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音楽が脳に及ぼす影響:Music and the Brain

  • 投稿カテゴリー:人が変わる
  • 投稿の最終変更日:2024年10月21日
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音楽は場所や民族を問わず人類に共通してあります。古代から私たちの生活に密接に関連しています。音楽は脳の多くの領域を活性化させます。脳には、音楽を音として認識するだけでなく、その他さまざまな機能が備わっていて、私たちに多くのメリットをもたらします。

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はじめに

本サイトでも何度か書いていますが、私は音楽が好きで、ほぼ毎日音楽を聴いています。
仕事に行くとき、仕事から帰るとき、家で息抜きしているとき、このホームページの記事を書いているときも時々音楽を流していますし、今まさに音楽を流しながらこの記事を書いています。

勉強や仕事をしているとき、あるいは単にリラックスしているときに音楽を聴く人はたくさんいます。大事な試合の前に気分を高めたり、大勢の前で発表する前に気持ちを落ち着かせるために音楽を利用する人もいるでしょう。

音楽を聴きながら、ジムで運動したり、外を走る人もいます。私は走るのも好きですが、走りながら音楽を聴くことはありません。ただし、走っているときに頭の中で曲が流れていたり、リズムを刻んでいることは多いです。

私たちの多くが、曲のリズムやメロディーによって、興奮を覚えたり、感情が高まったり、逆に感情が収まったりするのを経験したことがあります。

音楽は場所や民族を問わず、人類に共通してあるものです。アメリカのナショナルジオグラフィック(National Geographic)によると、人類最古の楽器は、4万年前にハゲワシの骨に穴を空けて作られたフルートです。古代から、音楽は私たちの生活に密接に関連しています。

私たちは、直感的に、音楽が人生や社会を助けることを知っています。何千年もの間、人間は音楽を使って心を癒し、痛みを和らげてきました。世界中の母親が子供に子守唄を歌い、誕生日、卒業式、結婚式などの特別な日を歌で祝います。
音楽が長く存続してきた主な理由は、人を結びつける力です。音楽は、反復的で退屈な仕事をしている労働者を幸せにし、全員が一緒に動くのを助け、仕事の効率を高めます。一緒に踊ったり歌ったりすることで、団結したグループになります。

私たちの目には1億個以上の光受容体がありますが、耳には3,500個の有毛細胞しかありません。それでも、私たちの脳は音楽に対して驚くほどの適応性があります。

いったい、音楽は脳にどのように伝わり、どのような影響を与えるのでしょうか?

今回は音楽が私たちに及ぼすさまざまな影響について紹介します。脳に関する難しい言葉が大量に出てきますが(汗)、適度に流しながら読み進めてください。

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音楽はどう脳に伝わるか

まず音楽が私たちの脳にどのように伝わるのかを見ていきましょう。

音楽は耳の近くにある側頭葉(temporal lobes)の聴覚皮質(auditory cortex:脳の音情報の処理を行う部分)を活性化しますが、それは全体のプロセスのほんの一部に過ぎません。

音を認知する脳領域だけでなく、その他さまざまな領域が影響します。

具体的には、まず、音楽はその他の「音」と同様に、空気の振動によって伝達され、耳の内側にある蝸牛(かぎゅう:cochlea)で音波が電気信号に変換されます。

それが、聴神経を通って聴覚脳幹(auditory brainstem)に伝わります。そこから、視床(ししょう:thalamus)を通って、分類された聴覚情報が、聴覚皮質(auditory cortex)を活性化します。聴覚皮質は、時間と共に変化する信号を受け取り、音を認知する処理を行っていきます。

脳が音を認知する仕組みについては、下のTED-Ed(TEDの教育ビデオ)のアニメーションが分かりやすいです。

音楽には、音程(ピッチ)や音色(トーン)、リズム(ビート)、音の強さなどの特徴が含まれます。

音程や音色の認識は主に聴覚皮質によって行われます。聴覚皮質は、メロディーやハーモニーを分析する作業も行います。

これに対して、リズムは、小脳(cerebellum)、基底核(basal ganglia)、運動皮質(motor cortex)を活性化します。ドラムを叩いてリズムを作るときには、これらが関与しています。

つまり、音程や音色とリズムは脳の異なる領域で処理されているのです。脳の特定の領域に損傷がある人は、これらのいずれかを知覚することはできますが、両方を知覚することはできません。

