変革にはリーダーと共にフォロワーも必要です。フォロワーは、ちょっと変わり者な変革のリーダーを支持しサポートしてくれる存在で、この1人か2人のフォロワーの存在が変革の成功の命運を分けます。フォロワーには改革意図を共有、共感してもらい、良く言えば結束、悪く言えば結託(笑)する事も時に必要です。
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目的不明、意味不明、時間をただただ拘束されるだけの会議、、、ありますね。
事前にメール配信された資料、そのメールに「事前に目を通して下さい」とあるのに、会議の冒頭に資料を最初から最後まで読み上げに15分。。。
活発な意見交換を期待しますと言いながら、話しているのはその本人含めて前に座る3人の部長だけ、課長以下10名は資料の説明以外、意見を言う機会さえ回ってこない。
一生涯で会社員が会議に費やす時間は3万時間だそうです。1日の仕事を10時間とすると8年分会議に参加している事になります。(1)
おかしな会議だけど、何年も続いているから今更誰も声を上げられない。
トップからの見直しの掛け声もない。
それぞれの部署の部長も、お互い迷惑をかけたくないし、矢面にも立ちたくないからだんまりを決め込んでいる。
下の人間は、忙しい実務の貴重な時間を割かれ、ただただ座っているだけの1時間に、もやもや、いらいら。
多くの参加者が会議が非効率だと認識しているのに、誰も声を上げようとしません。
この現象は以前、アビリーンのパラドックスと紹介しました。アビリーンのパラドックスは、グループ内のほとんど全てのメンバーが望まない、正しくないと認知しているにも関わらず、そのような行動を集合的に決定してしまう事です。メンバーの中に「集団合意のマネジメント」が出来る人が一人もいない事が原因で、リーダーシップの欠如したグループに現れます。
図:非効率なグダグダ会議イメージ図
会議を効率的に行うための情報は、今どきインターネットでも書籍でも世の中にあふれています。その気になって探せば役に立つ情報がいくらでも見つかります。
例えば、ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズのコンサルタントである榊巻亮氏著書の「世界で一番やさしい会議の教科書」に会議の正しい進め方が分かりやすく紹介されています。
本書の主人公、鈴川葵は入社2年目の女子社員です。部署で繰り返される「グダグダ会議」に疑問を抱き、コンサルタントである父から会議進行のファシリテーションスキルを学んで、ダメ会議を徐々に改革していく物語です。
本書は会議の効率的な進め方として、下記のようなポイントを紹介しています。
・会議Prepシートで事前に準備する
・会議での資料読み上げ禁止
・会議の目的を明確にし、会議の終了条件を決める
・議題ごとの時間配分を決める
・ホワイトボードを使って意見、論点、決定事項を書き分ける
・会議で決まったこと、会議後にやるべきことを確認する 。。。等々
ところで、ここまで振っておいて何ですが、、、今回のブログの趣旨は会議の正しい進め方ではありません(笑)。
この本が紹介しているような会議の進め方を日本全国全ての会社が取り入れれば、日本全体の生産性は劇的に向上します。この簡単な約束事と手順に沿って会議を進めれば良いだけです。なので、それについて私からは説明しません。本書をご覧下さい。
しかし現実は、多くの会社では、その簡単な事さえできません。
なぜできないのか?
この本であなたは正しい会議の仕方は分かった、しかしそれが分かっても、あなたには会議は変えられないのです。
何故か?
「会議をうまく進める方法」が分かるだけでは不十分だからです。変えられない組織でどう実現するのか、「会議の仕方を変える方法」が分からなければ「会議をうまく進める方法」は実現できないからです。
物事を変えられない組織の中で、それを変えていくにはどうすればよいか?
