You are currently viewing 組織改革は「Minimum Viable Change(MVC)」で実現する

組織改革は「Minimum Viable Change(MVC)」で実現する

  • 投稿カテゴリー:組織が変わる
  • 投稿の最終変更日:2023年4月30日
  • Reading time:5 mins read

組織改革は大きな変革です。未知の環境に踏み出す旅のようで、道中では予期せぬ事態が起きたり、妨害に遭ったりします。つまり、最初に全てを計画して進める事はできません。スタートアップ手法の「Minimum Viable Product:MVP」同様に、小さな変革を幾度も回して行くのが効果的です。

~ ~ ~ ~ ~

以前、昭和型経営からアジャイル型経営へ:経営層の意識改革で、「ウォーターフォール・予測型モデル」と「アジャイル・モデル」の紹介をしました。
「ウォーターフォール・予測型モデル」は、開始前にやるべき事とその順序が明確になっており、あらかじめ計画した通りにやる事で成果を上げるプロジェクトに最適なモデルです。
組織改革(組織レベルでの改革)は最初に予測できない要素が多いにも関わらず、「最初に主な要素のほとんどが想定できる」という前提の「ウォーターフォール・予測型モデル」でプロジェクトを進めがちです。しかも、本来組織の変革に不可欠な人の改革、意識・マインドセットの改革には手を付ける事はなく、システムの刷新とか、新しいシステムの導入等の技術的な側面での変革に終始した対応のみに陥りがちです。

また、組織改革は、組織再編等の「大なたをふるう」対応になることもよくあります。「大なたをふるう」対応は、組織が存続の危機にあるような時には適切な場合もあるでしょう。そのような崖っぷちにあるような場合は、組織全体が見る方向=ベクトルが一致する場合が多いです(つまりみんな生き残ることに全力になる)。
しかし通常は、掛け声は大きく、多くのリソースを費やすものの、言ってることが実は抽象的でよく分かっていなかったり、言動が一致していなかったり、正直ほとんどの人がどこに向かうべきなのか、どこに向かっているのか分からず、混乱しながらも忙しくするだけで、問題の核心部に手が付けられる事はありません。
担当者から見ると、とても達成可能とは思えず、どうしようもない無力感に、体裁だけ整えて結果を出したことにする、社内で非難されないように辻褄を合わせる作業に逃げ込んでしまいます。

組織改革は、「ウォーターフォール・予測型モデル」ではなく、目的を明確し共有した上で、途中変更が当然起きるという前提で、新たな発見を次の反復プロセスのインプットにして改良・改善を繰り返す「アジャイル・モデル」で進めるべきです。
人や組織を変えようという試みでは、どう人や組織が反応するかは事前に知る事ができません。できるのはこう反応するのではないか?と推測=仮説を立てる事です。
いかに人を管理するかではなく、人の反応に焦点を当て、仮説を立て、実施、検証し、フィードバックのループを回す事です。

~ ~ ~ ~ ~

では実際具体的にはどう進めればよいのでしょうか?

大きな変革で一気に変えようと計画するのではなく、小さな変革を連続させ実現して行きます。
組織改革が難しいという話は多く聞かれますが、組織改革を大きな課題のまま向き合って対応しようとするからその途方なさに打ち負かされてしまうのです。
今や世界の共通語であるトヨタ生産システムの「改善:KAIZEN」とも共通しますが、トヨタは小さな改善を積み上げる事で世界で追随できる企業がないほど大きな成果を成し遂げました。大きな改革を一本断行して実現した訳ではありません。

~ ~ ~ ~ ~

海外のチェンジマネジメントにおいて、小さな変革は「Small Wins = 小さな勝利」とか「Minimum Viable Change / Minimum Viable Transformation = 最小限の変革」と紹介されています。
「Minimum Viable Change:MVC」は、スタートアップ手法で有名な「Minimum Viable Product:MVP」を引用して作られた言葉です。

「Minimum Viable Product:MVP」は「必要最低限の機能だけの製品」を意味します。スタートアップや既存企業の新製品・新規事業開発で使用されますが、仮説を立て実用最小限の製品を作り、まずユーザーに提供し、ユーザーの反応を窺います。
そのフィードバックをもとに、製品が本当にユーザーから求められているか判断します。つまり「売れるかどうか」の判断を最小限の費用・期間で行い、その後の改善・変更に繋げていきます。

