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組織の階段を昇りつめるスキルとその後必要なスキルの違い。リーダーのパラドックス

  • 投稿カテゴリー:組織が変わる
  • 投稿の最終変更日:2025年2月8日
  • Reading time:8 mins read

組織の階段を昇りつめるスキルと、昇りつめた後に組織を束ねるスキルは異なります。むしろ、組織を昇りつめるための優れたスキルが、昇りつめた後に足かせになることさえあります。例えば、組織を昇りつめるためには自分がスポットライトを浴びる必要がありますが、その後は、他人が輝けるように手助けすることが必要になります。

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はじめに

周囲にいる人たちはほとんど分かっています。しかし、本人には何も言いませんし、言えません。結果として裸の王様のような経営者がうじゃうじゃしてます。

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製造販売会社A社 佐藤社長

製造販売会社A社は、創業75年を迎えた老舗の会社で、創業から業界をけん引してきました。
しかし、近年、新規事業を次々軌道にのせ業績を大きく伸ばすライバル会社に比べ、A社の業績は右肩下がり、年々その差が開いています。

製造販売会社A社の佐藤社長は、若い頃やる気があり勤勉でした。新入社員として入社してから積極的に業務に向き合い、様々なことをどん欲に学びました。納期が厳しい仕事でも、夜遅くまで働くことで、締め切りに間に合わせました。彼は工場の生産係からスタートし、営業とマーケティングを経て、会社の成長に貢献し、そしてトップの座に昇りつめました。

佐藤社長は今、会社のすべてを知っている、誰よりも知っていると自負しています。仕事に関して自分が知らないことはありません。そのため、様々な議論に対して、自分なりの素晴らしい考えがすぐに浮かんできます。

難点は、自信にあふれるあまり、頭より口が先に出てしまうようになったことです。自信にあふれるあまり、他人の意見を聞くことができなくなったことです。自分が持つ権力の大きさを理解せずに、それまでの延長線上で自分が真っ先に断言的な発言をして、他の参加者がほとんど意見せずに終わる社内会議が増えてしまったことです。

図:製造販売会社A社の組織図

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佐藤社長。ある会議にて

1 か月前、高宮課長が率いる開発チームによる、新しい製品開発のパッケージのデザインについての会議がありました。

高宮課長の説明が終わると同時に、佐藤社長が口を開きます。
「全体的なデザインはいいけど、色が良くないね」
「斬新さを出したい気持ちは分かるけど、当社の伝統色である紫色をベースにした方がやっぱりいいよね」
他の参加者はうなずき、会議は終了しました。

1か月後、再び会議が開かれます。高宮課長は紫色をベースとしたパッケージデザインをいくつか用意してきました。

佐藤社長は言います。
「う〜ん、ちょっと違うね。今までのデザインにこだわりすぎじゃないか?今回は今までの製品と違って斬新さが売りなんだから、黄色とか赤とか、目線を変えて大胆な色使いを加えたらいいんじゃないか」

デザインチームは一斉に目を丸くします。1か月前に言われたことと真逆の指示が出たのです。

「社長は自分が1か月前に言ったことを覚えていないのだろうか?」
もちろん、誰もそんなことは聞けません。

チームは1か月の努力と時間を無駄にしました。しかし、佐藤社長にとって大切なのは、会社で一番重要な人物である自分の考えです。自分の意見がいかに反映されるか、自分の時間がいかに有効に使われるかが最大の関心事であり、従業員の時間が効率的に使われようが、無駄になろうが、気にかけません。

ひょっとしたら、佐藤社長は、深く考えることなく、ただ言っているだけなのかもしれません。
しかし、その一言が何十時間、何百時間という従業員の時間を棒に振り、その結果、何十万、何百万というお金を無駄にすることを理解していません。あるいは、そもそもそれすら気にも留めていないかもしれません。なぜなら、どんな仕事であれ、経営者のために時間を提供するのが従業員の仕事だと思っているからです。

組織の上に行くほど、あなたの提案は命令になります。
あなたの言葉は、誰も逆らうことのできない指示になります。

佐藤社長は、アイデアを投げかけただけかもしれません。
しかし、従業員は、社長が自分たちに直接下した命令だと捉えます。

佐藤社長は、長年の経験を生かして従業員を教育しているつもりなのかもしれません。
しかし、従業員は、それを時代遅れだったり、非効率とか無神経とか、現場を理解していない的外れな意見と捉えていたり、細かすぎる管理や権限乱用と見ています。

