企業が存続し成長を続けるためには、強い目的と信念、意志を持って社会課題に正面から取り組み、顧客や従業員、社会から共感される存在であること、パーパス・ドリブンな(目的に導かれる)会社である必要が増しています。
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パーパス・ドリブンとは
「パーパス・ドリブン(purpose driven = 目的に導かれる)」という言葉が聞かれる機会が増えてきました。
会社のパーパス(目的)は「会社は何のために存在するのか?」「会社で行う事の全ては、なぜ行うのか?」という会社の存在意義を示すものです。パーパス・ドリブンとは、その会社の存在意義を理念の中心に据える事です。
ビジネス環境の不確実さが増している事に加えて、環境問題や所得格差等の社会的な課題が深刻になってきており、多くの人がこのような社会的な課題に真剣に取り組む企業で働きたいと考え、その様な会社から商品やサービスを買いたいと思うようになってきています。特に若い世代の人たちほど、社会的な目的を企業に期待しています。また企業自身もそのような目的意識のある会社と取引したいと考えるようになってきています。
デロイト社の調査によると、目的に方向づけられた会社は、競合する会社に比較し、30%高いイノベーション、40%高い従業員のリテンション(定着)を達成しています。(1)(2)
その一方で、マッキンゼー社の米国企業で働く1,000人以上の参加者の代表に対する調査では、82%がパーパス(目的)の重要性を示す一方で、自社の掲げた「目的」が大きな効果をもたらしているとの回答は42%に過ぎないと報告しています。同社の別の調査では、「社会への貢献」と「意義のある仕事を創造する」が従業員の最も大きな二つの関心事ですが、企業のパーパス(目的)の多くが、ありふれた一般的な内容に止まり、それらに焦点を当てていないのです。(3)
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パーパス・ドリブン:Whyから始まる
TEDの数ある名講義の中で、サイモン・シネックの「優れたリーダーはどうやって行動を促すか」は、最も有名な講義のひとつで、今まで5,300万回以上も視聴されています。サイモン・シネックはWHY(なぜ)から始める事の重要性を説いています。
サイモン・シネックは、ゴールデンサークルを使って以下のように説明しています。
Why:会社が存在するパーパス(目的)、何のために会社が存在するのか
How:会社が存在するパーパス(目的)をどうやって実現するのか
What:Why、Howが最終的な形となって会社から提供されるもの
図:ゴールデンサークル
アップル社を例にとると「我々は、他人と違うアイデアを持つ事に価値があると信じ、我々が行う事全ては、現状維持にチャンレンジする事です(Why)。それを達成するために、我々は製品を美しく、かつ簡単に使えてユーザーフレンドリーに設計します(How)。こうして素晴らしいコンピューターが生まれました(What)」
このWhyから始まるアップル社のストーリーに人々は共感し製品を購入するのです。
逆にWhatから始まるストーリーは「我々の作るコンピューターは素晴らしく、美しいデザインで簡単に使え、ユーザーフレンドリーです。1台いかがですか?」となります。
メッセージの強さの違いを感じて頂けるかと思います。
しかし、多くのリーダーは、なぜ(Why)という遠く抽象的だが本質的な問いではなく、より目に見えやすく簡単で扱いやすい何(What)を、どうやって(How)にしか意識が向きません。
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パーパスの位置づけ
パーパスは道徳的かつ前向きなメッセージである事はもちろんですが、それだけでは足りず、顧客、従業員、その他のステークホルダーを含む社会全体の人たちの心に訴えかけるもの、従業員が心から共感でき、日々の行動の原則となり、緊急時や不確実な状況においても、その原則に従って行動できるものでなければなりません。
ビジョン、ミッション、行動指針、バリュー、経営計画、事業戦略の全てが、パーパスと連携していなければなりません。
例えば、環境保護を目的に掲げる会社が、相反する事業戦略を掲げたり、その企業活動によって排出される大量のゴミや二酸化炭素、引き起こされる環境破壊・健康被害を放置する事は大きく矛盾します。ステークホルダーは、矛盾したメッセージには共感できません。
会社をパーパス・ドリブンの会社に変える事は容易ではありません。なぜなら、まずリーダー達が行動を変えなければならないからです。リーダーにはその覚悟が必要です。
また情熱と意思が込まれていない行動が伴わないパーパスは偽善であり、建前だけだと容易に見抜かれ、言動が違う会社、信頼できない会社と見られるリスクがあるからです。
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パーパスが浸透した会社の事例
Hancock Whitney(ハンコック・ホイットニー)社は、アメリカのガルフコースト(メキシコ湾に面する南部地域)に展開する銀行です。2005年、日本でも大きなニュースになった巨大ハリケーンであるハリケーン・カトリーナがガルフコーストを直撃した際、本社に加えて、半分以上の支店が損傷し、20%の従業員が全てを失い、ほとんどの従業員が自宅の損壊を受けました。
Hancock Whitney社は1899年設立の会社ですが、創立時のパーパス(目的)は「私たちは、私たちのコミュニティには商業を、コミュニティの人たちには機会を創出するため、ファイナンスのサービスを提供する」で、創業後何度も見返されているものの、創業当時から100年以上変更なく従業員に浸透したパーパス(目的)を共有していました。
ハリケーン・カトリーナによって、電力もインターネットも止まりました。電気がないのでクレジットも使えません。69,000人の住民が現金を必要としていました。そこでHancock Whitney社の従業員は、強風で飛ばされたATMを見つけ出し、中から現金を取り出し、紙幣を手洗いしてアイロンで真っすぐに乾かし、折り畳みの椅子と机を持ち出し、手書きの借用証書で一人200ドルまでの貸し出しを可能にしたのです。総額で5,000万ドル(約50億円)を貸し出しました。銀行にとっては大きな信用リスクを負う行動でしたが、短期的な利益やゴールではなく「私たちのコミュニティに商業を、コミュニティの人たちには機会を創出するため、ファイナンスのサービスを提供する」というパーパスに突き動かされ取った行動でした。最終的に20万USDドル(約2,000万円)以外の貸し出し金は戻ってきたそうです。そして、その行動は、災害後5か月の間に13,000もの新規口座開設をHancock Whitney社にもたらしました。(4)(5)
