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問題トークと解決トーク:Problem Talk vs Solution Talk

  • 投稿カテゴリー:組織が変わる
  • 投稿の最終変更日:2024年12月21日
  • Reading time:10 mins read

世の中で交わされる会話には大きく「問題トーク」と「解決トーク」の2種類のプラットフォームがあります。問題トークとは、その名が示す通り問題点に焦点を当て、解決トークは、私たちが望むことについて話します。実は、私たちの会話の多くが、問題トークのプラットフォーム上で行われています。

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製造販売会社A社での会話

製造販売会社A社は、創業75年を迎えた老舗の会社で、創業から業界をけん引してきました。しかし、近年、新規事業を次々軌道にのせ業績を大きく伸ばすライバル会社に比べ、A社の業績は右肩下がり、年々その差が開いています。

高宮開発課長が、オフィスビルの通路でたまたま見かけた山本営業課長に声を掛けます。

高宮開発課長:ねえ山本君、ちょっと時間いい!?
こないだの経営会議で承認もらった事業提案なんだけど、うち部署の鈴木部長は腰が重くてなかなか前に進ませてくれないんだよ。

山本営業課長:問題はこっちも同じだよ。こっちの田中部長もこないだの会議では調子よく前向きに進めるって言っていたくせに、会議後は、人がいないとか、リソースがないとか、予算がないとか、リスクが高いとか、無理があるとか全否定だよ。

高宮課長:結局いつも同じ問題にぶちあたるってわけだね。まあ、ある程度は想定していたけど。

山本課長:そもそも、問題の根源は佐藤社長にあるよ。結局、そういう口ばっかりで行動が伴わないイエスマンたちを昇格させて、今みたいに動けない組織にしてしまったのは社長だからね。

高宮課長:その通りなんだけど、後になって「なんで進めてないんだ!」とか言って、問題の矛先を俺たちに向けてくるのだけは勘弁してほしいよな。

山本課長:ホント、こないだの会議の時はびっくりしたよね。鈴木部長も田中部長も、自分が決めきれないから進まないのに、社長の前では、しゃあしゃあと「部署の者たちにハッパをかけて可及的速やかに進めさせます!」とか言ってるし。

高宮課長:結局あの人たちがいなくならないと問題は何も解決しないんだよね。。。

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2種類の会話のプラットフォーム

いや~、高宮課長も山本課長も大変ですね。どうしようもない感がハンパなく、閉塞感が伝わってきます。組織で働く皆さんは、この2人が交わしたような会話を聞いたり、実際に交わした経験はないでしょうか?

正直、私自身もそのような組織で働いた経験をしてきて、2人の気持ちが痛いほどよく分かります。しかし、一方で、他の誰かの文句ばかりならべて互いの傷をなめ合っていても物事は全く前に進まないことも事実です。

世の中で交わされる会話には大きく「問題トーク:Problem Talk」と「解決トーク:Solutions Talk」という2種類のプラットフォームがあります。今回は、その2種類の会話の違いについて紹介しましょう。

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問題トーク(プロブレムトーク:Problem Talk)

問題トーク:Problem Talk」とは、その名が示す通り、問題に焦点を当て、問題点について話すことです。
その内容には、問題は何なのか、その原因の分析、問題が及ぼしている影響、問題を抱えた人たちの感情、その問題の将来的推測などが含まれます。

皆さんは気が付いていないかもしれませんが、実は、私たちの会話の多くが、この問題トークのプラットフォーム上で行われています

これはまったく驚くことではありません。なぜなら、私たちは実際に多くの問題を抱え、それについて話すのが大好きだからです。人は自分が持っている問題を他人に伝え、そうすることで、ストレスを発散したり、胸のつかえを取り除いたり、他人に共感してもらって癒されたいからです。

しかし、そこには問題そのものを自分自身で解決しようという意図はほとんどありません。問題がなくなればいいのにとは期待しています。ひょっとしたら、問題について話すことが問題解決の取り組みになると勘違いしていて、話すことで問題解決に貢献できたと自己満足しているかもしれません。

問題解決には、社会、組織、仕事、家族、夫婦、個人に関する問題など、様々な問題解決のノウハウを提供する膨大な書籍やインターネット上の情報が存在します。

もちろん、問題トークにはメリットがあります。
特に比較的単純な問題(シンプルな問題:Simple Problem)や、技術的・科学的問題など、手間はかかるものの明確な解決策を導くことができる問題(コンプリケイテッドな問題:Complicated Problem)の原因分析において、成功してきた歴史があります。

