You are currently viewing 罪と恥、2つの感情の違い ~ 自分自身をどう見るか。他人からどう見られるか。

罪と恥、2つの感情の違い ~ 自分自身をどう見るか。他人からどう見られるか。

  • 投稿カテゴリー:人が変わる
  • 投稿の最終変更日:2024年8月19日
  • Reading time:9 mins read

罪悪感と羞恥心、この2つの感情は似ていますが、大きな違いがあります。罪悪感は自分自身に対する否定的な認識から生じ、羞恥心は自分の欠点が他人から否定的に見られた時に生じます。つまり、罪の意識は自分の目を通して自分を見ることで生まれ、恥は他人の目を通して自分を見ることで生まれます。

~ ~ ~ ~ ~

はじめに

罪悪感(Guilt)」と「羞恥心(Shame)」、この2つの否定的な感情は、とても似通っていて、ほとんど同じ意味で使う人もいます。どちらも道徳的な感情で、道徳に反した行動を正そうとする動機付けになる感情ですが、両者の間には見落としてはならない重要な違いがあります。

今回は、罪悪感と羞恥心、この2つの感情の違いについて説明します。

~ ~ ~ ~ ~

罪と恥、2つの感情の違い

罪悪感(Guilt)は、人が自分自身の行動基準や自分の核となる価値観や信念に反する行動をとってしまい、そのことを悪いと思ったり、その結果に責任を感じるときに生じるもので、自分自身が持つ道徳感と直結した感情です。

一方で、羞恥心(Shame)は、人との関係において生まれる社会的な感情で、他人から見て、自分の行動や今いる状況に、不名誉なもの、みだらなもの、下品なもの、不適切なものがあるという感覚から生じる感情です。

アメリカの文化人類学者ルース・ベネディクト(Ruth Benedict, 1887 – 1948)は、罪悪感は個人の道徳観や価値観に違反したときに内的に呼び起こされるものであり、羞恥心は社会のルールや規範に違反した結果生じる外的なものだと述べました。

もっと簡単に言えば、罪悪感と羞恥心の違いは、感情を生み出す原因にあります。罪悪感は、自分の価値観や考えに反する行動をとったときなど、自分自身に対する否定的な認識から生じ、羞恥心は、自分の欠点が他人に露呈し、他人から否定的に見られたときに生じます。

つまり、罪の意識は自分に対する自己評価に関係するもので、恥は他人から見た自分の評価に関係するものです。罪悪感も羞恥心も、自己認識ではありますが、罪は、自分の目を通して自分自身を見ることで生まれ、恥は、他人の目を通して自分自身を見ることで生まれるのです。

~ ~ ~ ~ ~

罪を感じることの良い点

以前紹介したように、罪悪感は適切に対処されないと、無理やりその感情を抑圧したり、他人にその責任を投影したりする不適切な防衛行動につながることがあります。しかし、適切に対処されれば、自己成長や行動の前向きな変化などの肯定的な結果につながる有益な感情です。

罪悪感を持つことが常に良いと言うことではありませんが、罪悪感を感じる人は、罪悪感を感じにくい人たちよりも自分の行動を改善しようという意欲が高いです。罪悪感を持つことによって、自らを省みて、自制心を働かせ、自己中心的な行動を避けたり、偏見を抑えたりして、よりよい行動を促すことができます。

罪悪感が役に立つという具体的な例を挙げましょう。(1)(2)(3)

米国司法局が実施した「受刑者の出所後の再犯率調査」によると、1994年に15の州の刑務所から出所した受刑者272,111人のうち、67.5%が出所後3年以内に重罪または重大な軽犯罪で再逮捕されています。このデータからは、服役者はかなり高い確率で出所後に再犯すると言えますね。

では、出所後に再犯行為に手を染めるのを防ぐものは何でしょうか?

著名な臨床心理学者であるジューン・タングニー(June Tangney)は、罪悪感などの道徳的感情が犯罪を防ぐ効果があるかどうか10年近く問い続けてきました。タングニーは、過去の過ちに対して罪悪感を感じやすい受刑者は、自分が犯した罪に対してより正面から向き合い、苦しみ、その結果、告白し、謝罪し、自分が引き起こした問題を解決しようという意欲を持つことを発見しました。実際に、刑務所から釈放された後、このような罪悪感を抱きやすい受刑者は、犯罪行為で再び逮捕される可能性が低いという調査結果を得ました。
つまり、自分が引き起こした問題に対して罪悪感を感じやすい受刑者は、そうでない受刑者よりも、再度問題を起こさずに済む確率が高いのです。

罪悪感は私たちの道徳心を高めるように動機づけます。

例えば、罪悪感を感じやすい成人は、飲酒運転、窃盗、違法薬物の使用、他人への暴行をする可能性が低いことが、研究者らによって明らかにされています。人格とは、誰も見ていないところで何をするかに反映されるものだとすれば、罪悪感という道徳的感情は、間違いなくよりよい人格形成に寄与するものです。

