は「痛み」を伴い、抵抗は痛みからの「回避」です。
2つ目の但し書きとして、以下のように、変化自体が合理的でなかったり、手順が悪いから抵抗されたり、人間関係の問題から感情的に抵抗される場合があります。
(1) 変革の取り組みやその方向性そのものが間違っていたり、リスクが大きすぎる
(2) 情報がない、コミュニケーションが足りない、正しく理解されていない、やり方が乱暴だったり、手順が悪い
(3) 待遇の悪化、経済的損失、利害の対立、仕事が増えるだけなど個人に明らかな不利益がある
(4) 担当してるあいつが気に食わない(笑)、あいつは信用できないなど、人間関係の問題や組織への不信感がある
以上のような場合を除いて「目的に対して変化が合理的で必要である」にも関わらず抵抗してしまう、そんな変化に、人はどのような理由で抵抗するのかを見ていきましょう。
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1.不確定、未知なるものへの不安や恐怖
VUCA(ブーカ)の時代と呼ばれて久しくなりました。不安定、不確実、複雑さ、曖昧さはいつの時代にもありますが、その度合いは増すばかりです。
いくら綿密に計画して丁寧に説明しても、それ自体が世の中の不確定さ、不確実さを解消するわけではありません。今まで物事をうまくコントロールすることで成功してきた人は、コントロール不能な課題に対峙するのを怖がります。私たちには、正常性バイアス、現状維持バイアス、確証バイアスがあり、今までやってきたこと、信じてきたことを信じ続け、強化する機能があります。それに相反する新しい情報は、私たちに認知的不協和をもたらします。
私たちの脳は不確定、不明確なものをそのまま保持することを嫌い、それを確かなものにするか、追い出そうとします。
私たちは「もっと良いけど不確実な未来」よりも「もっと悪いけど確かな未来」が好きなのです。
自分の中の一部分は先に進みたくても、自分の別の部分が(時に無意識に)抵抗します。変化を望む自分と望まない自分がいて、抵抗で動けないのは、望まない自分が勝っているからです。しかし、恐れや不安で立ちすくみ何もできないでいることは、状況をどんどん悪化させていきます。
解決のためには、まず、自分の中の「無意識」も含めて、不確実な未来に足を踏み出そうとする自分と、それを引っ張る自分、相反する自分が内在する事実を理解することが必要です。
また「挑戦志向」な人がいる一方で「安定志向」な人もおり、変化を受け入れ行動に移すには個人差があるのを理解するのことも大切です。
以前本サイトでも「変革を阻むUncertainty:不確実さのパワー(その1、その2)」で紹介しましたが、不確実さを軽減したり、ネガティブな側面にばかり目を向けるのでなくポジティブな側面を見ること、そもそも世の中は不確実だと受け入れることも重要です。
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2.失敗への恐怖
不確実な課題に挑戦することのリスクは、やってみないと失敗するか成功するか分からないことです。
確実なことへの挑戦であれば、やるべきことを事前に綿密に計画して、それを忠実に実行すれば成功を手に入れられます。実際に、そうやって多くの人が成功してきました。
そのような確実な成功を積み重ねてきた人の多くは、計画不能で失敗する恐れのある不確実な課題に挑戦する勇気がありません。失敗が怖くて、失敗して自分が築き上げたステイタスやプライドが傷つくことを恐れ、他人の評価に縛られ、面目がつぶされたり、人に見下されることを恐れるからです。
しかし、不確実な世の中はなくならず、世の中は止まっていてくれません。
失敗を回避し挑戦を避けようとするほど、事態は悪化していきます。失敗は成功のために必要不可欠なもの、数多く失敗を重ねなければ成功にはたどり着けないと捉えなければなりません。不安を乗り越えていけば、たとえ最初はうまくいかなくても、何か新しい学びや気づきが必ずあります。
「失敗」という言葉に抵抗があるのなら、それを「失敗」と呼ばず、その学びや気づきを「成功」と呼んで下さい。次のハードルを乗り越えられれば、また次の成功が待っているでしょう。
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3.過去の経験を頼る、慣れ親しんだ習慣に従う
今の世の中や価値観は、20年前、30年前とは大きく変わりました。
しかし、いまだに数十年前のやり方や成功体験にしがみつく人は驚くほど多いです。今までのやり方を長く続ければ続けてきただけ、それを変えるのは難しくなります。
