世の中には組織のリーダーシップに関する多くの理論、書籍や記事、その他情報があふれています。なぜこれほど多くの情報が存在するかというと、真のリーダーが少なく、多くの組織でリーダーが機能していないからです。今回は、悪いリーダーの一例と、良い事例としてクロネコヤマトの変革のリーダーを紹介します。
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製造販売会社A社の事例
製造販売会社A社、久しぶりに再度登場です。
図:製造販売会社A社の組織図
のんびり屋の佐藤社長も、周囲で起きる様々なビジネス環境の変化にようやく少しづつ危機感を覚えるようになりました。
佐藤社長は社員たちにはっぱをかけます。「社会は急激に変化してきています。我が社も変わらなければなりません。皆さん、これからは積極的に新しい事にチャレンジしていきましょう!」
しびれを切らしていた社員たちは早速新しい試みに取り掛かります。
中間管理職や若手を中心に、組織を横断する新しい新規事業チームが立ち上げられました。アイデアを絞り出し、小さいながらも新しいサービスの誕生につながりました。
佐藤社長、チームリーダーの高宮課長のもとに行き、話しかけます。「高宮君、今度始める新しいサービスだが、その後どう拡大していくか方針がよく見えないんだけど、将来的に当社に見合った大きな利益につながる計画はしっかり立てているのかい?」
ところで、佐藤社長が進捗を確認するため話しかける相手はたいてい課長たちです。佐藤社長と部長たちは、お互いの無知をあらわにし、お互いの不安を掻き立てるような将来の未知なる取り組みについて、面と向かって議論することができないからです。
営業部でもDXを取り入れた新しい取り組みが始まります。
佐藤社長、今度は営業の山本課長に話しかけます。「山本君、その営業スタイルは今までのうちのやり方と折り合わない気がするけど、新しい顧客を開拓できないどころか、今までの顧客を失うということはないだろうね?」
佐藤社長、その他の新しいアイデアに対しても、革新的なアイデアには「おいおい、それはさすがにうちの会社が取り組むべき事業じゃないだろう」とか「いったい、うちの会社の誰が対応できるんだい?失敗したらどうするんだ?」などと反応し、逆に無難なアイデアには「どこかで聞いたような話だな。そんな誰にでも思いつくありきたりのアイデアじゃだめだよ」と応え、社員たちが提案するアイデアに、批判と否定のオンパレードです。
従業員たちが知恵を絞って考えた取り組みはみな、チクチクやられたり、鼻であしらわれたりして、社員たちはすっかりやる気をくじかれました。
「新しい取り組みをやれって言うからやってるのに、ばかばかしい。嫌味を言われるだけならもうやめようぜ。やるだけ損だし、時間の無駄だし、気分悪いし、つかれるだけだ。」
中堅・若手社員達は社長から距離を置き、社長が近づいてくると目を伏せ、視線を避けるようになります。
そして組織には、今までの仕事のやり方から逸脱せず、余計なことはやらず、不穏で静かな元通りの職場が戻りました。
~ The END。
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有害なリーダーの特性
佐藤社長には、以下のような有害なリーダーの特性が満載です。
1.方向性がない
まず佐藤社長、方向性がありません。「変わらなければならない」と社員に言ってはいますが、どのような姿に変わるのか、どうやってそこにたどり着くのかの言及が全くありません。なぜ言及しないかというと、自分でも分からないし、深く考えてもいないからです。そして、困難でリスクの高いその決断を自ら行うことを避け、従業員に押し付けます。
リーダーは、未来のありたい姿とその道のりを示さなければなりません。未来のありたい姿が明確でなければ、チームは右へ左へと非生産的なプロセスを何度も繰り返し、そのうち燃え尽きたり、疲れ切って、成長につながらないだけでなく、マイナスの影響を及ぼします。
2.自ら決断・行動するのではなく、人に提案・行動させて批判する
リーダーはあらゆることに精通した万能な存在ではありません。社員たちの方がその専門分野では社長より高い知識と優れた能力を持っています。
リーダーに必要なのは、すべてを知っていることではなく、組織とリーダーシップの原理を知っていることであり、その原理に基づき決断し自ら行動することで、メンバーの能力と行動を最大限に引き出すことです。
しかし、社員の中で最も賢くなければならないというメンタリティを持つリーダーは、そのプライドの高さが邪魔をして、他の職員より能力が低いことを露呈することができないため、ミスを恐れて行動を起こせません。そのため、自分が知らない事については、社員に押し付け、社員から出てきたアイデアをチクチクと批判することで自己防衛するのです。
3.話しただけですべてが解決すると思っている
