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ディープ・チェンジ:組織を変えるには、自分の考え方を根底から変える。

  • 投稿カテゴリー:組織が変わる
  • 投稿の最終変更日:2023年7月9日
  • Reading time:7 mins read

組織を変えるには、私たちが通常考えるようなレベルよりもさらに深いレベルでの個人の変化が必要です。その発端は、ステップに従って進むような段階的な変化ではなく、考え方を根底から変えるような気づきにあります。そして、変化を実現するには、高い倫理と自己規律、目的と人に貢献する強い意志が必要です。

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はじめに

私たちは社会や環境の変化に適応するために、時に自分自身を変えていかなければなりません。しかし、私たちの多くは、新しい現実から目を背けたり、歪めたり、否定したり、または単に面倒くさがったりして、変わらない自分を正当化しようとします。または、その変化に対応すべきなのは、自分ではなく、他の誰かだと主張して、責任から逃れようとします。
そのようにして、自分自身は特に何も変えることはせず、今まで慣れ親しんできたやり方に固執し、同じ行動を繰り返し続けるのです。

今回も、前回に引き続き、ミシガン大学名誉教授で、同大学のポジティブ組織センター(Center for Positive Organizations)の設立者の1人でもあるロバート・E・クインが2012年に書いた書籍「The Deep Change Field Guide: A Personal Course to Discovering the Leader Within」を紹介していきます。本書は、分かりやすくシンプルでありながら、組織の問題とリーダーシップの本質をついている素晴らしい本で、私も今でも時々読み返しています。残念ながら、このフィールドブックの邦訳版は出版されていませんが、その元の書籍の方は「ディープ・チェンジ:組織変革のための自己変革」と題して邦訳版が出版されています。

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組織はゆるやかに死んでいく

前回は、本書をベースに、組織が環境の変化に適応できずにゆっくりと死んでいくプロセスとその原因を紹介しました。今回は、どうすれば、そのプロセスを変えることができるのか見ていきます。

その前に前回の復習です。

環境の変化に適応できずにゆっくり死んでいく組織に共通して見られるのは、「タスク追求の論理(the logic of task pursuit)」です。前回の投稿では、「通常業務忙殺理論」とも紹介しました。その名の通り、慣れ親しんだ仕事や硬直化した課題対応に没頭し、それを機械的、盲目的に日々繰り返すことで、自分たちは一生懸命仕事をしていると錯覚することです。

しかし、その繰り返しのルーチンワークは、周囲の環境の変化から切り離されてしまっているため、すでに機能しなくなっていて、もはや成果をあげることはできません。もう通用しないやり方を続けているため、頑張っても頑張っても成果が上がらず、悪化する一方の状況に私たちは落胆していきます。

その問題に気が付いた勇気ある従業員がやり方を変えようとしても、周囲の人たちから会社批判していると思われたり、仕事をしていないと思われ、冷ややかに見られてしまいます。多くの従業員にとって、ルーチンワークこそが仕事であり、ルーチンワークから逸脱した行為は仕事ですらないのです。

このようにして、最終的には組織全体に絶望感や無気力が広がっていきます。そして、誰もが組織の利益を追求することをあきらめ、自分の利益を追求し始めます。前回紹介した「目標の逆転現象」です。これによって、お互いに信頼を損ない、組織には不信感が高まっていきます。
そして、より根本的な問題がいよいよ表面化し、最終的には転換点に達します。ゆるやかな死が急激な死に変わるのです。

図:タスク追求の論理。ルーチンを何回繰り返しても、もはやゴールにはたどり着けない。

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ディープ・チェンジ:根本から変わる

この死のプロセスから抜け出すには、私たちが通常考えるようなレベルよりもさらに深いレベルでの変化が必要です。それはステップに従って徐々に変わるような段階的な変化ではなく、考え方を根底から変えるような変化(ディープ・チェンジ:Deep Change)です。

まず始めに理解しなければならないのは、私たちが追求すべきなのは、目の前のタスクではなく、組織のパーパス(目的)だということです。

あなたが働く組織でも、会社の目的達成に全く寄与していないどころか足かせになっているルーチンや無駄な仕事はありませんか?