音楽は、運動領域も活性化します。

音楽を聞くと思わず、足や指でリズムを刻んだり、リズムに合わせて頭や体を動かしたりしますね。これは運動皮質(motor cortex)が関わっているからです。運動皮質(motor cortex)は私たちが体の様々な部分を動かすのを計画したり、コントロールする働きをします。

音楽は、記憶領域も活性化します。

私たちは、音楽を聴く前から、音楽を予測してビートを刻むことができます。これは記憶領域と運動領域の両方が活性化されているためです。
人間には音楽を記憶する驚くべき能力があります。ほんの一瞬聞いただけで、お気に入りの曲を認識できることがあります。これらの記憶は海馬(hippocampus)に保存されます。みなさんには10年前の歌の歌詞は覚えているのに、週末に何をしたのか思い出せないことはありませんか?

音楽は、認知領域も活性化します。

私たちの脳は曲を聴くときに期待感を抱きます。たとえば、ビートが安定しているか、メロディーが意味をなしているかなどです。曲が予想していない変化を起こすと脳は驚きます。この分析は脳の前頭前野(prefrontal cortex)で行われます。

音楽は、感情をも揺り動かします。

聴覚皮質と同時に活性化されるのが、運動皮質(motor cortex)、島皮質(insula)、側坐核(nucleus accumbens)、扁桃体(amygdala)、小脳(cerebellum)などです。これらは、音楽の感情的な処理を行います。感情に関係する脳の部分は、音楽を聴いている時に活性化されるだけでなく、同期もします。
最近の研究では、先ほど紹介した聴覚皮質(auditory cortex)も認知的な処理だけでなく、感情的な側面にも大きくかかわっていると言われています。

音楽は、私たちの記憶と絡み合って、深い感情反応を引き起こす独特の能力を持っています。感情を引き起こすパワーは、脳の報酬回路(reward system)に根ざしています。

音楽を聴くこと、特に自分が大好きな曲を聴くことで、脳の報酬回路(reward system)が活性化します。
「ゾクゾクする」「鳥肌が立つような」音楽によって、喚起される喜びの強度が増します。報酬、動機、覚醒、感情に関連する脳領域である腹側線条体(ventral striatum)、中脳(midbrain)、扁桃体(amygdala)、側坐核(nucleus accumbens)、眼窩前頭葉(orbitofrontal cortices)、腹側内側前頭前野(ventral medial prefrontal cortices)が活性化されます。

これらの脳領域は、おいしい食べ物や、薬物使用、セックスなどによって活性化される脳領域と同じです。音楽は私たち人間が生物学的に必要とする刺激ではないものの、これらの快楽や報酬と同じ脳回路を活性化するのです。快楽をもたらす神経伝達物質であるドーパミンのレベルが上がると、気分が良くなります。音楽を聴いて気分が良くなるのはそのためです。

脳が特定の曲に慣れてくると、曲の最初の数音を聞いただけで、ドーパミンを放出することがあります。パブロフの犬は食べ物とベルの音を関連付けることを学び、やがて食べ物が見えないときでもベルの音を聞くとよだれを垂らすようになりました。それと同じように、私たちの体も馴染みのある音を聞くと快感を予期するのです。

音楽に対する感情的な共鳴の中心となるのは大脳辺縁系(limbic system)です。音楽に触れると、感情処理を司る扁桃体(amygdala)や記憶を定着する海馬(hippocampus)などが活性化し、当時の感情や記憶体験を時に鮮明に呼び起こします。

みなさんには、特定の曲やアルバムを聴くことで、ある過去の出来事やある場所の記憶がよみがえることはありませんか?
私は今まさに、アメリカの昔のパワーポップバンドのアルバムを数年振りに引き出して聴いているのですが、そのアルバムは私が大学生だった時に当時付き合っていた彼女にCDでプレゼントしたアルバムでもあります。聴いていると、ほんわりしたような甘酸っぱいような何とも言えない感情がいまだによみがえってきます。

また、感情は記憶を強化します。繰り返し聴いた側面や、音程や音色やリズムが記憶を助けるという側面もありますが、私たちは、大人になってからでも、高校時代に好きだった歌の歌詞を思い出すことができます。

音楽は以下の5つの感情のコンポーネントすべてに変化を引き起こす力があります。

(1) 認知コンポーネント:音楽の評価。心地よさや不快などの感情を生じます。
(2) 動機付けコンポーネント:音楽はダンスや集団行動への参加を誘発します。
(3) 生理学的コンポーネント:音楽はリラックスまたは覚醒など、生理的変化をもたらします。
(4) 表現コンポーネント:音楽は感情の表現、たとえば音楽を演奏しているときや音楽を聴いているときの表情に影響します。
(5) 主観的感情コンポーネント:音楽は喜び、感動、勇気、郷愁、安らぎ、悲しみ、驚き、緊張などの感情を引き起こします。

