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シリコンバレーのパーパスドリブンな建設会社:DPR Construction

  • 投稿カテゴリー:海外建設
  • 投稿の最終変更日:2021年6月25日
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以前、建設産業で破壊的変革を目指す米国のカテラ社を紹介しました。DPR Construction社はカテラ社の25年も前に同じように建設産業に変革をもたらすため設立されました。DPR社は、最先端技術やリーンコンストラクションなどの新しいプロジェクト手法を導入、変革に成功したパーパスドリブン型(Purpose Driven:目的に導かれ行動する)の建設会社です。

以前紹介した建設業界のIKEA?カテラ社は2015年設立ですが、その25年前、今から30年も前の1990年に、同じように、従来の古い体質から変わらない建設産業に変革をもたらす会社が設立されました。
DPR Construction社(以下、DPR社)です。

1990年、DPR社は、Doug Woods, Peter Nosler, Ron Davidowskiの3人の建設業界のベテラン達によって、3人のファーストネームの頭文字を取って、米国カリフォルニア州のシリコンバレーに設立されました。

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当時、建設産業は、古くからの慣習や文化が残り、護送船団的ではみ出し者や変化を嫌う、ITの導入も遅れ生産性向上から取り残された産業の一つでした(今もそうですが)。
DPR社の創業者は、建設業界の信頼できない見積もり、度重なるコスト超過や訴訟、そして建設業者と顧客の関係が対立的になってしまう問題を解決し、業界に風穴を空けようとしました。
以下、そのためにDPR社が行った3つの具体的なアクションです。

  1. プロジェクト実施前に、チーム全体でゴールを共有し、プロジェクトミッションステートメントを作成する。
    チーム全体とは、DPRチーム、クライアント(顧客)、建築家、エンジニア、下請け業者、ベンダー、サプライヤーの代表者で、建設プロジェクトの主たる参加者です。DPR社は建設プロジェクトはチームスポーツであると言います。良い物を作るためにはプロジェクトを始める前に良いチームを作らなければなりません。そして最終的にはチームの全員が勝利しなければなりません。

    プロジェクトの目的を記したステートメント、タイムテーブル、成功を評価判断するための具体的な指標、チームがどうやってそれを達成するか、その他のチームビルディングの機会などの計画を顔を突き合わせて作り上げます。この作業に3〜4日もの時間をかけます。
  2. プロジェクト実施中には、対面での面談を継続的に実施し、最初に合意した指標に対してパフォーマンスを評価します。
  3. プロジェクト終了後には、顧客に、DPR社のプロジェクト中のパフォーマンスを評価するように求めます。

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1990年に僅か11人でスタートした会社は、1997年にはアメリカの建設情報誌出版社であるEngineering News-Record (ENR)社の建設会社売上ランキングで全米46位にランクインし、2019年には売上60億USD、10位にランクイン(2020年は12位)、従業員は世界中で8,000人を数えるまで大きく成長しています。

建設業界は、一般に参入障壁が高く既存業者に有利です。日本でも、新規参入で大きく拡大に成功した事例はなく、またスーパーゼネコン、準大手、中堅ゼネコンも、バブル崩壊後の破綻やM&Aによる変動を除けば、この枠組みを飛び越えるような入れ替わりはありません(大和ハウス工業や積水ハウス等のハウスメーカーの事業拡大・躍進はありますが)。
この事を考えると、DPR社の成功は目を見張るものと言って良いでしょう。

しかし、DPR社にとって、売上や利益、規模は、二次的な結果に過ぎません。
DPR社にとっては、目的に導かれた(Purpose Driven)戦略的行動が重要であり、売上や利益、規模はその結果として遅れてついてくる指標に過ぎません。

DPR社は設立当初から、起業家的で革新的な文化を作る事に注力してきました。
顧客にフォーカスし、顧客の期待を超える結果を提供する、ハッピーでハードワーキング、そしてチームワークが出来る素晴らしい人材を採用してきました。
採用した最高の人材のモチベーションを高め、育成し、現場でも自らが判断し実行できる権限を与え、そして彼らをサポートする強力な組織を作る事、卓越した仕事をして顧客に毎回素晴らしい結果をもたらす事に注力する。そして素晴らしい結果を出し続ける。その事が他の建設会社との差別化を可能にしました。

この最高な人材を採用する方針については、同じシリコンバレーのGoogle社とも共通します。Google社も最高レベルの人材しか採用せず、採用に一切の妥協をしません。そのような人材は個人の目的と会社の目的のベクトルが一致し、自律的に仕事をする事で個人が成長すると共に会社の成長に寄与するからです。逆にそれ以外の人間は、会社と優れた人材の足を引っ張ります。
先に紹介したカテラ社もシリコンバレーの会社ですが、シリコンバレーの素晴らしい会社には業種を超えて組織と経営に共通する素地があります。先ほど紹介した「プロジェクトチームはスポーツチーム」という考え方も、同じくシリコンバレーの巨大IT企業であるネットフレックス社に共通します。

