私たちはモチベーションという言葉をよく使いますが、そもそもモチベーションとは何なのか、どうやったらモチベーションが生まれ、どうやってうまく利用できるのか仕組みをよく理解していません。今回は様々なモチベーションの種類と、行動を持続させる方法を紹介します。
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はじめに
私たちは、よく「うぉー!モチベーション上がってきた」とか「あ~ぁ、モチベーション下がりまくり」などと言いますね。最近は短縮して「モチベ」と言われることもあります。
モチベーションとは、そもそも何でしょうか?
ケンブリッジ英語辞書によれば「何かをすることに対する熱意」や「何かをしようとする意欲、またはそのような意欲を引き起こす何か」とあります。また、オックスフォード英語辞典によれば「何かをしたいという気持ち、特に大変な仕事や努力を伴うこと」とあります。ウィキペディアでは「人を目標に向けた行動に駆り立てる内部状態」と紹介しています。
つまり、モチベーションとは「何らかの目的に向かって行動を起こさせる心の状態」です。
これらの定義からも分かるように、モチベーションの先には必ず何らかの目的があります。
私たちは、スポーツ選手や起業家などの、大きな目標と強いモチベーションに結びついた驚異的な結果を目にすることがあります。一方で、私たち一般人がよく経験する「あ~、めんどくせーけどそろそろやるか」といったあまり積極的でないモチベーションでも、その先に自分が望む何からの結果があるから、または望まない結果を避けたいという目的があるから、重い腰が上がります。
モチベーションはとても広い意味を持つ大きな言葉で、生物学的、認知的、社会的な様々な要素が含まれた複雑な心の状態でもあります。「おい、モチベーション上げようぜ!」なんて言われても、「はい、分かりました。今から上げますので少々お待ちを」と簡単に対応できるようなものではありません。
今回は、モチベーションを様々な角度から分解して見ていき、モチベーションとは何なのか、どうやったらモチベーションをコントロールできるのかを見ていきたいと思います。
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モチベーションの4要素
まず、モチベーションには次の4つの要素があります。
1.喚起、目覚め(Arousal, Activation)
2.方向性(Direction)
3.強さ(Intensity)
4.持続性(Persistence、Duration)
まず、1つ目の「喚起、目覚め」に関して、モチベーション自体が「動機」と日本語訳されることがありますが、その動機の動機、つまり、きっかけとなるそもそもの出来事や思いがあるはずです。
モチベーションの着火剤や発火点ですね。
私たちが行動に移す背後にあるエネルギーや、何かをする気にさせるものです。
例えば「バイトしようかな!」というモチベーションのきっかけが「○○のコンサートに行きたい!」かもしれませんし、「運動始めよう!」のきっかけが「□□さんに良く見られたい!」かもしれません。モチベーションの発火点は人それぞれ異なりますが、きっかけなくしてモチベーションは生まれません。
2つ目の「方向性」とは、目的の達成に向けて動機づけられた行動を、どこに向けるか、努力をどこに集中させるかです。
達成したい目的は1つでも、向かう方向は多種多様です。例えば「○○のコンサートに行きたい」に対して「バイトしようかな」という方向を取ることもあれば、「親に何とかお金出してもらおう」という方向を取ることもあります。
3つ目の要素は、モチベーションの「強さ」で、どれだけの努力を費やせるかに影響します。
例えば、様々な情報を集め徹底的に分析して最大限の努力を注ぐことも、ざっと資料を読み流す程度の最小限の努力ですませることもできます。
4つ目の要素の「持続性」は、行動を長期間にわたって継続できるかどうかです。
ある講師の話を聞いて、その時は「よし明日から頑張るぞ!」と思ったものの、次の日になれば、何事もなかったかのように、モチベーションがすっかり消えて無くなっている経験は皆さんにもありませんか?
