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幸せは伝染する:Happiness is Contagious

  • 投稿カテゴリー:社会が変わる
  • 投稿の最終変更日:2023年6月18日
  • Reading time:5 mins read

フラミンガム市の住民を対象とし長い間継続された研究の中で、人と人のつながりと幸福感がどう影響するかが調査されました。その結果、友達の友達の友達といった遠い関係にある人たちからでさえ幸せは広く伝達することが分かりました。私たちは、自分が思うよりも広く遠くまで社会に影響しインパクトを与える可能性があるのです。

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はじめに

幸福感(Happiness)は、私たちにとって最も重要で根本的なものの1つです。世界保健機関(WHO)が健康の構成要素として幸福感を重視するだけでなく、以前紹介したように、OECD(経済協力開発機構)でさえ、GDP(国内総生産)などの従来からの経済的指標では一般の人たちの生活実態を十分に把握できないと考え、幸福感を私たちの生活の質を測る指標として重視するようになってきています。社会の発展とは、経済発展だけでなく、人や家庭の幸福度の向上を意味するからです。(1)
日本でも「ハピネス(happiness)」や「ウェルビーイング(well-being)」といった言葉を目にしたり耳にする機会が増えてきていますね。

幸福感には、さまざまな要因が複雑に絡み合います。学術的にも、医学、経済学、心理学、脳科学、進化生物学など多くの分野で幸福感に関する研究がなされています。(2)

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幸せは伝染する。フラミンガム研究:Framingham Heart Study(2)

アメリカ、マサチューセッツ州フラミンガム市の住民を対象とした、長い年月にわたって継続しているフラミンガム研究(Framingham Heart Study)と呼ばれる研究があります。この研究は、なんと1948年にフラミンガムの成人5,209人を対象にして始まり、2002年からはその孫の世代にまで引き継がれて研究が続いています。心臓疾患に対する食事や運動、一般薬の効果など今では常識となった知識の多くはこの研究から得られたものです。(3)

この研究では、1971年から、参加者の住所や親族(両親、配偶者、兄弟姉妹、子供)、隣人、親しい友人、職場などの情報を記録しています。また、1983年には、同研究で4739人を対象に初めて幸福度が調査され、その後、すべての参加者に対して2003年まで追跡調査されました。蓄積されたデータの解析によって、ネットワーク内の人と人のつながりとその変化を特定し、それが幸福感にどう影響するのか知ることができました。

この調査では、幸福度は4つの質問からなる簡単なテストで評価されました。
「この1週間の間に、①人生を楽しんだか、②幸せだったか、③自分の将来に希望を感じたか、④他の人と同じ程度に良いと感じたか」という質問です。
4つの質問すべてで高得点を得た6割の人たちは「幸せ」と評価され、それ以外の人たちは「幸せでない」と評価されました。調査によって、次のような結果が得られました。

  • 自分と直接的な関係にある人が幸せだと、自分が幸せになる確率が15.3%高まる。
  • 配偶者や兄弟姉妹の友達や、友達の友達など、1つの間接的な関係を介してつながる人が幸せである場合は、自分が幸せになる可能性が9.8%高まる。
  • 友達の友達の友達など2つの間接的な関係を介してつながる人が幸せな場合は、自分が幸福になる可能性が5.6%高まる。

つまり、幸せは配偶者や友人などの直接的な関係にある人たちだけでなく、友達の友達の友達といったかなり遠い間接的な関係にある人たちからも伝染することが分かったのです。また、本調査によって、次のようなことも分かりました。

  • 幸せな人同士がつながり合う傾向がある。
  • 友達が多いことも幸福度を上げるが、幸せな友達がいることの方が幸福度に大きな影響を与える。
  • 人とのネットワークが多くその中心にいる人は幸せになる傾向が高い。
  • 遠いところに住んでいる親戚よりも、隣人など距離的に身近な人の幸せにより影響を受ける。
  • 異性よりも同性の幸福感により影響される。
  • 職場の同僚間では影響が見られず、社会的地位による影響も見られない。

また、不幸な友達が1人増えるごとに自分も不幸になる可能性が7%増加する一方で、幸せな友人が1人増えるごとに自分も幸せになる可能性は9%増加することも分かりました。つまり不幸な人より幸せな人の方が周囲に与える影響が大きいのです。

