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変革の書籍紹介:小さな赤い賢明さの本 Little Red Book of Wisdom

  • 投稿カテゴリー:人が変わる
  • 投稿の最終変更日:2023年10月4日
  • Reading time:8 mins read

人生は出会った人と出会った本で成り立っています。
私には、1年や2年といった長い周期で時々手に取り直して、読み返す本が何冊かあります。読み直すたびに、その時々の自分と今の自分が対比される気がします。

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小さな赤い賢明さの本 Little Red Book of Wisdom

私には、1年や2年といった長い周期で時々手に取り直して、読み返す本が何冊かあります。
今回紹介するこの本もその中の1冊です。なお、本書は英語版のみで日本語訳版はありません。

繰り返し手に取るのは、この本が、誠実さと道徳観を核とした芯がしっかり1本通っていて、それが少しもぶれてないからです。
同様の本は他にもありますが、この本に比べると、とても軽く感じるか、逆に難しく書き過ぎていて響いてこなかったりします。
この本からは、強い信念とぶれない規律を感じ取ることができ、読み直すたびに、背筋が伸びる感じがします。

しかし、今の時代で、このような本が主流になることはないのでしょう。
初版は2007年なので決して古い本ではありませんが、多くの人にはむしろ古臭ささえ感じるかもしれません。

世の中には、もっとお手軽に利用できる(ように見える)ハウツー本やモデル、テクニックを紹介する本があふれていますが、この本には、原理やものごとの本質、規律が書かれています。
もっと正確に言えば、モデルやテクニックでなく、原理に沿って考え、判断し、規律をもって行動する著者マーク・デモス(Mark DeMoss)の姿が書かれています。

いくらモデルやハウツーを知っていても、本質や原理を知らなければ、表面的なレベルでの適用に留まり、たどり着きたい所には到達できません。しかし、一度原理にたどり着けば、モデルはそれをどう表現するかを示しているものに過ぎず、また、多くのモデルが同じ原理を少し見方を変えて、違う言葉を使って表現しているだけだと気付くのです。

本書には、全体を通してキリスト教色があります。著者のデモス自身が敬虔な福音主義信仰者であり、彼が設立した会社(The DeMoss Group)自体も、キリスト教団体向けのパブリック・リレーションをサービス提供しています。
なお、彼は、共和党のミット・ロムニー(Willard Mitt Romney)の、2008、2012年大統領選のシニアアドバイザーも務めました。

私はキリスト教徒ではありませんが、この本に過度に教義的なものを感じたり抵抗を感じることもありません。なぜなら、先ほど紹介したように、それよりも誠実さと規律が、本書のさらに強い核をなしているからです。

このような本を読みにくそうと毛嫌いする人もいるかもしれませんが、そんなことはありません。
(私が読んでいる2011年版は)全23章からなりますが、各章が独立した内容になっていることもあり、むしろ読みやすいかとも思います。

今回は、その中からいくつかの章を紹介しましょう。

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快適な環境から抜け出し、困難に自ら向かい合う

16歳のとき、デモスは、夏休みが始まる6月初旬の月曜日、朝7時45分、ペンシルベニア州の田舎町で車からおろされ、こう言われました。
「君の最初の家はあそこだ。今夜9時にまたここに迎えに来るよ。」

尊敬する父の意向に沿い、テネシー州のサウスウェスタン・カンパニーが主催する、学生を対象にした書籍の訪問販売訓練に参加したのです(※ この訪問販売訓練は現在も行われています。聖書、児童書セット、医学事典等の訪問販売で、訓練生には売上の42%の報酬が与えられます)。

それまで、デモスはお金に不自由のない、居心地のいい内向的な人間でしたが、突然一軒一軒本を売り歩くことになります。同じころ、同級生の多くは、軽くアルバイトをするか、のんびり夏休みを過ごしていました。

1日13時間労働をほぼ3ヵ月続けました。実家から車で2〜3時間の距離なのに、家は遠く遠く感じられました。
どの地域のセールスが割り当てられるかも直前まで分からず、寝どころさえ与えられた地域で自ら見つけなければなりません。

