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デフォルトモードネットワーク:発見から20年経過して分かったこと

  • 投稿カテゴリー:人が変わる
  • 投稿の最終変更日:2024年12月1日
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デフォルトモードネットワーク(default mode network)は、「外部の刺激や作業に集中している時は、その働きは抑えられ、休息している時や静かにしている時に活発になる」ことでよく知られています。その発見から20年経過してこの脳内ネットワークの様々な働きが分かってきています。

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デフォルトモードネットワークとは?

脳科学的にはデフォルトモードネットワーク(DMN : default mode network)と呼ばれ、解剖学的には内側前頭頭頂ネットワーク(m-FPN : medial frontoparietal network)とも呼ばれる脳内ネットワークがあります。

デフォルトモードネットワーク(DMN)は、脳の中に分散し、相互に接続された脳領域の集合体です。主に、背内側前頭前皮質(dmPFC : dorsal medial prefrontal cortex)、後帯状皮質(posterior cingulate cortex)、楔前部(precuneus)、角回(angular gyrus)から構成される大規模な脳ネットワークです。

この脳内ネットワークは、一般的に「外の世界や目的のある作業に集中しておらず、休息している時や静かにしている時に活発になる」ことでよく知られています。このネットワークは、目を閉じて休んでいる時でも活発に働き、内部思考を生み出します。逆に、外部の刺激や作業に集中している時は、その働きは抑制されます。

デフォルトモードネットワーク(DMN)は、私たちが経験や感情や交流などについて振り返る際に関わっていると考えられています。DMNの発見によって、人間の脳の働きに関する理解が根本的に変わりました。その発見後、DMNは広範囲にわたる研究対象となり、発見から約20年が経過した今、人間の認知におけるDMNの役割や、脳回路がどのように構成されているか、認知機能や感情機能にどのように貢献しているか、そしてその障害の影響などについての理解が深まっています。

今回は、このデフォルトモードネットワーク(DMN)について紹介します。

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デフォルトモードネットワークの歴史(1)

デフォルトモードネットワーク(DMN)が発見される前は、一般的に、脳の活動は、外的な刺激に注意したり、目標に向けた活動を行っている時に活発となり、そのような注意や作業をしていない時は、活発でなくなると考えられていました。

しかし、1995年、ウィスコンシン医科大学の大学院生だったバラト・ビスワル(Bharat Biswal)は、何の作業もしていない安静時に、脳内で同期する感覚運動系があることをfMRIスキャンで発見しました。

その後、ワシントン大学医学部の神経学者マーカス・E・ライクル(Marcus E. Raichle, 1937 -)の研究室の実験により、人が集中して作業を行っている間、脳のエネルギー消費は、基礎エネルギー消費の5%未満しか増加しないことが発見されました。これらの実験により、人が集中した作業を行っていないときでも、脳は常に高いレベルで活動していることが示されます。

2001年、ライクルはこの安静時の脳機能を説明するために「デフォルトモード」という用語を作り出しました。この脳内ネットワークは内部指向の思考に関与し、何もしていない時にアクティブになり(デフォルトモード)、何らかの作業中には停止していることから名づけられたものです。

その後、DMNは脳科学研究の中心的なテーマの1つになりました。

2003年、マイケル・D・グレイシウス(Michael Greicius)らは安静時のfMRIスキャンを調べ、脳内のさまざまな領域が互いにどの程度相関しているかを調べました。その結果、視覚、聴覚、注意のネットワークのいくつかは、デフォルトモードネットワーク(DMN)と逆相関することが分かりました。

2000年代半ばまで、DMNは、受動的な休息中にのみアクティブになり、何らかの目標達成に向けた作業を行っているときにはアクティブでなくなるため、タスクポジティブネットワークと対照的に、タスクネガティブネットワーク(task-negative network)と呼ばれることもありました。

しかし、最近の研究で、この名称は誤解を招くと考えられています。
なぜなら、DMNは目的志向のタスクに関連する思考中にもアクティブになることが分かってきているからです。(2)
DMNがアクティブになるその他の状況としては、人が他人について考えている時、自分自身について考えている時、過去を思い出している時、将来の計画を立てている時などです。

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デフォルトモードネットワークの機能(3)

外部の刺激に注意を払っている時、私たちの脳の、知覚機能、運動機能、記憶領域などが活発に働きます。

しかし、外部の刺激に注意を払っていない時は、これらの脳領域の活動は収まり、より自分の内面にフォーカスした思考プロセスに切り替わります。そして、内省、空想、心の放浪、個人的経験の想起、将来の構想などを行います。この内面にフォーカスした状態が、脳にとって「デフォルト」の状態です。

過去20年間の研究により、人間の認知におけるDMNの役割についての理解が大きく深まりました(fMRIの技術を利用して、DMNに限らず、その他の脳機能の理解も深まっていますが)。

DMNの間接的な役割は、外部に焦点を合わせた認知中にはDMNが抑制されることや、注意力の喪失です。
近年明らかになってきたDMNが果たす直接的な役割で最も顕著なのは、次に示す①自己言及、②社会的認知、③エピソード記憶、④言語と意味記憶および⑤マインドワンダリングの5つの機能です。

① 自己言及(self-reference)

自己言及とは、自分自身や自分の属性、特徴、行動、感情について振り返ることです。自己言及的な心理プロセスは、他人との交流において自分自身について考えることも促進します。

② 社会的認知(social cognition)

社会的認知は、人が社会からの情報を認知することです。
DMNは、他人の心理状態や他人の行動の予測、人とのコミュニケーション、共通する価値の創出、社会的評価、社会における自分の意味など、社会的認知とコミュニケーションに関する幅広いタスクに関与しています。

③ エピソード記憶(episodic memory)

