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変わらない日本の建設会社。変わらないマインドセットと行動

  • 投稿カテゴリー:海外建設
  • 投稿の最終変更日:2022年2月2日
  • Reading time:6 mins read

国内市場の飽和に加え、建設DX、脱炭素対応で待ったなしの建設産業ですが、一方で従来のやり方や思考から抜けられず、多くの建設会社は必要な変化を生み出せていません。この大きな原因は国内工事の進め方と、全員がマネージャーでリーダー不在という経営層の偏りにあります。

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はじめに

久しぶりの建設関連の投稿です。
コロナウイルスや建設DX、脱炭素対応でいよいよ変わるかと思われた日本の建設業界ですが、従来のやり方にしがみつこうとする抵抗力の強さはまだまだ強く、コロナウイルスの比ではないと思われるほどです。今回はこれほどまでに外部環境や他の業界が大きく変化する中、なぜ多くの建設会社は変わらないのか見ていきます。俯瞰的に大きく2つの問題に絞って見てみましょう。

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1.国内建設工事の進め方が全てのベースになっている

まず、一番の理由は国内建設工事の進め方にあります。
本サイトでも度々説明してきましたが、一般的な(建設ではない)プロジェクトの実施方法には大きく分けて「ウォーターフォール型」と「アジャイル型」があります。両方ともシステム・ソフトウェア開発で利用される開発手法に由来していますが、ウォーターフォール型は、従来からあるスタンダードな開発モデルで、プロジェクトマネジメントの分野では「予測型プロジェクトライフサイクル」にあたります。
予測型プロジェクトでは、下図の上側のように開始前にやるべき事とその順序が明確になっており、あらかじめ計画した通りの内容を決められた順番にやる事で成果を上げるプロジェクトに最適です。一方アジャイルは下側の図のように、途中変更が当然起きるという前提で、初めから詳細に設定せず開始します。作業を繰り返し回し、そこで得た新たな発見を次の反復のインプットにして改良・改善を繰り返していく手法です。

図:システム開発におけるウォーターフォール(上)とアジャイル(下)

ウォーターフォールモデル

アジャイルモデル

日本国内での建設工事プロジェクト実行モデルは、完全にウォーターフォール型です。建設業界の方にはガントチャート型、クリティカルパス型と言った方が馴染みがあるでしょう。大規模なプロジェクトであれば、壁一面に張っても収まらないような膨大で詳細なガントチャートを事前に作成しますね。実はこの建設工事プロジェクトの進め方そのものには問題はありません。建物やインフラ工事のような物理的で、日本のように政治、経済、社会が安定していてプロジェクト実施中におけるその他要素の変化の影響が比較的少ないプロジェクトは、最初にしっかり計画してその通りに準備、管理して進めるのが望ましいからです。
では何が問題なのかと言うと、日本の会社では、プロジェクトのみならず、経営の進め方や、新規事業、海外事業、組織改革、その他諸々の取り組みのほとんどに、このウォーターフォール型のプロセスと思考を使っている点です。

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日本国内の建設工事は、海外諸国、特に途上国に比較し、極めてリスクが小さい環境で実施されています。下請けやサプライヤーともツーカーで仕事ができ、支払いやキャッシュフローが問題になる事も通常ありません。海外のプロジェクトマネジメントとは異なり、建設工事の管理は技術面や品質面での対応が主となります。
一方で、海外建設工事は様々なリスク要因があります。ステークホルダーの実施能力や信用力に始まり、支払いが滞ったとか、許認可申請が止まった、手続きが変わった、オーナー側の実施項目がいつまでも対応されないといったレベルから、現地の隠れた慣習や規範、法律改定、政情不安、戦争、内紛、テロ、災害、感染病、通貨危機といったレベルまで広範囲にわたり様々です。

例えば、海外プロジェクトで、遅延を引き起こす発生確率50%のリスクが20個あるとしましょう。この20個のリスクの中には予見できるものもあれば、そうでないものもあります。
この20個のリスクが1つも発生することなく、計画した通りに無事プロジェクトが終了する確率はどれくらいだと思いますか?

  0.0001%です。

計算は簡単です。0.5を20乗するだけです。つまり、計画通りにプロジェクトが終わる可能性はほぼゼロです。それなのに、計画通りに進める前提で考えるのです。
地政学的リスクや実施面でのリスクが高い国で長く仕事をしているローカル企業は、このリスクをうまく吸収できる体制を整えています。なにしろ生まれた時からその国にいるのですから、ひょっとしたら特に意識することなく対応できている事さえあるかもしれません。第3国企業で成功する会社は意識的に対応する方法を確立しています。

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新規事業や組織改革も同様です。最初に全てを予測して計画する事はできません。最初に計画してもその通りに進む可能性はゼロです。それなのに最初にしっかり計画して実行する前提で望みます。その通りにスタートしても当然思惑通りには進みません。