デモスとダンの2人のチームは、担当になった地域でいくつかの教会に電話をかけ、ある教会の引退した夫婦が2階に寝室を2つ持ち、すぐに寝場所を確保できたのでラッキーでしたが、何週間も仮住まいを余儀なくされるチームもいました。
しかし、住む場所を確保できる、できないにかかわらず、月曜日の朝には全員が売りに出ます。

朝6時に起床し、8時からセールスを始め、午後9時までに最後のセールスを終えます。月曜日から金曜日まで(土曜日は朝8時から夕方6時まで)、1日80軒のドアをノックし、30件のセールス・プレゼンを目標にしました。

13時間は地獄のように長く感じました。午後になると、何度も時計を見るのですが、壊れて動いていないかのようでした。
なによりもきつかったのは、労働時間や見知らぬ土地ではなく、拒絶されることでした。ドアがそっと閉まればまだよい方で、バタンと閉める人たちに心を痛められました。

辛い仕事でしたが、時が経つにつれて、デモスの考えは変わっていきます。大学生の訓練生まで脱落していく中で、帰りたいと思うどころか、頑張り通して大金を稼ぐんだという決意を固めていくのです。

いつになったら終わるのか時計を見てばかりいたのに、残された時間がどの位あるか確認するために時計を見るようになります。昼食はダラダラ食べていたのに、昼食抜きで歩くようになります。
同情する訪問先の家族から夕食に誘われても、残された販売時間を惜しみ丁重に断ります。毎日、日が暮れるにつれ、最後の1軒、最後の見込み客を探し求めました。

デモスは、その後の人生で、これほど大変な仕事をしたことはなく、これほど良い訓練を受けたこともないと言います。友人が夏休みを楽しむ間に、デモスは、顧客は商品ではなく、売っている人を買うのだということを学びました。恐怖に立ち向かえとはよく言われますが、彼はその時すでに、自分の足で道を切り開く方法、怖くても前に進んで何かをすることを学んだのです。

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傘の下にとどまる

香港にジョンという名の宣教師がいました。ジョンは様々な国を渡り歩き、人々に奉仕してきました。ある日、アジアへ市場を拡大しようとするアメリカの水鉄砲メーカーの重役がジョンを香港の高級レストランでの昼食に誘います。
重役がテーブルに身を乗り出して言います。「ジョン、20万ドルの給料を払うから、うちで働いてくれないか?」

しかし、ジョンは「興味はない」と即答します。

「今、いくら稼いでいるんだ?」と迫られると、ジョンは躊躇せず答えます。
「8千ドルだよ。しかし、私はここで神に仕え、やるべきことをやっていて、これほど幸せなことはない。」

数年後、デモスはジョンに、なぜこのオファーや他の同様のオファーも断り続けたのか尋ねます。ジョンは、それを「傘の下にいる(staying under the umbrella)」という表現で説明しました。

「傘から出れば濡れる。私は自分の天職と目的をすでに知っている。お金や他の何かに邪魔されるつもりはなかった。」

彼の背後には、子供たちのキャンプ、孤児院、教会、そして変化を繰り返してきた人生の足跡があったのです。

ジョンは「傘(umbrella)」と呼びましたが、デモスはそれを「フォーカス(Focus)」と呼びます。自分に与えられたもの、目的を見失わないための内なるコンパスです。

筆者であるデモスが設立し、代表を務めるデモス・グループ(The DeMoss Group)は、先ほど述べたように、開業当初から、PRというひとつのサービスを、キリスト教団体というひとつの市場に提供し続けてきました。

どんなに儲かりそうでも、善意であろうと、道を外れたプロジェクトは断ってきました。資金集めの助言も、ラジオやテレビの仲介も、ビデオ制作も、テレマーケティングもです。ある大手スポーツドリンクの販促プロジェクトも断ったことがあります。その仕事は儲かると言われ、しかも楽しそうでした。しかし、会社のミッションとは何の関係もありませんでした。

残念ながら、このコンパスは今の世の中では、とても希少なものになっています。

コンパスの真北を目指したい、あるいは失った方向を取り戻したいと願う人は、まず、何が自分の心を躍らせるのかを問うことから始めることができます。

ビジョンがぼやけている企業や組織は、汗水たらして簡潔なミッション・ステートメントの作成に取り掛からなければなりません。しかし、ステートメントが簡潔であればあるほど、その作業は大変なものになります。