※ 下のTEDでは、そのジューン・タングニーが、罪悪感(Guilt)と羞恥心(Shame)との違いを説明しています。残念ながら、英語で、日本語字幕を表示することもできませんが、Q&A形式で進んでいき、シンプルながら、ここで紹介するよりもさらに深い罪悪感と羞恥心に関する言及があります。

~ ~ ~ ~ ~

恥を感じることの悪い点

恥は罪の意識とは異なる別の感情です。
人は恥ずかしいと感じるとき、単に自分の行動が間違っていたというだけではなく、自分自身の人間性に問題があると感じてしまうことがあります。
罪悪感の場合は、間違った特定の行動に対する認識に限定される傾向がありますが、羞恥心は自分という人間そのものが否定されるような場合があるのです。

罪悪感は役に立つ感情ですが、羞恥心は必ずしもそうではありません。羞恥心が役に立たない例を紹介しましょう。(1)(4)

ブリティッシュ・コロンビア大学の2人の心理科学者、ジェシカ・トレイシー(Jessica Tracy)とダニエル・ランデルス(Daniel Randles)は、アルコール依存症患者が、禁酒期間中に飲酒について話すときに示す羞恥心が、どのような効果を及ぼすかを調べました。具体的には、アルコール依存症患者の中から、断酒し始めて6ヶ月以内の中年男女を100人ほど集め、羞恥心やその他の感情レベルを測定し、約4ヵ月後、羞恥心と断酒の成功に関係があるかどうかを確かめました。

羞恥心の研究の難しさは、その感情を外から捉えるのがとても難しい点にあります。恥を感じている人は、その感情を隠したり、その感情から逃げたりして、オープンに語ろうとはしませんし、そもそも本人さえ自覚していないこともあります。そのため彼らは、羞恥心を測る尺度として、体の動きや姿勢をビデオ映像から分析しました。恥じている人は、肩を落としたり、丸めたりするといった、共通するしぐさが見られるからです。

4ヵ月後、アルコール依存症を再発した人たちと羞恥心との間には明らかな関係性が見られました。面談で羞恥心を表さなかった人たちは、4ヶ月の間に平均7.91杯のお酒を飲むのにとどまった一方で、最も羞恥心が強かった人たち(上位10%)は、同期間中に平均117.89杯ものお酒を飲みました。この結果、羞恥心は、禁酒を持続する効果に寄与するものではなく、むしろ反対に作用することがわかりました。

つまり、羞恥心は、人前ではその行為を恥ずかしいと思わせたり抑制する効果はありますが、罪悪感とは異なり、1人になると自制の効果が弱まるのです。

私たちは、社会の規範に反した行動をとったときや、取るべき行動をとらなかったとき、または社会の常識に満たないと他人から見られたとき、恥を感じます。恥をかくと、ありのままの自分をさらけ出したり、相手の目をまっすぐ見ることができなくなります。さらなる恥をかくこと、嘲りの対象になることを恐れ、自分の行為が公にさらされるのを避けようとします。

そのため、私たちは、恥ずかしいと感じると、その問題の行為そのものをなくそうとするのではなく、自分の恥ずべき行為から他人の注意をそらしたり、人からその行為を見えなくしたり、隠したりすることにフォーカスします

社会からのけ者にされるのを避け、自分が社会から受け入れられる存在であることを証明することが最重要事項で、根本的な問題解決に取り組むよりも、表面上取り繕う方が簡単です。つまり、羞恥心によって、社会のルールから逸脱した行動を人前でとらないようにする強力なインセンティブは生まれますが、自分を改善させようとするインセンティブは限定的なのです。恥は、社会的脅威を前提としながらも自己中心的なシステムから生まれる感情なのです。

一方で、恥よりも罪悪感を感じやすい人は、悪い行いを隠すことにはあまり関心がありません。逆に、罪悪感を感じる人は、体裁を取り繕うよりも、自分の過ちから学び、同じことが起こらないように、より良い自分になろうとする意志があります

~ ~ ~ ~ ~

恥の罠から逃れる方法(1)

以下は、恥じることなく罪悪感を奮い立たせるための提案です。

ミスを犯した相手と接する際に、私たちがよく陥る重大な間違いは、ミスした人に対して、すぐに個人攻撃を仕掛けてしまうことです。私たちは、人の間違いを、その人自身の愚かさとか、貪欲さとか、人としての欠陥に無意識かつ瞬間的に結び付けてしまいがちですが、これは相手を辱めることにつながります。

問題は、誰も自分が悪いと言われたり、他人から辱めらたくないということです。

解決のヒントは、人を否定するのではなく、何が悪かったのかを具体的に示すことです。そのように具体的に他人から言われると、羞恥心より罪悪感を刺激し、人は他人からの指摘をより受け入れられやすくなります。