以上、音楽は脳の限られた領域を活性化するのではなく、さまざまな領域を同時に活性化するのです。

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音楽がもたらすさまざまなメリット

今紹介したように、音楽は、感覚、認知、記憶、運動、感情を含む、脳のさまざまな領域と回路に作用します。
つまり、音楽は脳のさまざまな領域とネットワークを活性化できるため、幸福感、学習、認知機能、生活の質に関わるネットワークを刺激したり、維持したり、強化するのに役立つということです。実際、これほど多くの脳のネットワークを一度に活性化できる活動は、他には社会活動に参加すること位しかありません。

研究により、音楽はさまざまな方法で私たちによい影響を与えることがわかっています。それらをいくつか紹介しましょう。

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音楽は、人を幸せにします。

● 音楽と脳の健康に関するある調査で、音楽が認知的および感情的な幸福に与える影響について興味深い結果があります。音楽を聴く人は、一般の人たちと比較して、精神的幸福度の点数が高く、不安やうつの点数は低いという結果です。
コンサートや公演に行く人たちの69%が自分の脳の健康を「優れている」または「非常に優れている」と評価したのに対し、過去に行ったことがある人では58%、一度も行ったことがない人では52%でした。
子供の頃によく音楽に触れたと回答した人のうち、68%が新しいことを学ぶ能力を「優れている」または「非常に優れている」と評価したのに対し、音楽に触れたことがない人では50%でした。
50歳以上の人を含め、積極的に音楽に関わっている人は、幸福度が高く、認知機能も良好でした。

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音楽は、ストレスも低減します。

● 手術前、手術中、手術後に音楽を聴くことで医療処置に伴う痛みやストレスが軽減されることを示されました。音楽は、セロトニンとドーパミンの放出を増やし、コルチゾールの影響を軽減します。

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音楽は、胎児期の発達から老化の問題まで、生涯にわたって、よい影響を与えます。

● まず、音楽体験のメリットは、母親の胎内にいるときからすでに始まっています。音楽をただ聴くだけでも、妊娠中の母親の気分や幸福感が向上し、母親と乳児の絆が強まるという研究結果があります。早くから音楽に接することは、認知、感情、身体、社会領域の発達を改善する可能性があるという研究結果もあります。 

● 高齢者にとっても、音楽体験は幸福感に寄与するだけでなく、脳容積の持続や、実行機能、記憶、言語処理、感情に関わるネットワークの維持に役立ちます。

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音楽は、社会的な絆やコミュニケーションを強めるという証拠も増えてきています。

● たとえば、音楽に合わせて動きを他人とシンクロさせると、信頼や協力が深まるなどの社会的効果があります。
さらに、音楽トレーニングは、脳の構造的および機能的変化をサポートし、認知能力、言語処理だけでなく、社会的な絆にも良い影響を与えることが示されています。

● あるジムで行われた実験では、被験者を2つのグループに分けて、一方には運動中に気分を高揚させるアップテンポの曲を、もう一方には耳障りな前衛的音楽を聞かせました。その後、彼らに慈善団体を支援する請願書に署名することと、慈善団体のチラシを配布することを求めました。どちらのグループの参加者もほぼ全員が請願書に署名はしましたが、アップテンポの音楽を聞いたグループの参加者のかなり多くがチラシ配りの手伝いにも同意しました。これは、音楽が、他人を助ける意欲を高めた可能性があることを示唆しています。

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音楽の治療効果も認識されるようになり、さまざまな病気に対する非薬理学的介入として音楽療法が利用されています。

● 音楽が海馬の活動を変化させることができるという発見は、音楽がパーキンソン病、アルツハイマー病、うつ病、心的外傷後ストレス障害、その他の神経系損傷を改善する有望な治療法であることを示唆します。音楽だけでこれらの病気を治すことありませんが、回復を助ける役割が認められています。アルツハイマー病の末期には、患者は反応しなくなるのが普通ですが、お気に入りの音楽をヘッドホンで聞かせると、目が輝いたり、動き出したり、時には歌い始めることさえあります。

● 音楽は痛みの軽減にも役立ちます。いくつかの研究では、多くの痛みを伴う症状や障害が音楽によって緩和できることが示されています。音楽は、痛みから気をそらす役割を果たします。