本書では「隠れファシリテーション」の方法を紹介しています。
会議の冒頭で突然ファシリテーター役を自ら買って「今回から私が会議の進行役します!まず会議の目的をはっきりしておきます」なんてファシリテーター宣言し、場を仕切り始めようものなら、「なんだこいつ」とイラっとされ、みんなの反感を買います。
「隠れファシリテーション」は、参加者の一人として参加しながら、会議をうまく進める方法を取り入れるため、さりげない振る舞いや誘導をする事です。
「ちょっとこれだけ確認させて下さい」など、参加者の抵抗を生まない程度のさりげない一言から始め、それを続ける事で効果に気づいてもらい、小さい範囲から定着を図るものです。入社2年目の葵は、父から指導を受け、隠れファシリテーターとして少しづつ会議に変革をもたらしていきます。
実は、この隠れファシリテーションスキルに加えて、更に重要な変革の本質が、この物語の以下の抜粋に隠れています。
。。。いつも通り会議は延々と続き、水口の一言で締めくくられた。
「じゃあ、これで定例会を終わります。何か質問ある?」
決まったことを確認するなら、このタイミングしかない。この瞬間、葵の緊張ゲージは振りきれていた。
(呼吸が苦しい…なんで確認するだけなのにこんなにドキドキするの?でもここで言い出さないと… 3万時間も…そんなの嫌だ!でも…やっぱり…どうしよう…ああ…)
「あ…課長、ちょっと確認させていただいてもいいですか?」と葵は恐る恐る口を出した。
「私の理解のために、今日決まったこと、今後やるべきことを確認したいんですが・・・」
「なんやそれ? もう終わろうや。こっちは仕事たまってんねん!」
幸田が少しいら立った声で言った。
。。。(中略)。。。
やっぱりいいです!ゴメンナサイ!と喉まで出かかった時、「あ、俺も確認してもらいたいです」と片澤が言った。
(やったー、助かった!ありがとう、片澤さん!)
「片澤もそう言っているし、ちょっと確認するくらいいいだろ?」と言いながら水口はジロリ幸田を見た。。。
変革に必要なポイントを見つける事ができたでしょうか?
正解は、葵の先輩である片澤の存在です。
以前、変革には、最初にアクションを起こす人間とファーストフォロワーが必要だと説明しました。ファーストフォロワーが「それ、いいね!」とちょっとしたアイデアを後押しするケースと、アイデアが出ても「し~ん」とフォローなく消滅していくケース、この差はほんの1人か2人のフォロワーの存在という僅かな差である場合もありますが、その差が雲泥の差を生むのです。
この物語の場合、リーダーシップを持つ人間は、組織の中では一番下に位置する葵です。
そして、ファーストフォロワーが片澤です。もし片澤の一言がなかったら、葵の提案は幸田主任に潰されてそれでおしまい、ジ・エンドです。
片澤の存在が、葵の改革の芽を守り、結果として最終的に天と地ほどの差をもたらすのです。
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葵の場合は、運よく片澤が助けてくれましたが、あなたにはファーストフォロワーが登場してくれないかもしれません。しかし、あなたは、運を天に任せるわけにはいきません。
それではどうすればよいか?
事前にファーストフォロワーを仕込んでおくのです。
非効率な会議に不満をもつ問題意識や改革意識のある先輩や同僚は少なからずいるでしょう。そのような同僚と話し合い、改革意図を事前に共有し共感してもらい、そして、いざという時、つまりあなたが勇気を出して声を上げ、幸田主任からネガティブリアクションを受けた場合に、フォローしてくれるようにお願いしておくのです。
あなたの最初の小さな提案が受け入れられれば、小さくても極めて重要な勝利を勝ち取る事ができます。
もちろんフォロワーの数は多ければ多いほど有効です。1人目のフォロワーの後、2人目が「私もそう思います」と続けば、場の雰囲気は一気に変わる可能性もあります。壁(イノベーター理論では最初の16%)を乗り越えられれば、変化に大きな勢いが付きモメンタムに繋がるのです。
本書でも、ファーストフォロワーの片澤に加え、次のフォロワーである田内が続いて行きます。
。。。「まあ勝手にしたらええけど、 全然期待してへんから大丈夫やで」
幸田はいつも通り渋い表情を葵に向けたが、次の瞬間には「始めよか」と会議を前に進め始めた。
それを受けて田内が小さく声を発する。
「前回どんな話が出たか振り返っておきましょうか?」
「そうですね」と片澤が後を続ける。
「それが終わったら、追加で原因を洗い出し、離職の主な原因を絞り込みましょう。 葵ちゃん、俺覚えきれないからこういうのも書いておいてね」
ウィンクのおまけ付きだ。
この書籍は、「会議の教科書」という名前の本であるものの、とても良く描かれた変革のストーリーでもあります。
勇気ある小さな一言から始まる改革の物語です。そこにフォロワーの勇気ある行動が続いて行きます。
そこから同僚を更に一人二人と巻き込み、小さな変化を積み重ねる事で大きな渦となり、成果を生み出していくのです。
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参考文献
(1) 榊巻 亮, “世界で一番やさしい会議の教科書”, 日系BP, 2015/12