「我が社も変わらなければならない」とか「新しい事にチャレンジする」と言うだけで、「しっかり言ったから、後は大丈夫だろう」と自分の役割が終了したと思っているリーダーがいます。先ほども述べたように、リーダーは自らの言葉を自らの行動で体現しなければなりません。
また同様に、「2日間しっかり会議で議論した。これで大丈夫だな」などと、結論が何も出ていないのに、十分に長い会議を行ったという事実に満足するだけのリーダーも、話しただけですべてが解決すると思っているリーダーです。
4.聞く能力・リスニングスキルが欠如している
リーダーは、社員たちは自分を「ただの社員」のようには扱ってくれないことを肝に銘じておかなければなりません。もしあなたがリーダーなら社内で最も役職の高い人物の1人ですから、社員はあなたの言動に対して率直に意見したり、矛盾を直接口にすることはないでしょう。
つまりリーダーは、聞く耳を持ち、反対意見を受け入れる用意があることをはっきりとメンバーに伝えない限り、本当に必要な率直なフィードバックを得ることはできません。
5.メンバーから信頼されていない
有害なリーダーの特性を書き出すとキリがないんですが、、、最終的にたどり着く最も致命的な欠点は、その責任を全うしないだけでなく、その役割を社員に押し付けるため、メンバーから信頼されていないという点です。
地位や権限があることと信頼されていることに関係はありません。良いリーダーは、自ら行動し、メンバーを信頼して権限を与えて自律的な行動を引き出します。そうすることでメンバーからの信頼が生まれるのです。
そうではなく、方向性を定めず、社員の意見を受け入れず、権限を与えないのに社員に責任転嫁して非難する、これでは従業員の信頼を失うのは当たり前です。
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有害なリーダーが引き起こすもの
有害なリーダーは、メンバーに以下のような結果を引き起こします。
- モチベーションの低下
- 自信の喪失
- 成長の抑制
- サポート不足
- コミットメントの低下
- 自主性の抑制
- 結果に対する恐れ
- 安全な場所への執着
- 現実からの逃避
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クロネコヤマトの変革のリーダーの事例
ではあるべきリーダーの姿とはどのようなものでしょうか?その例を紹介しましょう。
現在NHKで「プロジェクトX」の4Kリストア版を放映していますが、先日たまたま「腕と度胸のトラック便」というタイトルの放送で、クロネコヤマトの発展のカギとなった個人向け小口貨物配送サービスへの転換時のストーリーを見ました。
番組では、オイルショック後の業績回復のために、企業向け大口荷物から手間のかかる家庭向け小口荷物輸送へ舵を切った「宅急便」の生みの親であり、当時の社長である小倉昌男氏のビジョンと強い意志、従業員への信頼を垣間見ることができます。
当時、小口配達は手間がかかり採算が悪いことは業界の常識で、小倉社長は古手の役員たちから猛反発を受けながらも、それを押し切って事業の転換を進めます。
小倉社長が10人の若手職員を集め、主婦の立場になってどのようなサービスが求められているか考えさせると、とんでもない提案が出てきます。
「電話1本で家庭に配達にうかがう」
「全国どこでも翌日配達する」
当時、北海道や九州への配達は1週間かかりました。それらの提案はあり得ないものでした。しかし、小倉社長は迷わず言いました。
「それだ、やろう」。
大量の配達員が必要になる中、営業部を廃止し、ドライバー全員が営業マンを兼ねることを決めます。腕一本でやってきたドライバー達から猛反発を受けますが、当時の粟飯原組合委員長が「俺たちが変わるしかないんだ」と掛け声をかけると、若手ドライバーが次々と手を上げました。
当初、北海道の過疎地ではトラックを走らせれば走らせるほどコストがかさみ、赤字が膨みました。北海道担当のドライバーの加藤は小倉社長に「このままやり続けてよいのですか?」と尋ねましたが、小倉社長はこう言い切りました。
「大いにやればいい」。
過疎地にも人が住んでいる、友達がいる、親戚がいる、お客様がしてほしいことをやるために最初はコストがかかってでも過疎地を避けることはできないという小倉社長の強いビジョンと信念に基づいた言葉でした。その他、免許がなかなか運輸省に許可されないなどの大きな壁にもぶつかりますが、その壁も乗り越えて「宅急便」を発展させていきます。その後のクロネコヤマトの成長は皆さんもご存じの通りです。
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最後に
冒頭に紹介したA社の佐藤社長と、最後に紹介したクロネコヤマトの小倉社長の違いは分かりましたでしょうか?
中盤に紹介したA社の佐藤社長にある有害なリーダーの特性と真逆の特性が小倉社長にあったことが理解できるかと思います。