おしりに火が付いてから初めて、「新しい取り組みをしなければ!」と重くなった歯車を急に無理矢理回そうとする組織は多いですが、慣れ親しんだが機能しなくなった錆びた歯車がそれを妨害します。軽い歯車に取り換える勇気が無ければ、新しい時代に対応できません。
過去のやり方で成功して評価されてきた人は、新しいやり方で成果を上がられるか確かでないため、現状を維持しようと抵抗するでしょう。人は意識的な判断より、無意識の判断が多く、知らず知らずに、今までの経験や習慣が自分自身の足かせになっているケースもあります。
運動しよう、たばこをやめよう、寝る前にお菓子を食べるのをやめよう、、、長く染みついた生活習慣や癖を変えるのが難しく時間がかかるように、定着したマインドセットを変えるには、ときに時間がかかり、継続的な努力も必要です。生活習慣病の克服や治療と同様に捉えて、まずは、変わらなければならない理由を自分で受けとめるのが第一のステップです。
仮に自分で乗り越えられた抵抗が過去にあれば、その時どうやって乗り越えられたのか思い出すのもヒントになるかもしれません。
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4.スキルや知見が不足していて追いついていない
世の中はどんどん変わっていき、私たちが必要なスキルも進化していきます。
手持ちのスキルと求められるスキルの差が広がるほど不安も大きくなりますが、私たちは、新しいスキルを習得しようとしません。
新しいやり方は学ばなければ身に付きません。私たちは、年齢や階層に関わらず、学び続ける必要があります。学習とは未知なる世界へ足を踏み入れることです。
学習をやめた人には、既存の見方や考え方を変えなければならない、その理由さえ理解できないかもしれず、気が付いたら取り残されているのです。
大手企業の経営者レベルでも昔の仕事のやり方、見方から抜け出せず、その上の段階に自らを引き上げられず、物事を様々な角度から見たり俯瞰的に見る事ができない人はとても多いです。
学ぶことをしていないから、いまだに30年前の自分のやり方が正しいと思っていて、それを疑うことも他人の意見に耳を傾けることもせず、なぜ変化が必要なのか本質を理解しません。
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5.集団作用
最後に、自分は変わりたい、変わる準備ができていると思っていても、社会や組織の集団作用によって変われないケースはとても多いです。集団思考、同調圧力、社会規範や組織文化、「空気」が個人と組織の変化を抑制します。
特に組織のトップが変化を望んでいない場合、たとえそれを公言していなくても、ふとした言動にそれが現れ、組織の変化を妨げる強烈な足かせになります。
日本社会や日本企業は、他の国々と比較して同調圧力がとても高いですから、実は多くの人が変化が必要だと感じていても、圧力によって声を上げることさえできないことも多く、その状態から抜け出すのは大変なのです。
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参考文献
(1) Joel Mana Gonçalvesa, Rejane Pereira da Silva Gonçalves, “Overcoming resistance to changes in information technology organizations”, Procedia Technology, Volume 5, 2012
(2) Cem Karabal, Edited by Ana Alice Vilas Boas, “Resistance to Change and Conflict of Interest: A Case Study, Chapter 7 of Organizational Conflict”, IntechOpen, 2017/12.
(3) Gustavo Razzetti, “This Is the Reason Why People Resist Change”, Fearless Culture, 2018/4.
(4) A. J. Schuler, Psy. D., “Overcoming Resistance to Change: Top Ten Reasons for Change Resistance“, Schuler Solutions, LLC, 2003.