エピソード記憶とは、はっきりと述べたり思い出すことのできる過去の出来事(時間、場所、その時の感情、その他の文脈など)の記憶です。
DMNはエピソード記憶の操作、特に記憶された個人の経験の詳細を思い出す点において重要な役割を果たします。

④ 言語と意味記憶(semantic memory)

意味記憶とは、人が生涯を通じて蓄積してきた知識を指します(言語、単語の意味、概念、事実、アイデアなど)。意味記憶は経験と絡み合っており、文化にも依存します。新しい概念は、過去の物事から学んだ知識を適用することで学習されます。

意味記憶はエピソード記憶とは異なります。エピソード記憶とは、人生で起こる経験や特定の出来事の記憶です。たとえば、猫がどのような動物かという情報の記憶は意味記憶ですが、昨日隣の家の猫を撫でたという記憶はエピソード記憶です。

DMNは、言語の理解と意味処理に一貫して関与しています。

⑤ マインドワンダリング(Mind wandering)

マインドワンダリングは、本サイトの別の記事でも書きました。現在行っているタスクの目標とは関係のない思考プロセス、外的刺激に基づく処理から内省的な注意の移行によって生じる思考状態です。

DMNはマインドワンダリングを生み出すメカニズムに関与していると一般的に考えられています。しかし、先に述べたように、最近の研究では、デフォルトモードネットワークの、アクティブなタスク状態における関与も示されているため、DMNとマインドワンダリングの関連性が推測の域を出ないことも示唆されています。

なお、デフォルトモードネットワークの機能やその機能不全による障害については、英語ですが、下記のYoutubeが分かりやすいです。

また、デフォルトモードネットワークと、その他の脳内ネットワーク、特に前頭頭頂制御ネットワーク(frontoparietal network)と背側注意ネットワーク(dorsal attention network)との関係については、これも英語ですが、下記のYoutubeがとても分かりやすいです。

以上の5つの主要な機能を通して、エピソード記憶および意味表現が統合され、個人の経験と社会的相互作用による「内面の物語(internal narrative)」を作成する上で、DMNが重要な役割を果たしていると示唆されています。私たち一人一人に固有のこの物語は、「個人的自己」と「社会的自己」を包含する自己感覚の構築において重要な役割を果たします。

個人的自己は、内省し、自分の考え、感情、行動を認識する能力に関連し、社会的自己は、他人の視点の取得、社会的状況の把握、人間関係の形成と維持、社会的文脈内での自分の行動の理解に関連します。これらが一体になって、私たちが自分自身を認識し、他の人たちと交流する方法を形作る多面的な「内面の物語」を形成します。

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デフォルトモードネットワーク(DMN)の影響

デフォルトモードネットワーク(DMN)の働きは、以下のような介入とプロセスに影響されます。

例えば、マインドフルネスや瞑想は、デフォルトモードの接続性を高めるという研究結果があります。(4)

LSDの効果に関するある研究では、薬物がDMN内の脳活動の活動の相関性を低下させることが分かりました。また、幻覚剤であるシロシビンを投与すると、DMNの主要な領域への血流の減少が観察されました。(5)

睡眠に関して言えば、レム睡眠はDMN内の接続性を高めますが、睡眠不足はDMN内の接続性を低下させることが示されています。

アルツハイマー病患者は、病気の症状(記憶喪失など)と相関する脳活動の全体的な低下を示しますが、これらの脳活動低下のパターンは、DMNの領域と重なっています。アルツハイマー病の病理は、病気の症状が明らかになる前にDMNに現れ始めるという証拠さえあり、DMNの機能不全がアルツハイマー病の進行の鍵であるという仮説につながっています。(6)

一部の研究では、統合失調症患者はDMNが過剰に活性化していることが示唆されています。1つの仮説は、統合失調症患者は、DMNの内向き思考特性から思考パターンを変えるのが困難であるというものです。さらに、DMNの過剰活性化は、思考と感覚知覚を区別することを困難にし、幻覚体験の一因となる可能性があります。(6)

研究により、注意欠陥多動性障害(ADHD)の患者はDMNの接続性が異常であることが分かっており、それが注意散漫と関連している可能性があります。DMNの過剰な活動は、注意力と認知制御に関与するネットワークの機能を妨げる可能性があるという仮説が立てられています。(6)

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さいごに

デフォルトモードネットワーク(DMN)の調査は、人間の脳の働きに関する新しい洞察を提供してきました。しかし、まだ多くの疑問が残っています。さらなる研究によって人間の脳機能の理解が前進することが期待されています。

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参考資料
(1) “Default mode network“, wikipedia.com, retrieved on 2024/11/30.
(2) Spreng RN, Stevens WD, Chamberlain JP, Gilmore AW, Schacter DL. “Default network activity, coupled with the frontoparietal control network, supports goal-directed cognition“, Neuroimage. 2010 Oct 15;53(1):303-17., 2010/10.
(3) Vinod Menon, “20 years of the default mode network: A review and synthesis“, Neuron, Volume 111, Issue 16, 2023, Pages 2469-2487, ISSN 0896-6273,, 2023.
(4) Yeo BT, Krienen FM, Sepulcre J, Sabuncu MR, Lashkari D, Hollinshead M, Roffman JL, Smoller JW, Zöllei L, Polimeni JR, Fischl B, Liu H, Buckner RL, “The organization of the human cerebral cortex estimated by intrinsic functional connectivity“, J Neurophysiol. 2011 Sep;106(3):1125-65., 2011/9.
(5) “Psilocybin“, wikipedia.com, retrieved on 2024/11/30.
(6) Marc Dingman “Know Your Brain: Default Mode Network“, neuroscientificallychallenged.com

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