かと言って、事前に適切なリスク評価をすると「そんなにリスクが高いプロジェクトに取り組めるかよ!」と却下され、不確実性を事前に盛り込むと「分かりませんじゃないだろ。ちゃんと調べてから持って来いよ!」と言われるので、リスクや不確実性にどう対応するか正面から向き合うのではなく、意図的に隠したり、軽視する事が行われます。その結果、実行段階になって「予期せぬ」様々な事が当然起こります。
つまり「予期せぬ」と書きましたが、実はそのような問題が生じる事はある程度は事前に予想できているのです。しかしどう対処すべきか分からないリスク項目や不確実さを挙げるのは、「最初に全てをしっかり計画する」という建前に相反するので、うやむやにしておくのです。
そして、そのリスクが表面化した時に会社がどうするかと言うと、計画担当者や実施担当者を責めるのです。

担当者も責められたくありませんから、自己防衛するために考えます。
下のイラストのように、本来のゴールから目を背け、予測可能、達成可能な「見える」範囲のみで計画し実行するのです。これで担当者も会社も、未来の不確実さに居心地悪くなることなく、安心して計画を進められるのです。


この達成可能な「見える」範囲のみで計画し実行する例としては、現場DXの「導入」、組織改革と言いつつお茶を濁す程度に新たにアプリやシステムだけ「導入」、働き方改革に積極的に取り組むと言いつつ、法的に求められる程度の対応や新しい制度だけ「導入」、などが挙げられます。変革マネジメントの分野では、このレベルの変革の取り組みを「Installation(導入)」レベルの取り組みと言います。

しかし、このような小手先の対応に終始していては、残念ながら永遠に本来到達すべき「本来のゴール」には届きません。「導入」レベルの取り組みとは異なる「本来のゴール」を達成するための「Realization(実現)」レベルの取り組みが必要だからです。

変革の実現のためには、本来のゴールを見据えた上で「先が見えない事を受け入れて、途中で計画を修正しながら進めるという前提」を「最初から」持つ事が必要で、会社がこの取り組みの考え方、進め方を受け入れる事です。これがアジャイル経営なのです。

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2.全員がマネージャー。リーダー不在

上記のような国内の仕事環境なので、多くの建設会社では、ウォーターフォール型の国内業務の実行能力に優れた人、技術的対応に優れた人、国内での工事管理能力が高く好成績を上げた人が認められ、出世していきます。
ここに2番目の問題があります。
経営層の上から下まで、良くて組織を管理できるマネージャー、悪くてただの優秀な技術屋という集団になるのです。つまり、道筋が既に出来ている業務のプロフェッショナルは揃っているのですが、今後未知の領域へどう進んでいくか、会社がこれから向かう先、つまり「本来のゴール」をはっきりと示し、組織を先導・牽引するリーダー役がいないのです。大きな建物は作れても、会社の未来をイキイキと心から語れる人間がいないのです。

DXや脱炭素は、目的でなく手段であり、「Installation(導入)」レベルの取り組みに過ぎません。「本来のゴール」に必要な「Realization(実現)」レベルの取り組みには、トップが先導し牽引し、全力でコミットする事が不可欠です。
実はどの組織でも、トップにはいなくても組織の中のどこかにそのような人物はいるものです。そのような従業員を組織の中核に据えれば会社は劇的に変わる可能性があります。しかし、そのような従業員は問題の本質を突きすぎで、上から見ればうざいか生意気で、出る杭のように叩いて黙らせて、改革に必要な権限を獲得するまで出世することができません。転職して会社を去って行ってしまう事も多いです。

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負のフィードバックループから脱出するには

ここに、「リーダーがいないから、従来型の取り組みの仕方を変えられない」➡「従来型の取り組みの仕方を変えられないから、リーダーが育たない」という、強烈な負のフィードバックループが生まれ、これを打破するのはとても困難になります。

ではどうやったらこの負のフィードバックループを断ち切る事ができるのでしょうか?
打破するに不可欠なのは「リーダーシップを持つ人間がリーダーになる」か、「リーダーがリーダーシップを持つようになる」かのどちらかですが、この実現のためには、下記のいずれかが必要です。

① 強い力と権限を持つ外部ステークホルダーの働きかけや圧力、スキルとリーダーシップを持つ外部人材の起用
組織を変える強い意志を内に秘め、長きに渡り辛抱強く耐え忍んで出世階段を上がって来た不屈のリーダーが日の目を見る
③ 経営層自らが「物事の違う見方」を得るための「気づき」を与える事ができるインフルエンサーの存在と影響行使

④ もしくは残念ながら会社がある程度まで「落ちる」事。会社によっては「とことんまで落ちる」事

どの組織にも改革精神にあふれた社員はいますが、組織の中間にいる改革に燃える人間ができる事は、上記②の自分が将来リーダーになるか(その権限を得る。。多大な忍耐と時間はかかりますが)、③今のリーダーに気づかせることです(そのスキルを得る)。どちらも困難ではありますが、不可能ではありません。
最後の④「とことんまで落ちる」事に関しては、業績ガタ落ちとか不祥事など、どうしようもないレベルまで会社が
落ち込むと、本当にリーダーシップのあるリーダーでないと会社を立て直す事ができない事が明らかになります。そのため、その能力と意志がある本当のリーダーシップを持つ真のリーダーが抜擢される可能性が高まります。逆に言うと、そこまで落ちないと自浄作用が生まれないのです。そこまで落ちても自浄作用が働かない組織もあります。建設業のような参入障壁が高い産業はそれでもある程度生き延びてしまうのですが、残念ながらそのような会社に未来はありません。

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