佐藤社長は、誰もが意見を言うことができる民主主義的な会社を経営していると思っているかもしれません。
しかし、従業員は、佐藤社長が王様である君主制か、独裁者が支配する帝国だとさえ思っているかもしれません。

組織の上に行くほど、自分が従業員の目にどう映っているか知る必要があります。
組織の上に行くほど、自己認識は他人の認識とは乖離していきます。

佐藤社長は、自分が優秀で尊敬されるべきと思い込んでいるかもしれませんが、実際には、ほとんどの従業員が経営者としての素質がないと思っています。

佐藤社長は、自分が社長に留まってもうひと頑張りしなければ、会社は持ちこたえられないと思っていますが、従業員は、早く社長の座を明け渡してもらわないと、会社はつぶれてしまうと思っています。

佐藤社長はそれに気づいていません。
むしろ、問題は従業員の能力不足だと思ってます。会社がうまくいっていなのは、自分の経営が良くないからではなく、従業員が良くないからだと考えています。自分の指示が的外れなのではなく、それをくみ取らない従業員のせいだと考えています。

そして佐藤社長のような経営者は、いまだに驚くほどたくさん世の中に存在しているのです。

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佐藤社長に必要なもの

佐藤社長に必要なのは他人からの意見です。

他人からの意見を受動的に受け入れるだけでなく、積極的に自ら色んな人たちに自分に対する意見をお願いすることです。

みんなが自分について本当はどう思っているか尋ねるのです。その際、相手の話をさえぎったり、反論してはいけません。ただ率直な意見を求め、耳を傾けるのです。そして、そのフィードバックを受け入れるのです。

単純なことのように感じるかもしれませんが、すでに佐藤社長のように成功を重ねた末に組織の頂点にたどり着いた人たちにとっては、到底受け入れることのできないとてもとても過酷な試練です。

しかし、会社の同僚、家族、友人、コーチ、メンターなど、話しやすい人から始めることができます。それを少しづつ広げていくことで、できるだけ多くの人から意見をもらうことができます。

正直な意見を聞き、自分には改善の余地があることを受け入れ、その問題行動を変えることを決意するのです。

繰り返しますが、正直に言って、自分の問題や弱点を受け入れること、これは成功を続け組織の階段を昇ってきた人たちによって最も受け入れがたく、ほとんど実現不可能なタスクです。しかし、多くの人が階段を昇り切った後に失敗しているのは、専門知識や経験が足りないからではなく、他人からのフィードバックを受け入れることができないからなのです。そのため、この問題を回避することはできません。

もし、自分の誤った行動によって影響を受けた人がいるのならば、その人たちに謝りましょう。
過ちを認め、心から謝罪することで、信頼を再構築し、関係を改善できます。謝った後に、その人たちに更なる手助けを求めましょう。自分の行動を通じてのみ他人の認識を変えることができます

あなたが変わろうとしていることがその人たちに伝われば、協力を得ることができるでしょう。しかし、それが伝わらなければ、協力を得ることはできません。それが伝わるか、伝わらないかは自分次第です。

継続的に協力を得るためには、自ら定期的にフォローアップをお願いする必要があります。それが、自分の成し遂げた成長を知る唯一の正直な方法であり、自分がまだ努力していることを周りの人たちに思い出させる方法だからです。

このプロセスの重要な点は、他人からフィードバックをもらった際に、何を言われても、感謝を示すことです。飾り立てたりせず、ただ心から「ありがとう」と言うだけで十分です。

しつこいほど繰り返しますが(笑)、多くの成功できない経営者にとって、このような提言を受け入れることはできません。彼らのプライドがそれを許さないからです。「何を言っているんだ、そんなの受け入れられるか!」と鼻であしらう経営者は山のようにいるでしょう。しかし、だからあなたは成功できないのです。組織を成長させることができないのです。

成功している人たちは積極的にフィードバックを求め、それを謙虚に受け入れているのです。最高のリーダーは、同僚、従業員、さらには友人や家族からもフィードバックを求めることを習慣にしています。傲慢だからではなく、謙虚さと変化への意欲を示すことで、尊敬を集めているのです。

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リーダーのパラドックス

こんな佐藤社長ですが、そもそもなぜ社長まで昇りつめることができたのでしょうか?