一方で、モノや技術ではなく、人が関係する場合、問題トークは解決策を提供しなくなります。対人関係や社会問題、他国間の問題など、より多くの人たちが複雑に絡み合った問題(コンプレックスな問題:Complex Problem)においては、ある解決策が想定外の問題を引き起こすなど、問題トークはほとんど成果を上げることができていません。
これについては、本サイトの別の記事でも以前書きました

複雑な問題の対応において、問題トークに終始していても、成果にはつながりません。閉塞感や無力感、悲壮感、悲観主義、感情や関係の悪化を招きます。
「なぜそれが起きたのか?」「誰が間違えたのか?」「誰が責任を負うのか?」など、指の差し合いや贄探しになってしまうこともあります。また、利害関係者の分断や争いなど「破壊的な会話:Destructive Conversation」さえ導いてしまいます。

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解決トーク(ソリューショントーク:Solution Talk)

もう1つの会話のプラットフォームは「解決トーク、ソリューショントーク:Solution Talk」です。ソリューショントークとは、直面している問題ではなく、人が何を望んでいるのか、そしてその実現について話すことです。
それには、私たちが望むような状態にたどり着いた時に、世界や物事はどうなっているか、その状態にたどり着くために必要なスキルや行動、成功例について話すことなどが含まれます。

そこで話されることは、私たちが目指す目的であり、到達したい場所であり、究極的には自らの将来のありたい姿です。解決トークは、その目的にたどり着くための「建設的な会話:Constructive Conversation」です。建設的な会話は、私たちを目的に向かって前進させる会話です。「解決トーク:Solution Talk」よりもむしろ「未来トーク:Future Talk」とか「目的地トーク:Destination Talk」などと言った方がピンとくるかもしれませんね。

問題トークはネガティブな感情を伴うことが多いです。問題というネガティブな事柄にフォーカスするからです。一方で、解決トークはポジティブな感情を伴うことが多いです。考えてみてください。未来の望みやありたい姿を語っている時に、否定的な感情をもつことはあまりないですよね。

会話のプラットフォームを変えれば、感情が変わり、同僚との関係、家族や友人との付き合い方、望むことを達成する能力など、物事を劇的に変えることができます。

コミュニケーションは私たちの関係性の中軸をなし、私たちのやりとりや行動の原動力となります。そのことを理解すれば、なにが足りないかではなく、何を利用できるか、あるものを利用しようとする発想力が芽生えてきます。

そして、1人が変われば、周りの人たちも変わる可能性が高まります。他人が何をすべきかではなく、自分が何をすべきかを考える人が増えるでしょう。誰かが持つ弱みを指摘するのではなく、誰かが持つ強みにフォーカスするようになります。そして、私たちの関係性は改善され、より協力して物事に取り組むことができるようになるでしょう。

下の表は、問題トークと解決トークの違いをまとめたものです。

表:問題トークと解決トークの違い

問題トーク解決トーク
問題に焦点を当てる解決策に焦点を当てる
問題について話す望むことについて話す
文句を言うすでにあるもの、持っているものを確認する
何が悪いのか原因を分析する何がうまくいっているのかを見つける
問題の根本原因を探す成功を定義する
障壁を特定する必要なスキルや特性を特定する
欠点や抵抗について話す取り得る行動について話す

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なぜ?という質問をやめる

物事を解決するには「なぜ?」という質問が重要です。トヨタの「5Why」は有名ですね。
「なぜそうなった?」「それはなぜ起きた?」「それが起きたのはそもそもなぜ?」と何回も「なぜ?」を繰り返すうちに、問題の根本原因にたどり着くという問題解決手法です。

しかし、さきほども紹介したように、このなぜを繰り返す手法は技術的な問題には効果的です。トヨタは自動車メーカーです。自動車の技術的な課題や生産ラインの課題に関しては効果的です。その他多くの日本企業の技術的な問題の解決にも有効ですし、実際に大きな成果を上げてきました。

しかし、人と人の関係に関する問題に関しては、物事が改善しないどころか、むしろ逆効果になることさえあります。
頭を下げて目の前にある問題に深く深く入り込むのではなく、視点を高く上げて、どのような関係を構築したいのか、どのような将来にたどり着きたいのか、達成したい未来の姿を見上げるのです。

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高宮課長と山本課長の「解決トーク」

さて、最初に紹介した製造販売会社A社の高宮課長と山本課長の会話を振り返ってみましょう。
2人はお互いが共通して抱える問題について話していましたね。

残念ながら、他人や第3者が関わるような課題において、この2人のように「あの人が問題だ」「あの人がいなければ」など、その場にいない人たちがすべきことを話していても、解決につながることはありません。その対象が自分よりも地位が高く権限の大きい上司の場合はなおさらです。

