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リーダーの神話:「経営者は孤独」ではなく「できない経営者が孤独を感じる」だけ

  • 投稿カテゴリー:組織が変わる
  • 投稿の最終変更日:2023年10月13日
  • Reading time:7 mins read

「経営者は孤独だ」と言われます。確かに責任は大きく、従業員の望まない決断を下さなければならない時もあるでしょう。しかし、孤独なリーダーはそもそもリーダーとして機能していません。強い信念がなく、不安や負の感情に支配され悪い判断をします。良いリーダーは、明確なビジョンを持ち目的に向かってメンバーにポジティブな感情を引き起こし共に進むのです。

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「経営者は孤独だ」の神話

「会社のトップは孤独だ」「社長業(経営者)は孤独だ」と良く言われます。
責任が重く、厳しい決断をしなければならない事、難しい舵取りを迫られる事があるからでしょう。
しかし責任が重く厳しい決断をするから、孤独という事はあるでしょうか?それでは、厳しい親、監督、コーチ達はみな孤独なのでしょうか?
リーダーは組織の中で多くの人たちに囲まれています。組織で一番裁量権を持っており、自分が思う事が実現できるのもリーダーでしょう。そして通常、収入面でも組織の中で最も恵まれています。それなのに、なぜ孤独なのでしょうか?

22,000人のフルタイム労働者を対象としたコロンビア大学の2015年の調査によると、組織で一番ストレスを抱えているのは経営者ではなく中間管理職です。調査では、スーパーバイザーの18%、マネージャーの16%がうつ病に苦しんでいるのに対し、一般労働者は12%、経営者では11%のみでした(1)(2)。つまりこのデータ上は経営者は一番ストレスを抱えていません。
32万人以上を対象にした2014年の別の調査では、仕事の満足度、エンゲージメント、コミットメントで下位5パーセントに入るのは中間管理職でした(3)
人間社会だけでなく、お猿さんの世界の調査でも、ストレスを一番抱えているのは中間層です(笑)(4)

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組織のトップにいて孤独ならば何かが間違っている

リーダーシップ論の権威であるジョン・マックスウエル(John Maxwell)は「もしあなたが組織のトップにいて孤独ならば、あなたのやっている事は何かが間違っている」と言います。

If you are lonely at the top, then you are doing something wrong.

~ John Maxwell

孤独を感じるリーダーはリーダーとして機能していません。孤独を感じるリーダーは「物理的には」多くの人に囲まれていながら、「精神的には」孤立しています。なぜなら自身の強いビジョンがなく、リーダーを囲む人たちとの信頼関係もないからです。そして、それは全て自分が招いたものです。

  • 常に上から目線、管理者目線で、指示・命令ばかりで従業員の意見を聞かない。
  • 明確な信念がなく、言っている事に一貫性や説得力がない。
  • 部下に責任を押し付ける割には、部下を信用せず権限を与えない。
  • 自分の地位を脅かすものを常に警戒する。
  • ビジョンも行動力もないので、何をやればよいのか分からず自信がなく不安に苛まれる。

つまり、孤独を感じるリーダーはネガティブな感情に支配されています。良い組織は決して孤独なリーダーが持つようなネガティブな感情からは生まれません。明確なビジョンを持ち目的に向かってポジティブな感情で先導するリーダーから生まれます。

以下、「リーダーは孤独である」と同様の「リーダーに関する間違った神話」を紹介しましょう。これらのリーダーの神話は、リーダーが孤独と感じる原因とも関係しています。

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間違った神話2:リーダーはマネージャーの延長

多くの会社でリーダーとマネージャーが兼務される事はありますが、特に日本では両者の役割の違いが明確にされない事が多いです。そのため、会社だけでなく、多くのメディアや書籍でもリーダーとマネージャーが混同されています。

マネージャーの役割は、計画や業務を確実に実行するため、プロセスに沿ってシステムを管理することです。マネジメントがタスクベースであるのに対し、リーダーは、大局を見据え、先見性とビジョンを持って、組織にインスピレーションをもたらします。
この点では、リーダーとマネージャーは単に違うだけでなく対局に位置します。マネージャーの主なタスクが既存のシステムの維持管理であるのに対して、リーダーはその既存のシステムを塗り替えて行くのです。マネージャーはリスク管理しますが、リーダーはリスクを取りに行くのです。

多くのリーダーはマネージャーから昇格し、「より広範囲で会社規模のより厳しいマネジメントを行うのが自分の役割」と勘違いしています。そのため、リーダーになったらどうするかと言うと、指示する回数を増やし、指示する声をもっと大きくします(笑)。指示出しを増やす、より厳しく管理する、これは間違ったリーダーシップですが、そもそもリーダーとして何をすべきかも分かっていないためマネージャーとしての役割を強化してしまう所もあります。
有能なリーダーは管理を強化するのでなく、管理を手放し、権限移譲を進めるためにどうするかを考えます。有能なリーダーは、人をコントロールすればするほど、その人が優秀になる可能性が低くなる事を知っています。リーダーの仕事はコントロールではなく、エンパワーメントです。

勘違いしたリーダーの中には、自らのマネージャーの役割を強めるだけでなく、本来担うべきリーダーの役割を意図的に他人に振る者もいます。ひどい場合は、そのリーダーの役割を経営企画部などの部署に押し付けます。
また、優秀なリーダーは、組織のコミュニケーションの醸成に努め、従業員の声を直接聞き、感情を知り、自らの感情を伝え、関係を構築しますが、できないリーダーは人事部にこれを押し付けます。

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2019年6月までBooking.comの最高経営責任者を務めたジリアン・タンス(Gillian Tans)は、Web Summit 2017で「リーダーは孤独か?」という質問にこう答えています。