● 学習、記憶、注意力、集中力などの認知機能に影響を及ぼす可能性があります。音楽によって、重度の神経障害を持つ子供で、注意力とコミュニケーション力の向上が観察されました。また、脳卒中を患い、毎日音楽を聴いた成人が、オーディオブックを聴いた患者や、毎日音楽も本も聴かなかった人よりも、2 か月後に言語記憶と認知力が大幅に向上したという研究結果があります。

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その他、以下のようなさまざまなプラスの効果を示す研究結果があります。

● 音楽を生み出す創造的なプロセスは、音楽スキルを向上させるだけでなく、認知能力と運動能力の発達を促進し、全体的な健康に貢献します。

● 音楽によって引き起こされる脳ネットワークの振動は特定の周波数帯域で発生し、これらの脳機能に簡単にアクセスできるようになります。

● 音楽は、脳の可塑性を高め、ニューロンの再生と修復を促進します。

なお、音楽が私たちの脳に及ぼす影響については、下のWiredのビデオがうまくまとまっています。

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モーツァルト効果

みなさんは「モーツァルト効果:Mozart effect」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
もともとはモーツァルトを聴くことで短期的に記憶能力を上がったという研究結果でしたが、拡大解釈されて、モーツァルトの音楽を聴くことで賢くなると受け止められるようになりました。これを受けて、アメリカでは生徒にクラシック音楽のCDを配布した州もあるほどです。 

モーツァルトの音楽とその影響に関する研究はいくつかありますが、結果はまちまちです。プラス効果を示す研究もありますが、モーツァルト効果は存在しないという研究も多いです。

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音楽のデメリット

いくつかの研究では、ある種の音楽は私たちにマイナスの影響を与える(つまり、悲しくしたり、不安にさせたりする)可能性があることが示されています。悲しい音楽や怒りに満ちた音楽を長時間聴くと、​​コルチゾールの放出が増加し、ネガティブな感情に関連する脳の領域が刺激されます。

大事なのは、どんな種類の音楽を聴くかです。ですから、落ち込んだり、気が滅入るような音楽ではなく、穏やかにする音楽や元気が出る音楽を聴くことが大切です。

また、ある種の音楽は、頭で繰り返されて止まらなくなることがあります。これをイヤーワーム(Earworm)と言います。短く特徴的なフレーズが繰り返されるような曲に多い現象です。頭の中で終わりなく繰り返されることが問題であるため、逆に自分でそのフレーズを変化させて、終わりがあるように頭の中で変換すると、ループを断ち切ることができます。

また、さきほど紹介した通り、音楽は報酬システムを活性化しドーパミンを放出するため、のめり込みすぎると中毒になる可能性がないわけではありません。ドーパミンの中毒性については、このサイトでも、こちらの記事や、こちらの記事で紹介しました。

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さいごに

さて、今回音楽が持つさまざまなメリットを紹介しましたが、私たちはそのメリットを自分たちの生活にどう取り入れることができるでしょうか?

それは簡単ですね。

日々の忙しさから、音楽から遠ざかって久しい方も多いかとは思いますが、わずかな時間でも音楽に触れてみるのはいかがでしょうか。

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参考文献
(1) Muriel T. Zaatar, Kenda Alhakim, Mohammad Enayeh, Ribal Tamer, “The transformative power of music: Insights into neuroplasticity, health, and disease“, Brain, Behavior, & Immunity – Health, Volume 35, 2024, 100716, ISSN 2666-3546,, 2024.
(2) Lutz Jäncke, “Music, memory and emotion“, J Biol. 2008 Aug 8;7(6):21. . PMID: 18710596; PMCID: PMC2776393., 2008/8.
(3) Becks Shepherd, “How does music affect your brain?“, livescience, 2022/12/15.
(4) Toader C, Tataru CP, Florian IA, Covache-Busuioc RA, Bratu BG, Glavan LA, Bordeianu A, Dumitrascu DI, Ciurea AV., “Cognitive Crescendo: How Music Shapes the Brain’s Structure and Function“, Brain Sci. Sep 29;13(10):1390, 2023/9/29.
(5) Koelsch S. “Investigating the Neural Encoding of Emotion with Music. Neuron“, 2018 Jun 27;98(6):1075-1079., 2018/6.
(6) Summer Allen, “Five Ways Music Can Make You a Better Person“, Greater Good Science Center, 2017/11/14.

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