高宮課長と山本課長の2人が望む状態は「経営会議で提案した事業を実現すること」です。ひょっとしたら2人にできることは限られているかもしれません。「こうすればうまくいくのに!」と思っていても、自分たちにはその権限がないかもしれません。
しかし、例え小さなことであっても、2人にできることは必ずあるのも事実です。しかし、問題トークに終始していてはそれは見えません。会話のプラットフォームを、問題トークから解決トークに変えるのです。問題トークの土俵から解決トークの土俵に飛び移るのです。

自分がもっていないもの、自分ではできないことにフォーカスするのではなく、自分が持っているもの、自分でできることにフォーカスするのです。他人の欠点にフォーカスするのではなく、他人の強み、自分の強みにフォーカスするのです。

A社に限らず、多くの日本の会社でも、「なんでまだできていないんだ!」とか「なんで進捗が遅れているんだ」とか「原因は何だ!」など、問題にフォーカスする会議ばかりおこなわれます。

一方で、垣根を越えて将来ありたい姿について話し合われることはないので、言われる側の従業員たちは、最終的に自分たちがどこに向かうのかもわからないまま、けしかけられるままにバタバタと目の前の仕事をこなしたり、軸がなくブレブレの経営者の指示に右往左往するだけです。

問題をプラットフォームにした会議ではなく、逆に「将来的な私たちの姿は」とか「この進捗はできているな」「前回の会議では分からなかった課題が共有できたな」「次に進むべきステップが見えてきたな」などと、将来ありたい姿や強みや成果について話してみてはどうでしょうか?

そして会話のプラットフォームの変化が、会議や組織にどのような変化をもたらすのかを見てみてはいかがでしょうか?

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プラットフォームを変える

会話だけでなく、私たちのほとんどの思考も「問題トーク」がベースになっています。
家族も、会社も、社会も、マスコミも、テレビのコメンテーターも、様々な問題を表面的に指摘するだけ、誰々が悪いと他人に矛先を向けるだけです。

「問題トーク」が社会のデフォルトのプラットフォームになってしまっているのです。無意識に文句が口から出てしまい、問題を話し合うようになってしまっているのです。あなたは子どもの時に、母親から「なんでできないの?!」とか「なぜそんなことしたの?」とか「手間ばっかりかかるんだから」などと言われたことはありませんか?
「問題トーク」は私たちの文化に染み込んでいます。私たちは小さいときから日常的にそのような会話にさらされているので、そのような思考、会話のスタイルが定着してしまうことはやむをえません。

しかし、私たちは「問題トーク」から脱却し、「解決トーク」のプラットフォームに転換することができます。その第一歩は、それに気が付くことです。「問題トーク」のプラットフォームに乗っている自分に気づくことです。

私たちは、自分自身について知ることは難しいのですが、他人を知ることはとてもうまくできます。
カフェで1人でコーヒーを飲んでいる時やランチを取っている時に、隣のグループの会話にこっそり耳を立ててみてください。あるいは、電車の中での打合帰りのサラリーマンたちの会話に、座席で寝たふりしながら耳を傾けてみてください。
その人たちの会話は、問題トークでしょうか?解決トークでしょうか?

そのような他人のトークのカテゴリー分けの練習を何回も繰り返したのちに、自分の考えが問題トークか解決トークなのか、他人の会話を分析した時と同じように考えてみてください。

実は、私たちは皆、小さい頃から建設的な会話をたくさん行ってきました。
進むべき学校を決め、仕事を見つけてきました。プロジェクトを通じてなど、幾例もの会話の事例を挙げることができるでしょう。
私たちは社会的な存在であり、他人との会話が人生の道筋を決めるのに役立ちます。したがって、私たち全員には、会話を建設的にするスキルがあります。しかし、それがデフォルトになっていません。必要なのは会話のプラットフォームを変えることなのです。

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さいごに

今回の記事は、ポール・Z・ジャクソン(Paul Z Jackson, 1956 -)が2010年に書いた書籍「Positively Speaking: The Art of Constructive Conversations with a Solutions Focus(邦訳)ポジティブ・スピーキング:解決策に焦点を当てた建設的な会話」を参考に、私なりの考えを加えて書きました。

本書は、人はどうすれば変わることができるのか、「問題点」ではなく「ありたい姿」にフォーカスするソリューション・フォーカスの手法をベースにして、実践に即し、身の回りの分かりやすい例も織り交ぜながら、平易な文章で説明した良本です。

次回は、この書籍を紹介します。

 
 
 

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