トップが孤独だとは思いません。全ては自分が築き上げるカルチャー(企業文化)次第です。もし従業員にエンパワーメント(権限移譲)し、失敗を恐れないオープンな文化を築き上げたら、自分たちは誰も完ぺきではないと知り、全員で失敗を共有し、共に学び成長して行くチームが生まれます。

このような組織で従業員とともに働くトップが孤独であるわけがありません。リーダーは人々の中にいるのです。自ら一線を引いて社長室に引きこもって孤独を感じているのはリーダーではありません。

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間違った神話3:リーダーは、何に対しても正しく、全ての答えを持っている

間違ったリーダーは、何か問題が起きると、常に自分が判断しなければならないと考えます。また、自分が下した判断は全て正しいと信じます。
そのようなリーダーは自分の考え、思い、決断を発信するばかりで、従業員の意見や思いを拾い上げる事ができません。反対に優れたリーダーは自分が話すよりも多く相手の話を聞きます。理解するために聞くのです。本当にリーダーとして必要な情報は手元にはなく、自ら取りに行かなければ手に入らないと知っているからです。

また、間違ったリーダーは、弱さを見せる事ができません。「知らない。分からない」と言えず、間違いを認められません。部下に相談できず、失敗を認められないのでフィードバックを得る事もできません。不誠実なリーダーは失敗を認めないだけでなく、従業員に失敗の責任を押し付けます。

今の時代、世界の誰一人として正しい答えを持っていません。真のリーダーはその前提を受け入れ、相反する意見や勇気ある失敗を歓迎し、集団で学ぶ組織を築き上げるのです。

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間違った神話4:輝かしい実績を残した優秀なプレイヤーがリーダーになる

スポーツの世界でも一流のプレイヤーが一流のコーチや監督になれる訳ではありませんよね。逆にプレイヤーとしてはそれほど実績がなくても素晴らしい監督は数多くいます。
企業でもプレイヤーとして優れた実績を上げた一流の実務者が社長まで登り詰める事は多くありますが、リーダーとしての能力があるかは全く別の話です。
この前の神話3にも通じますが、このようなプレイヤーとしての実績を引き下げてリーダーになると、自分の専門分野のみならずその他の分野でも自分が正しいと思いがちで、また自らがヒーローになりたがりがちです。逆に優秀なリーダーは自分の限界とメンバーの強みを知っており、移譲スキルに優れ、部下に手柄を取らせるのです。

リーダーは組織図の一番上に書かれていますが、人間的に何でも一番優れているわけではありません。

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間違った神話5:リーダーが一番偉く強い

この間違った神話に囚われたリーダーは獲得したその「地位」が全てです。組織の中で頂点に登る能力には長けているかもしれませんが、その能力はリーダーとして必要な能力とは一致しません。
リーダーはボスではありません。しかし、その地位にこだわり、自分が一番偉いと思っている間違ったリーダーは、自分を大きく見せる事に躍起になります。
真のリーダーシップは、「地位」ではなく「影響力」から生まれます。社長室や雲の上からチームを監視するのではなく、メンバー達と近い位置にいて、組織を前進させるため、自分が持つ大きな権限を理解して、その役割を自ら率先して果たしていき、メンバーに動機と勇気を与えるのです。

地位ばかりを目指してきたリーダーについてくるフォロワーは、組織の中でポジションを確保する思惑に囚われた人たちばかりで、自己利益のためにそうしているのであって、信頼関係ではなく利害関係で付いて来ているだけです。そのような人たちと本音でビジョンを語り合えるわけがありません。このようなリーダーは関係性の中で誰を次のリーダーに昇格させるか考え、真のリーダーを育てるという意識が全くありません。

リーダーは多くのフォロワーを作るのではない。リーダーは多くのリーダーを育てるのだ。

~ トム・ピーターズ

Leaders don’t create more followers, they create more leaders.

~ Tom Peters

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最後に

孤独なリーダーになるのを避けるには、ほとんどの場合、リーダーになる前にどう準備しておくかにかかっています。
以前「権力のダークサイド」で紹介したように、リーダーというポジションが持つパワーは強力で、残念ながら、リーダーになってからでは時すでに遅し、その負の力に飲み込まれてしまいます。そしてその被害を受けるのは従業員たちです。

また、リーダーまで登り詰める人の多くは、長く自分の時間とエネルギーの多くを仕事に費やしてきたでしょう。そのような人がリーダーになるとますます会社と仕事しか見えない視野の狭いリーダーになります。しかし、リーダーとして必要な能力や創造性は、日々の仕事に追われた状態からは生まれません。
仕事から離れたリフレクションの時間やスペースを作っておく事、社会活動や仕事以外のネットワークを作っておく事が大切です。そうしておいたリーダーは、リーダーになって孤独を感じるどころか、ますますネットワークを広げていきます。

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参考文献
(1) “This is the Reason Your Middle Managers are Stressed“, Digital Onion, 2020/12.
(2) Seth J. Prins, Lisa M. Bates, Katherine M. Keyes and Carles Muntaner, “Anxious? Depressed? You might be suffering from capitalism: contradictory class locations and the prevalence of depression and anxiety in the USA“, Sociology of Health & Illness, 2015/8.
(3) Dana Wilkie, “The Miserable Middle Managers : New technology, fewer meetings, continued learning can help ease their stress“, SHRM, 2020/2.
(4) “Middle managers suffer most stress at work: study“, The Economic Times, 2013/4.
(5) Laura Dolan, “5 leadership myths that could be holding you back“, Keap, 2020/5.

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