そのような目的達成に寄与していない既存のルーチンワークに反する新しい行動を起こさなければなりません。
そして、その新しい行動は一度では終わりません。行動を起こした後、リアルタイムで学びながら、行動をさらに改善したり、修正したりしていきます。それは、未知なる道を行くハイカーが、行くべき道を見つけるために周囲の環境を手がかりに細心の注意を払わなければならないのと同じようなもので、深い変化の渦中にある人は、受け取るフィードバックのひとつひとつに注意深く、過敏にならなければなりません。

しかし、先ほども述べたように、この変化を起こすのは容易ではありません。組織が根本的に変化する必要があります。

組織が深いレベルでの根本的な変化を実現するためには、リーダーの自己変革、つまり経営者や幹部たちの個人の変化から始まる必要があります。その理由は2つあります。
1つ目の理由は、組織のトップに君臨し、権限を有するリーダーしか、組織全体に行動の変化をもたらすことができないからです。
2つ目の理由は、残念ながら、幹部たち自身が、組織が撲滅しようとしている病気の病原体の保有者、つまり、問題の原因になっているからです。経営者はその行動によって、自らが持つ不安や対立や不信や責任回避を、組織中に広めてしまっているからです。

リーダーの個人的な変化のプロセスは、リーダーが現実を歪めたりせず、ありのままの現実を見るところから始まります。そのためには、厳しい現実を見ないでおきたいという欲求に打ち勝ち、自分を変える必要性に心を開く必要があります。

リーダーは自らの行動で、組織の行動を変えていけます。逆にリーダーの行動が変わらなければ組織の行動は変わりません。組織を変えることができるのはリーダーの「行動」であり、「指示」ではありません。つまり、リーダー自身は変わらないのに、従業員にだけ変わるように指示しても従業員の行動は変わりません。
リーダーが自分を変えることができれば、他の人たちも、その姿を見て、変わることができます。人間関係も改善され、組織は新たな集団の力を生み出します。

リーダーにはもう1つの選択肢があります。
組織の中に存在するリーダーシップを持つ従業員たちを全面的に支持することです。

ここでいう「リーダーシップ」と「リーダー」は同義ではありません。リーダーシップとは人を導き、人に影響力を与える能力であり、リーダーとは役職やポジションに過ぎません。リーダーは組織図の上の方にしかいませんが、リーダーシップを持つ人たちは、その役職や地位にかかわらず、組織のあらゆるところにいます。みなさんが働く組織の中にもいるはずです。
このことを逆の立場から見ると、組織の末端の従業員でさえ、そのリーダーシップで、組織を変える潜在能力はあるということです。

先見性があり勇気ある従業員が組織のルーチンを変えようとしても、通常は、より大きな権限を持つ上司や幹部達からその試みはいとも簡単につぶされてしまいます。先見性や卓越性は、逸脱の一形態であり、ルーチンからの逸脱は許されないからです。

リーダーのもう一つの選択肢とは、この勇気ある従業員の行動を拾い上げることです。その行動を他の従業員たちの前で明確に評価することです。権限と地位があるものが新しい行動の価値を認めることで、他の従業員もついていくことができるのです。

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リーダーシップの基本的な状態:Fundamental state of leadership

そして、「目の前のタスクではなく、組織のパーパス(目的)を追求すること」と同じくらい重要なことが、「自分の利益ではなく他人の利益を優先させること」です。

多くの組織が存在する目的は、社会や人への貢献のはずです。そのため、他人を優先させることと会社の目的を達成することは、本来、表裏一体の関係にあります。
リーダーが私利私欲を超越し、社会や共通の利益のために献身するように自らの行動を変えるとき、組織は深く変化していきます。