その人の長所や強みを強調しつつ、なおかつその人に恥をかかせるのではなく、責任を持たせるようにすれば、言いたいことがより伝わりやすくなります。誰かが何か間違ったことをした場合、可能な限り、その人の価値観や共有している目標を意識させます。その上で、その人の行動がどのようにその人の価値観や目標からずれているかを指摘し、代替となるより健全な行動がいかにその人らしくあるかを示すのです。

このような会話は難しく、時に他人のことは放っておく方が楽だと思ってしまうこともあります。他人をコントロールしようとするのではなく、自主性を提供するように心がけましょう。

罪悪感は、その定義上、短期的には私たちを幸福感から遠ざけます。しかし、長期的には私たちを助けてくれます。

社会心理学者のロイ・バウマイスター(Roy Baumeister, 1953 -)が言うように、罪悪感は「私たちを嫌な気分にさせるが、その後、その感情を避けようとするために、パートナーやグループの仲間にとって、より良いことをするようになる」のです。罪悪感によって自分の行動が他の誰かに与える影響を意識することで、次はもっと社会的に配慮した行動をとるように促されるのです。

逆に、誰かに恥をかかせることで、その行動をより良いものに変えさせようとしてもうまくいきません

恥をかかされると、問題は沈静化するどころか、エスカレートすることもあります。恥を感じれば感じるほど、人は不安になったり、攻撃的になったりします。羞恥心を抱かせることを懲罰として用いることは、排除しようとしている行動を逆に増幅させてしまうという逆効果をもたらします。
欠陥のある行為は、その行為者が欠陥であることと意味するものではありません。恥は社会的な感情ではあるものの、社会的に前向きな変化を起こすために使うには難しい感情です。やる気を起こさせたいなら、羞恥心よりも罪悪感を覚えさせることです。

~ ~ ~ ~ ~

さいごに

冒頭紹介したアメリカの文化人類学者ルース・ベネディクト(Ruth Benedict)の有名な書籍に、彼女が1946年に書いた「The Chrysanthemum and the Sword: Patterns of Japanese Culture(邦題)菊と刀」があります。その中で彼女は、日本は「罪の文化(Guilt Culture)」ではなく、完全に「恥の文化(Shame Culture)」だと紹介しています。
そして、今でも、日本は世界の国々から一般的にはそのように認知されています。

実際に私たち日本人は、自分が恥をかきたくないから、人に恥をかかせたくないから、心の中にあるものと違う言動をとることが多く、その結果、本当に自分が望む所にはたどり着けないことが多いです。みなさんにも思い当たる節はいくつもあるのではないでしょうか。

~ ~ ~ ~ ~

さて、最後の最後に、私自身のことを振り返ってみました。
私自身は、羞恥心や罪悪感をどう感じているでしょうか?

羞恥心に関して言えば、階段を踏み外してこけそうになったとか、シャツのボタンをつけ忘れていることに人前で気が付いたとか(よくあります)、電車で乗り過ごしてさりげなく次の駅で降りて反対側のホームに回ったとか、小さなことで恥ずかしく感じることはあるものの、重要なことで羞恥心を感じた事例はあまり思い浮かばないですね。。。

自分が恥ずかしいと思うことはなくなりましたし、概ね恥ずべきこともしていないと自分では認識していますが、家族から「恥ずかしいからやめて」と言われることは時々あるような気がします(笑)。厚顔無恥にならないようには気をつけたいですね。

罪悪感に関しては、仕事に関して言えば、私は海外で外国人スタッフをまとめる役割が長かったこともあり、倫理に反することを自らしないように普段からかなり意識して気を付けています。
特に自分が作ったルールや自分も守るべきルールを自ら逸脱すると、スタッフにもすぐに伝染し、見えないところで手を抜かれたり、チームの規律を維持することが難しくなります。そのため、自分の言動を一致させ、矛盾がないように常に心がけています。
ただし、最近は、スタッフが日本人だろうが外国人だろうが、あまり関係ありませんね。。。

この心がけが罪悪感を感じる機会も減らしていると思います。しかし、自分が気が付かないうちに、倫理的、道徳的に問題のある行為を行っているという可能性はありますので、定期的に自分の行動を客観的に省みることが必要です。

仕事ではなく、社会環境的な側面に関して言えば、よりよい社会環境の実現に寄与するためにも、もっと個人的に罪悪感を持つべき場面があるように最近感じています。

~ ~ ~ ~ ~

参考文献
(1) Todd B. Kashdan, Robert Biswas-Diener, “The Upside of Your Dark Side: Why Being Your Whole Self–Not Just Your “Good” Self–Drives Success and Fulfillment”, Avery, 2014.
(2) June P. Tangney, Jeffrey Stuewig, Andres G. Martinez, “Two Faces of Shame: The Roles of Shame and Guilt in Predicting Recidivism“, Psychological Science, Vol 25, Issue3, 2014.
(3) “After Committing a Crime, Guilt and Shame Predict Re-Offense“, Association for Psychological Science, 2014/2.
(4) “The Shame of the Alcoholic“, Association for Psychological Science, 2012/11.

コメントを残す

CAPTCHA