それは社長としての資質は持ち合わせていないものの、社長まで昇りつめる資質は持ち合わせていたからです。

つまり、組織の階段を昇りつめるスキルと、昇りつめた後に組織を束ねるスキルはまったく異なるからです。
むしろ、組織を昇りつめるための優れたスキルが、昇りつめた後に足かせになることさえあります

自信、野心、自尊心、自己主張、技術的専門知識など、階層組織の階段を昇り、成功を導いてきたスキルが、実際リーダーになった後に、他人を導き、さらに組織を前進させようとするときに足かせになる「リーダーのパラドックス」です。

例えば、真に優れたリーダーは、「話す」よりも「聞く」を重視します。しかし、組織の階段を昇りつめるために必要なスキルは、聞くことよりも話すことなのです。聞く人間より話す人間の方が出世するのです。

リーダーシップとは、他人を高めることです。しかし、組織の階段を昇りつめるために必要なスキルは、自分が成果を上げるために、自分の能力を高めてそれを示すことです。他者中心ではなく自己中心的な姿勢です。

また、真に優れたリーダーは、メンバーを信用し、メンバーを輝かせることができます
しかし、組織の階段を昇りつめるためには、部下を信用することよりも、幹部から信用を得ることが必要です。組織の階段を昇りつめるためには、他人が輝けるように手助けするよりも、自分がスポットライトを浴びることが大切なのです。

このような理由から、真にリーダーシップがある人たちは、組織の階段を昇りつめるスキルを持ち合わせておらず、階層主義の会社では、せいぜい「部下から信頼される部長」止まりということも多いです。
私にも、若い頃に私の成長を後押ししてくれた部長がいます。その部長が役員まで昇格することはありませんでした。しかし、その部長は私のキャリアの中で私が最も感謝している上司です。

多くのリーダーは「リーダーのパラドックス」を理解していません。現在の地位を達成したので、同じように続ければ、自動的にさらに高いレベルに到達できると考えています。

また、組織の階段を昇りつめた人は、その成功体験から、自己奉仕バイアスを強め、自分が正しいと信じすぎる傾向があります。そして、次のような症状を示します。

  • 仕事やプロジェクトの成功に対する自分の貢献を過大評価したり、誇張する
  • 自分の賢さ、知性を証明する、能力を示す、重要さをアピールするなど、自分自身に過度に集中する
  • 実際には他人の成功を、部分的または完全に自分の手柄にする
  • 自分の専門的スキルと同僚のスキルを比較し、自分の方を高く評価する
  • 自分の失敗やミスは都合よく無視したり、人のせいにする
  • 過去の成功談をやたらと口にする
  • 他人の話をきちんと聞かない。他人の話をさえぎる
  • 他人の貢献を認めない。過小評価する
  • 他人に自分と同じ基準を課す
  • 何が良いかではなく、何が「正しいか」に執着する

これらの妄想は、成功がもたらす副作用です。成功は自己満足を生み、自信過剰を生み、自己欺瞞を生みます。これを避けるためには、成功するほどにいっそう謙虚にならなければなりません。

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他人ではなく、自分を疑うこと

変わるべきなのは他人ではなく自分です多くの経営者は、自分の小さな行動上の欠陥がいかに大きなマイナスの影響を組織や従業員に及ぼしているのか気付いていません。しかし、これを逆から見れば、小さな行動の変化で、自分がどのように見られるかを大きく変えることができます。

リーダーシップの有効性は、自分が自分をどう思うかよりも、他人が自分をどう認識するかにはるかに関係しています。リーダーシップは、専門知識の有無ではなく、人によい影響を与える力、信頼、人間関係を構築するスキル、メンバーの動機づけを支援することだからです。

自分の性格を一新する必要はありません。
成功の道のりを歩んできた過程で身に付けた悪い習慣を修正することに焦点を当てましょう。
成功しても欠点がないわけではないことを受け入れましょう。

最高レベルのリーダーシップには、特に対人関係と感情スキルにおいて、異なるスキルセットが必要です。大成功を収めた人であっても、キャリアを前進させ続けるためには、他人の意見に耳を傾け、フィードバックを受け入れ、自分を見つめなおし、自分自身を変化し続ける姿勢が必須です。

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さいごに:リーダーはマネージャーの延長でもない

さいごに、リーダーはマネージャーの延長でもないことを述べておきましょう。
以前本サイトで書いた記事「リーダーの神話:「経営者は孤独」ではなく「できない経営者が孤独を感じる」だけ」の中で、間違った神話として、リーダーはマネージャーの延長だと考えている経営者が多いと書きました。

有能なリーダーは従業員への管理を強化するのでなく、それまでの管理を手放し、いかにメンバーに権限移譲するかを考えます。有能なリーダーは、従業員をコントロールすればするほど、自律性を抑制し、従業員だけでなく、組織全体が成長する可能性が低くなることを知っています。リーダーの仕事はコントロールではなく、エンパワーメントだからです。

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