ただし、リーダーが高い倫理観を持たない限り、この変化は実現できません。

世の中には、「リーダーシップ」に関する何十年にもわたる膨大な研究資料があり、その重要性を説く膨大な書籍や講義が存在します。しかし、残念ながら、私たちのほとんどはまだそのリーダーシップの本質を体得できていません。
なぜなら、多くの本や授業や研究は、リーダーシップを教えると言いながら、リーダーシップの原動力である、強い影響力やコミットメントを支える道徳的な力を軽視しているからです。

多くのリーダーに欠けているのはモラルであり、道徳心なのです。モラル(道徳心)とは、いわゆる企業のコンプライアンスのような浅いものではありません。その人が持つ深くて強い価値観であり、その人の本質的な特性です。

書籍「ディープ・チェンジ」では、下図のように、リーダーシップの4つの基本的な状態・あり方を示していますが、これらは本質的に個人の価値観や道徳に関する問題です。

図:リーダーシップの基本的な状態(Fundamental state of leadership)

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「通常の状態」では、私たちは安定を重視し、自分にフォーカスし、報酬や評判などの外的要因に動機付けられて行動しています。

私たちは、目的中心、内的指向、他者中心、外的変化を志向することで、自分自身をより影響力のある状態へとシフトすることができます。意義ある目的により献身的になり(勇気、関与、献身)、より内面的になり(誠実さ、信憑性、信頼性)、より他者を重視し(寛大さ、思いやり、団結)、より外面的に自分を開き(謙虚さ、学習、楽観性)、周囲によい影響を与える力を高めるのです。

人は、深い変化を経て、「通常の状態」から、「リーダーシップの基本的な状態」に変化します。その過程で、古い前提から新しい前提へと移行します。見方が変わり、感じ方が変わり、考え方が変わり、やがて行動も変わっていきます。

環境に適合するための変化のプロセスでは、コントロールを放棄する必要があると言われることがありますが、そうではありません。コントロールを放棄するのではなく、別の種類のコントロールに移行すると言った方が正確です。

人生を歩む中で、私たちには誰しも、進歩し上昇する時期と、停滞する時期があります。ある程度の横ばい状態、水平状態は私たちに統合と回復の時間を与えてくれる必要不可欠なものです。しかし、それが長すぎると、私たちは快適すぎる状態に陥ります。人は快適すぎると、新たに学ばなくなり、周囲で起こっている重大な変化に気づかなくなるのです。

リーダーシップの基本的な状態を身に付けたリーダーは、通常の状態も理解し続けます。リーダーは複数の現実の力学を見ることができるようになったため、問題を発見し、理解し、解決する能力を以前よりも格段に高めます。人の潜在能力を認識し、他の人が気づかない機会に気づくことができます。

図:一般的な状態とリーダーシップの基本的な状態

 

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さいごに

遅かれ早かれ、どのリーダーも自分の力がいかに小さいかを理解するようになります。人が多様になり、社会がより複雑になり、環境がより激しくなるにつれ、従来のようなリーダーの力だけで物事を成し遂げることは不可能になりました。

このリーダーシップの根本的な変化を遂げるのは容易ではありません。今回述べたように、高い倫理と道徳が求められます。また、不思議に聞こえるかもしれませんが、会社にどっぷり従属しているうちは、根本的な変化を遂げることは困難です。時に自分を組織から切り離し、組織に従属せずに行動できるようになると、むしろ組織に有益な変化をもたらすことができるのです。

私たちは、自分が心地よいと感じるところと不安に感じるところのギリギリのところにいなければなりません。深い変化のプロセスの中盤にさしかかると、人は快適なゾーンからすでにだいぶ離れたところに来たかのように感じ、不確実性の中で道を切り開こうとしている自分に気づきます。不確実な場所に身を置くことで、私たちの前提が変わり、私たちは成長します。学習や挑戦は深い変化の原動力になります。この学習プロセスが集団に展開されるにつれ、私たちは一人では決して成し遂げられなかったことを成し遂げ始めるのです。

図:心地よいと感じるところと不安に感じるところのギリギリのところにいる

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