この研究のデータからは、幸せの広がりをもたらす要因を特定することはできませんが、さまざまなメカニズムが考えられます。
例えば、幸せな人たちは、自分の幸せを他の人たちと分かち合いたいと思うかもしれませんし(他人を助けたり、金銭的に支援するなど)、他人に対する行動を変えるかもしれません(例えば、より親切になったり、競争意識をなくしたり、他人に寛容になる)。幸せな人たちに囲まれていると生物学的に良い影響を受けるという、精神神経免疫学的なメカニズムも考えられます。

また、純粋に幸せという感情が他人に伝染しているのかもしれません。実は、幸福感に限らず、私たちの感情や行動は、模倣や感情伝染によって、ある個人から別の個人へと伝達されます。
感情には社会的な役割があります。私たちはある感情をもつと、それを表に出す傾向があります。例えば、人間の笑いは、他の霊長類がリラックスした社会的状況で見せる表情から進化したものと考えられていますが、笑いや笑顔が特に顔の表情を真似ることによって人から人へと伝達されるように、幸せという感情も伝達されるのです。

このポジティブな感情は、社会的なネットワークを通し他人との接触の機会を増やすことで、接触したそれらの人たちに同様の感情を与え、社会的な結びつきと社会全体の幸福感を強める役割を果たす可能性があるのです。そして、幸せが不幸せよりも伝染しやすいという研究結果は、私たちにとって大きな意味を持ち、大きな力を与えてくれます。

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私たちは自分が思うよりも社会に影響を与えられる

フラミンガムの幸福感に関する研究結果をまとめます。

  • 幸せはネットワーク現象であり、自分の友人の友人の友人レベルの距離にある人たちまで影響し、また影響される。
  • ネットワークの特性によって、人が将来幸せになるかどうかを予測できる。
  • 幸せな人たちが、幸せな人たちとつながっていくだけではなく、それ以上の伝染プロセスが起きて、幸せは多様な社会的結びつきの中で広がっていく。
  • 幸せは不幸せよりも伝染しやすい。

フラミンガム研究は大規模で長期にわたるデータの蓄積による一方で、1つの都市の研究結果に過ぎないとも言え、すべての地域に本研究結果が当てはまるかという課題はあるものの、私たちはこの結果を前向きに捉え利用すべきでしょう。

本研究の結果を踏まえて、「よし明日から幸せになって社会に波及させよう!」と思っても、そう簡単に幸せになれるわけではありません。しかし、幸せの定義もさまざまです。幸せとは、物事を前向きに捉えたり、今あることや他人との関係に感謝したり喜びを見出したり、あるいは、ありたい未来に向かって取り組んでいる姿だと捉えることができれば、明日からでも幸福感を持って生きることはできます。すべてはものの見方や考え方次第です。

私がここで強調したいのは、フラミンガムの幸福感の研究結果は、私たち1人1人がいかに広く社会に影響を及ぼす力があるかを示すデータでもあるという点です。自分が幸せだったり前向きであることは、自分が思うよりも広く遠くまで社会に影響しインパクトを与える可能性があるのです。私たちが直接知っている人たちや身近な人にとどまらず、まったく知らない人たちにまで影響を与えるのです。私たちにはそのような力があるのです。

私たちの社会では、世代を問わず、多くの人たちが「何をしようが世の中は変わらない」とか「何をしても無駄」とか「1人では何もできないから」などと自分の力のなさを嘆いたり、物事の否定的な側面だけ捉えたり、無力感に支配され、世の中が変わること、世の中を変えることを諦めています。しかし、自分の行動、いやひょっとすると私たちの気持ちの持ちようを変えるだけでも、社会によい影響を及ぼすことができるかもしれないのです。

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参考文献
(1) “Measuring Well-being and Progress: Well-being Research“, OECD
(2) James H Fowler, Nicholas A Christakis, “Dynamic spread of happiness in a large social network: longitudinal analysis over 20 years in the Framingham Heart Study“, BMJ 2008;337:a2338
(3) “Framingham Heart Study“, Wipipedia

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