以上の4つの要素が組み合わさり、望む目的を達成できるかどうかが決まります。方向性が間違っていれば、他の3要素が揃っていてもたどり着けませんし、強さや持続性に関しても同様です。
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モチベーションの分類
モチベーションはまた、様々な視点から分類することができます。次にその分類をいくつか見ていきましょう。
1.内発的なモチベーションと外発的なモチベーション(intrinsic / extrinsic motivation)
これは以前本サイトでも紹介しました。モチベーションが内的要因によるものか、外的要因によるものかによる分類です。
内発的動機(intrinsic motivation)は、内面から生まれるモチベーションです。楽しみ、好奇心、充実感などによるもので、例えば「楽しいからサッカーをする」とか「気持ちがいいから歌う」など、人がその行為自体を追求するときに起きるモチベーションです。
一方で、外発的動機(extrinsic motivation)は、報酬、他人からの評価、懲罰の回避など外的要因から生じるモチベーションです。例えば「コーチに怒られるからサッカーをする」とか「お金を稼ぐために歌う」のであれば、外発的なモチベーションです。
別の例として、私はランニングが趣味ですが、次から次へとレースに申し込んで、走るモチベーションを保とうとする人と、そもそも走ることが好きだから走る人がいます。前者は外発的動機づけによってランニングを続けており、後者は内発的動機づけによってランニングを続けています。後者の人たちにとっては、走ること自体が報酬になっています。
一般に、内発的に動機づけられた行動の方が、外発的動機による行動よりも持続性が高いことは以前説明した通りです。
2.自律的なモチベーションと制御的なモチベーション(autonomous / controlled motivation)
自律的動機(autonomous motivation)とは、自分の自由意志にしたがって行動すること、または自分がそうしたいから何かをすることで、制御的動機(controlled motivation)は、他人から何かをするようにコントロールされたものです。
先ほどの内発的動機・外発的動機と混同してしまうかもしれませんが、少し違います。
例えば、会社がボーナスを上げることで従業員の意欲を高めることは、制御的かつ外発的な動機づけになります。
他人から非難されるのを恐れて自主的にある行動を取るのは、自律的かつ外発的な動機づけです。
自律的か制御的かの違いは、自分で決めているか、他人に誘導されているかどうかの違いです。
制御的動機づけは、インセンティブ型(incentive motivation)あるいは操作的(manipulative motivation)とも言えるかもしれません。誰かに何かをさせるために美味しいものを約束するなど鼻先に人参をぶら下げたり、ボーナスを上げて従業員を操作しようとするからです。立場を変えて言えば、あなたが何かを得たくて、他人に何かをさせようとすることです。
いわゆる「飴と鞭」で人に何かをさせようとするのは、制御型の動機づけを利用しています。飴による動機づけとは「○○ができたら、□□を与える」、鞭による動機付けとは「○○ができたら、△△を回避できる」という動機づけです。
一方で、自律型の動機づけはセルフモチベーション(self-motivation)とも言えるでしょう。誰かに誘導されることなく、自分が主体的に決めるからです。
3.意識的なモチベーションと無意識のモチベーション(conscious / unconscious motivation)
モチベーションの他の分類として、意識的なもの(conscious motivation)と無意識(unconscious motivation)のものの区別があります。
無意識のモチベーションと聞いてもピンとこないかもしれませんが、意識の奥底にある欲望、偏見、恐怖、怒り、喜びといった感情や衝動によって自分が気付くことなく導かれるものです。
無意識の動機の例として、研究によって社会に貢献したいと言う科学者の本当の動機が、多くの人に認められたいという隠れた欲求である場合が挙げられます。
また、無意識レベルの脳のメカニズムを作為的に利用して行動を引き起こす例として、プライミングがあります。潜在意識に働きかけるサブリミナル効果もその一例です。
無意識レベルで引き起こされたモチベーションは、私たちによい結果をもたらす場合も、悪い結果をもたらす場合もあります。
4.生理的モチベーションと心理的モチベーション(physiological / psychological motivation)
何か食べたいとか、飲みたいとか、寝たいと思うのは、生理的モチベーション(physiological motivation)、つまり、生理的欲求によるものです。
マズローの5段階の欲求で言えば、①生理的欲求は私たち人間の最も基本的な欲求です。
それより上位の4段階の欲求、つまり、②安全の欲求、③社会的欲求、④承認欲求、⑤自己実現欲求は、いずれも心理的なモチベーション(psychological motivation)によるものです。
認知的な動機は、生理作用ではなく心理作用から生じるものです。
生物学的要因が動機の源である他の動物たちと異なり、人間は、生物学的動機と認知的動機の両方によって、行動を決定しています。
5.利己的なモチベーションと利他的なモチベーション(egoistic / altruistic motivation)
次の分類は、利己的なモチベーション(egoistic motivation)と利他的なモチベーション(altruistic motivation)です。
利己的な動機づけは、自分の利益のため、あるいは自分の欲求を満たすための行動を引き起こすモチベーションで、目先の快楽、出世、金銭的報酬、他者からの尊敬を得ることなど、さまざまな目的をとります。
利他的な動機づけは、無私の意図によって特徴づけられ、見返りなしに他人の幸福や成長のために支援したり、助けたいという欲求に関係しています。
利他的動機づけは存在せず、すべての動機づけは利己的だという見解もあります。この見解の支持者は、人は他人を助けることで自分が良い気分になりたいというのが真の動機であると主張しますが、「他人を傷つけてはいけない」「盗んではいけない」などの道徳的なモチベーション(moral motivation)が、100%利己的な動機であると言い切ることはできず、意識と無意識の両方のモチベーションが影響しているでしょう。
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結局、モチベーションを高めるにはどうすればいいのか?