「顧客重視」に関しても、会社の目的・ミッションに「顧客重視」を掲げる会社は山ほどあります。
しかし、DPR社の「顧客重視」は「すべてのクライアントがDPR社の熱狂的なファンになるレベル」であり、顧客のために良い仕事をするだけでなく、お客さんが仕事を気に入ってくれたという意味だけでもなく、家族や知り合いに、「ねえ、この素晴らしいプロジェクトを助けてくれたのはこの素晴らしい会社だよ」と言うレベルです。

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DPR社は、最新の技術や新しいマネジメント手法も積極的に採用してきました。1997年という日本では概念さえほとんど知られていなかったような早い段階からBIM(Building Information Modeling)を積極的に取り入れました。
リーン・コンストラクション等の新しい建設プロジェクトマネジメント手法も導入していきました。
※リーン・コンストラクションは、日本の自動車産業が米国で猛威を振るいだした1980年代に、米国でトヨタ生産方式を研究し、その成果を体系化・一般化したリーン・マニュファクチュアリング(リーン生産方式)の手法を建設プロジェクトに導入したものです。こちら、リーン・コンストラクションの紹介記事です。

以前紹介したIPD (Integrated Project Delivery)の契約方式を用いたプロジェクトも、他の建設会社に先駆けて数多く実施しています。

環境負荷低減にも積極的で、LEED認証プロジェクトは200を超え、自社オフィスの建設工事ではネットゼロ認証も取得しています。
※ 「LEED(リード)」とは国際的な建物の環境性能評価制度です。「ネットゼロ」とは建物で「使うエネルギー」と「創るエネルギー」の差し引きで建物のエネルギーの正味の消費量がゼロ、つまりエネルギーの自給自足ができる建物です。

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DPR社は、戦略的に次の5分野をコアのマーケットエリアとしています。

  1. 高度なテクノロジー施設:半導体処理施設、データセンター、サウンドスタジオ等
  2. 商業施設:テナントの改善からコーポレートキャンパスまで
    ※コーポレートキャンパスとは、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)の本社が取り入れているようなキャンパス型オフィスです。
  3. 医療施設:医療施設は高度医療技術対応、要求を増す医療関連制度、データ量の増加、患者と働く人に合理的かつ快適な質の高い空間を提供する、高度で複雑な要求に応える必要があります
  4. 高等教育施設:研究所や教育機関、キャンパスの新規、改修
  5. ライフサイエンス:R&D施設、医薬品適正製造基準(cGMP)施設、生物学的封じ込め、化学施設

これらの分野は、顧客とDPR社の企業文化や、社会的責任、持続可能性等の価値観や理念が一致する分野とも言えます。
DPR社は一般的な建設会社のようなあれもこれも請けるようなアプローチ、マスに訴えるような営業はしません。なんでも請け負おうとする会社は大胆さからそうするのではなく自信がなく不安だからそうするのです。そのような会社は最終的に価格を下げたり不利な条件を飲んだり、契約を懇願したりします。

DPR社は、特定の分野にフォーカスし、何を誰に提供したいのかを明確にします。
DPR社は、一般的な最低価格重視の入札より、価値観が合い共感できる顧客との契約を重視します。逆に価値観が合わない顧客との仕事は断る事もあります。

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以下、DPR社を特徴づけるコアバリューを取り上げました。

Purpose: We Exist to Build Great Things.®
私たちは、素晴らしい建物、素晴らしいチーム、素晴らしい関係、素晴らしい価値を作るために存在する。

MISSION: To be one of the most admired companies by the year 2030
2030年までに最も称讃される会社の一つになる
(建設業界でではなく、全ての産業の中で最も称讃される会社の一つになるという事です)

コアバリュー:Integrity, Enjoyment, Uniqueness, Ever forward

INTEGRITY(誠実)
高いレベルの公平性と正直さでビジネスを遂行し信頼される

ENJOYMENT(楽しさ)
仕事は楽しく満足なものでなければならない、そうでない場合は何かがおかしい

UNIQUENESS(独自性)
他の建設会社と違う事、もっと革新的でなければならない

EVER FORWARD(常に前進)
自らの意思で継続的に変化、改善、学習し、スタンダードを自ら向上させる

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DPR社は、最近盛んに叫ばれるパーパスドリブン、リーン、アジャイル的な経営を30年も前に始めていた訳です。

最後に、2016年、サンフランシスコで初のネットゼロエネルギーの商業施設である、DPR社サンフランシスコオフィスの建設プロジェクトを紹介するビデオを紹介します。彼らのコアバリューの一つであるENJOYMENT(楽しさ)も垣間見れるビデオになっています。

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