「Minimum Viable Product:MVP」の分かりやすい例が1999年に靴のオンライン販売を始めたZappos.comというアメリカのスタートアップ企業です。
当時は様々な種類の靴をオンラインで販売する事はまだ行われていませんでしたが、Zappos.comの創業者は「靴もオンラインで売れる」という仮説を立てました。
この仮説を時間とお金をかけずに検証するため、地元の靴屋さんに在庫の写真を撮らせてもらいホームページに掲載、注文が入ったら、なんとその靴屋さんにその靴を直接買いに行ってお客さんに発送するという、とてもアナログな方法で検証を行いました。
客側から見れば注文した商品が届けばよいのでそのような裏事情は関係ないのです。

最小限の費用と期間で靴がオンラインで売れると検証できたZappos.comはその後成功し、事業を展開、業績を拡大し、2009年にAmazon.comに12億米ドルで買収されています。

~ ~ ~ ~ ~

組織改革、チェンジマネジメントでも「Minimum Viable Change = 最小限の変革、小さな勝利」は効果的です。

組織改革マネジメント(OCM)のレディネス評価:その2で変革に対するキャパシティ評価の紹介をしましたが、組織はそのキャパシティ(能力、スキル)以上の事はできません。組織改革そのものは途方もない位巨大で複雑な課題です。組織が有するキャパシティ(能力)でも実現可能な程度に、小さくして対応しなければなりません。
実行可能な小さなチェンジは、必要とされるキャパシティ(能力)も少なくて済みます。
「これならできるかな?」と不安を軽減し、自信を与える事が出来ます。やる事がより明確となり、成功の可能性を高める事ができます。

小さい変革は失敗しても良いため、成功しなければならないプレッシャーも軽減する事ができます。

~ ~ ~ ~ ~

小さな改革には以下のような利点があります。

1.変革の労力・試みが価値がある事を証拠する
小さな変革の成功は、その労力が報われた事を証明します。成功により、従業員が変革の価値をより明確に見えるようになります。
変革に後ろ向きな従業員にも成果の信憑性を与え、少なくても変革に中立的な立場である事を助けます。
もともと
中立的または受動的な立場であった従業員に関しては、関心を引き、消極的な支持者を積極的な参加者に変え、変革の組織が強化される可能性を高めます。

2.チームに自信と勢いを与える
重要なことは、例え小さな取り組みでも、成功は前進である事です。
成功は大きな成果への確実な一歩であり、改革を目指す人とチームに更なる意欲の向上をもたらします。 成功から生み出されたポジティブなエネルギーによって、チームがプロジェクトの次の段階に進むために必要な自信・勢い・意欲・勇気を高めます。

3.検証・フィードバックにより、新たな知見を得る
小さい改革と言えど簡単に達成できるわけではありません。
仮に成功できなくても、仮説・試した事を検証する事で新たな知見を得る事が出来ます。得られた知見により、変革の実現可能性をより高めるための調整が可能になります。

4.皮肉屋を弱体化させ、抵抗を抑える
残念ながら、組織の中には改革に反対・抵抗する人が必ずいます。
小さな変革における勝利は、組織の変化に対して「どうせ上手くいかないよ」という皮肉屋や自分本位の抵抗者を静かにさせる力があります。
小さな変革の成功は、そのような抵抗者・傍観者に本気で取り組む姿勢を見せる事で、「やばい、あいつら今度は本気でやるのか?」と自分も変わる必要があるのではという危機感を植え付けるきっかけを与える事ができます。

5.上司のコミットメントの向上
目に見える結果は、経営幹部、マネージャーに対して取り組みの正当性を証明し、彼らからのサポートを維持・向上させます。経営層のサポートがなければ組織改革は不可能ですので、上司に成功を体験させる事は非常に重要です。

~ ~ ~ ~ ~

小さな改革を行うポイントを2つ挙げます。
レディネス評価から小さな改革案を見出す。
組織改革マネジメント(OCM)のレディネス評価および組織改革マネジメント(OCM)のレディネス評価:その2で紹介したアセスメントを行うことで、そこに小さな変革のアイデアが潜んでいる事に気が付くはずです。

事業のコアな部分の変革ではなく周辺から始める事を意識する。
会社の既存のコアの部分に根本的に異なるモデルを導入しようとすると、侵入するウイルスを追い出すが如く、既存の権力構造からの大きな抵抗が発生します。

本丸に正面から攻め込むのではなく、外堀を埋めていくように、周辺事業、ある部署に限って限定的に始める事、新規事業に取り入れる事、うまく行っていない事が社内の共通認識としてある課題等、抵抗が少ない所を意識するのも良いでしょう。

コメントを残す

CAPTCHA