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パーパスを見失った会社の事例
Hancock Whitney社の逆の例が、フォルクスワーゲン社の事例です。(4)(6)
まだ車が金持ちにとっての贅沢品であった1930年代初頭に大衆車であるフォルクスワーゲンがヨーロッパで発売されました。 その目的(パーパス)は、「優れたエンジニアリングによって、誰もが購入できるような高品質の車を提供し、人々の生活を向上させること」で、その後フォルクスワーゲン社は成長し繁栄しました。
2007年、 フォルクスワーゲン社のリーダーは、「2018年までに世界最大の自動車メーカーになる」という野心的な目標を掲げました。
売上を上げるため、電気自動車やハイブリット車には投資せず、燃費の良いディーゼル車に注力しました。会社は予定より2年早い2016年にその目標を達成しました。しかし売上目標達成に注力するあまり、企業倫理に反しアメリカの排ガス試験を意図的にごまかしたのです。それは「人々の生活を向上させる」という創立時の目的とは矛盾した行為でした。
その結果、300億米ドル(約3兆円)もの罰金や和解金を払うという大きな代償を負いました。
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スタートアップの世界では、「Why This? Why Now? Why You?」と、起業時の「なぜこれをやるのか?なぜ今やるのか?なぜあなたがやるのか?」というパーパスが重要と言われます(7)(8)(9)。
フォルクスワーゲン社の例にみられるように、何十年も続いてきたレガシー企業でも、創業当時の目的、原点を振り返るのは、会社の本来のあるべき目的を呼び起こすきっかけになるかもしれません。
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あなたの会社のパーパスを試すリトマス紙試験
会社のパーパスはある、しかしそのパーパスは本当の目的なのか、真に機能しているか、リトマス紙試験的な簡単な確認方法があります。
- まずパーパスが明確であり、組織に共有されていて、実際の行動の指針になっているならば、従業員は「あなたが行っている仕事は何のために行っていますか?」の質問に答えられるでしょう。
- 会社の上層部のリーダー数名に会社のパーパスを分かりやすく説明してもらって下さい。答えが返ってこない、又はそれぞれの答えがバラバラであれば、パーパスは機能していないでしょう。
- また、もしパーパスが本当に会社の目的として機能しているのならば、そして本当にリーダーや従業員の行動の原則となっているのならば、それを物語るいくつものストーリーがあるはずです。パーパスと行動が結びついた実際の出来事の事例です。それは、リーダーと従業員、従業員と顧客、製品と顧客、会社とコミュニティを繋ぐストーリーかもしれません。日々の業務上の判断や、投資判断、事業戦略、商品開発時のストーリーかもしれません。社長の講話に含まれていたかもしれません。ストーリーの大小は問いません、先に紹介したHancock Whitney社のように感動的・ドラマチックである必要もありませんし、成功談である必要もありません。
そのようなストーリーが瞬時に何も思い浮かなければ(後で捏造する事はいくらでもできます)、パーパスが機能していない可能性が高いでしょう。
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参考文献
(1) Josh Bersin, “Becoming irresistible: A new model for employee engagement”, Deloitte Review Issue 16, 2015/01.
(2) Diana O’Brien, Andy Main, Suzanne Kounkel, Anthony R. Stephan, “Purpose is everything – How brands that authentically lead with purpose are changing the nature of business today“, Deloitte Insights, 2019/10
(3) “Purpose: Shifting from why to how”, McKinsey Quarterly ,2020/4
(4) Joshua Foust, “Is Your Purpose Lightning or Thunder in the World?“, Karrikins Group
(5) John Hairston, “We’re committed to service when crisis hits“, Hancock Whitney Corporation, 2017/9
(6) Dominic Houlder, Nandu Nandkishore, “4 Hard Questions to Ask About Your Company’s Purpose“, Harvard Business Review, 2016/3
(7) Leo Polovets, “Why This? Why Now? Why You?“, Coding VC, 2016/6
(8) Naoki Sato, “スタートアップが取り組むべきアイデアの見つけ方“, 2019/1
(9) Tim Riesterer, “Exploring the why now moment in the customer lifecycle“, Corporate Visions, 2018/10
(10) Julie Williamson, PhD, “Is Your Organization Purpose-Aligned?“, Karrikins Group