以上、モチベーションの4要素と、外発的動機と内発的動機、意識と無意識、利己的と利他的などのモチベーションの分類、そして、それぞれの分類で対極にあるモチベーションの特性を紹介しました。
これらのモチベーションの分類は、それぞれ独立しているわけではなく、むしろ重なり合っています。例えば、外発的なモチベーションで、同時に無意識かつ利己的なモチベーションもあります。
では、結局、私たちはモチベーションを高めたり、行動を持続するにはどうすればよいのでしょうか?
頭で分かっていて何かをやろうとしても、心がついてこないことはたくさんありますよね。
私たちの行動は、頭と心という、時に対立するシステムでコントロールされているからです。つまり、私たちの中には相反するモチベーションが共存しているのです。頭のある部分は、ある行動を進めようとする一方で、別の部分はその行動を抑制しようとするのです。
私たちは、この対極にあるモチベーションの両方をうまく使う必要があります。
人間は理性の動物ですが、感情の動物でもあります。
私たちの理性の力には限界があり、ほとんどの人は、理性だけに頼ったモチベーションを長く持続することができません。時には、外発的動機や利己的な動機など、感情が喜ぶようなモチベーションもうまく利用するのです。
以下は、モチベーションを高めたり、望む行動を継続するためのいくつかのポイントです。
- モチベーションには、必ず目的が存在する。逆に言えば、目的が明確でないのにモチベーションを高めたり、長く持続することはできない。あなたの本当の目的は何ですか?
- 頭と心の両方が共感するような大きな目的を持つほどモチベーションを長く持続できる
- しかし、実現困難なほど高い目標だけではやる気がくじかれるので、小さな目標に小分けする。小さな成功体験を積み重ねられるほど、モチベーションを持続できる
- モチベーションは時間と共に下がることが多い。ガソリン満タンで長距離ドライブを始めても途中で燃料補給が必要なように、途中でモチベーションを補強する工夫があると効果的
- いくら高いモチベーションを長く持続できても、間違った方向に進み続ければ、目的に到達することはできない
- 内発的、自律的、主体的なモチベーションは長く持続する。それらが生まれるような環境を整える
- あるいは行動が習慣づけられるように環境を整える。行動を習慣づけできると、モチベーションの力を利用しなくても、行動を持続できるようになる。最終的にはモチベーションの力をあまり利用しなくても行動が継続できる仕組みを整える
- 理性や意志だけで高いモチベーションを持続するのは難しいため、今回紹介した様々なモチベーションを組み合わせる
- ただし、外発的動機や制御型のモチベーションには限界があり、また副作用もあるため要注意
- スキルが明らかに足りないのにモチベーションを持続することはできない。足りないスキルは高める必要がある
- 誰もが、モチベーションの着火剤、発火点を持っている
- 自分の中には、行動を取りたい自分と、取りたくない自分の、相反する2人の自分がいることを理解する
- 多くの人は1人では高いモチベーションを持続できない。目的を共有する仲間の存在が大切
- 他人を勇気づけることで、自分も勇気づけられる
- メンバーのモチベーションを高めるリーダーは、リーダー自身のモチベーションが高い
- 逆にモチベーションの低いリーダーは、メンバーのモチベーションを高められない
- チームのモチベーションを高めるには、リーダー自身がモチベーションを保ち、目的を明確に指し示し、チーム全体で共有し、メンバーの自律的、自発的な動機を引き出すために環境を整える
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さいごに
最後に、モチベーションを引き起こす脳の仕組みという観点から見ると、最も重要な神経伝達物質はドーパミンです。ドーパミンは私たちに「期待する喜び」をもたらし、欲しいものを手に入れようとさせる脳内物質です。
ちょっと難しい話をすると、ドーパミンの主要な脳内経路は4経路ありますが、そのうち、短期的で感情的な欲望を満たそうとするのは、ドーパミンの中脳辺縁系経路(mesolimbic pathway)によるもので、長期的に努力するなど意志の力で目的を達成しようとするのは、別の回路である中間皮質経路(mesocortical pathway)によるものです。
今回紹介した様々な種類のモチベーションにも、実はこれらの異なるドーパミンの経路が関わっています。モチベーションを引き起こすドーパミンの働きをより詳しく知りたい方は、以前書いたドーパミンに関するこちらの記事やこちらの記事をご参照ください。