使命が明確になれば、その使命に従い、それからの1日1日を、1回1回の決断を積み重ねるのです。フォーカスとは、使命から外れたことにはノーと言える規律であり、規律こそが真の自由のベースになるのです。自分の傘を見つけ、その傘の下にとどまるのです。

成功の秘訣は、目的に対する変わらない姿勢である。
~ ベンジャミン・ディズレーリ(ビーコンズフィールド伯爵)

The secret of success is constancy to purpose.
~ Benjamin Disraeli, Earl of Beaconsfield

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誠実さに度数はない

2005年、辞書出版社メリアム・ウェブスターのオンライン・サイトにログインした人は700万人にのぼりました。
その中で、他のどの単語よりも調べた人が多かった単語が「integrity」です。

その意味は 「価値基準や行動基準を厳格に守ること。個人的な誠実さ。完全性。統一性。健全さ」です。
なぜ、誰もが知っているはずの言葉に多くの人が関心を持ったのでしょうか?

私は2004年からアメリカにいましたが、当時エンロン(Enron)やワールドコム(Worldcom)といった巨額不正事件の余波が残っており、ニュースでも度々取り上げられるのを見た記憶があります。

1000人のアメリカ人投資家に「強い倫理観と高いリターンのどちらを重視して金融サービス会社を選びますか?」と尋ねたある調査によれば、高いリターンを選んだのはわずか50人でした。
もしそれが真実だとしたら、なぜ人生で大切なものを軽んじるのでしょうか。生涯をかけて築き上げた評判を、一瞬のうちに台無しにしてしまうのはなぜでしょうか。

私たちはよく、「誠実さが高い」とか「低い」と表現されるのを耳にしますが、デモスの考えではそれは不可能です。
もし誠実を意味する「インテグリティ(Integrity)」が「完全性」を意味するのであれば(ラテン語のintegritasは文字通り「全体」を意味します)、誠実さに関する問いは「イエス」か「ノー」かの二者択一であり、「どれだけ少ないか」でも「どれだけ多いか」でもありません。

いったん妥協すれば、大切なものが失われます。賢明な人たちは、自分が誤りを犯しやすいことを知っているので、道しるべとなる羅針盤として、守るべき壁として、結びつける接着剤として、誠実さを堅持します。

羅針盤の奴隷となる者は、海の自由を持つ」のです。

絶対的な誠実さを、すべての行動における指針とすること、そして、誠実さを持つ人たちに囲まれるようにするのです。

雇用と昇格の基準は、第1に誠実さ、第2にやる気、第3に能力、第4に理解、第5に知識、そして最後が経験である。
誠実さがなければ、やる気は危険であり、やる気がなければ、能力は無力であり、能力がなければ、理解には限界があり、理解がなければ、知識は無意味であり、知識がなければ、経験は盲目となる。
経験は、このすべての資質を備えた人々によって容易に提供され、有効に活用される。
~ ディー・ホック(Visaクレジットカードの創設者兼元CEO)

Hire and promote first on the basis of integrity; second, motivation; third, capacity; fourth, understanding; fifth, knowledge; and last and least, experience.
Without integrity, motivation is dangerous; without motivation, capacity is impotent; without capacity, understanding is limited; without understanding, knowledge is meaningless; without knowledge, experience is blind.
Experience is easy to provide and quickly put to good use by people with all the other qualities.
Dee Ward Hock

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さいごに

著者のマーク・デモスは、がんを患った後、2019年に、自身が28年前に立ち上げた大好きだった会社と事業を閉じました。

そのホームページには1ページだけ残されていて、感謝の言葉がつづられています。
その中で彼は、さまざまな感情の中で、感謝ほど深いものはなかったと述べています。
また、書籍にも書いている「フェンスの柱の上の亀(a turtle on a fencepost)」という言葉をホームページでも取り上げています。

亀は自分でフェンスに登ることはできないので、フェンスの柱の上にいる亀は、誰かに登らせてもらってそこにいるという意味です。

彼の母校であるバージニア州のリバティー大学での集会での講演も下のYoutubeで見ることができます。

 

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