組織改革マネジメント(OCM:Organizational Change Management)のレディネス評価の3要素のうち、③キャパシティ(能力)について紹介するとともに、レディネス評価を実施する際のポイントを紹介します。
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組織改革マネジメント(OCM)のレディネス(自信)評価は、変革の目的を明確にした後、変革のスコープを決める前に、①企業文化、②オーナーシップ(コミットメント)、③キャパシティ(能力)の3点に関して行います。
※ OCM = Organizational Change Management、組織改革のマネジメントです。
今回は、まだ紹介していない3番目の要素、キャパシティ(能力)のレディネス評価について紹介します。
キャパシティ(能力)評価では、人と組織が、変革に必要なスキル、リソース、システム、プロセスを、どの程度持ち合わせているか、その準備度を確認します。
組織のキャパシティは、レディネス評価の3要素(文化、オーナーシップ、キャパシティ)の中では、最も客観的に評価できる項目です。
1番目と2番目の要素である文化とオーナーシップは形で捉えられる要素が限られるのに対して、キャパシティは、物理的要素、目に見える要素、観察可能な要素が比較的多いからです。
変革に必要な他の要素、企業文化、オーナーシップを持ち合わせていても、キャパシティがないと変革は成功しません。
世の中には、「会社が変わればいいのに」とか「会社を変革したい」と思っている人はたくさんいると思います。仮に組織内の全員に変革に対する意欲、オーナーシップがあっても、キャパシティ(能力)、つまり変革を可能にする知識やスキル、システム、プロセス、ツールがなければ変革を実現する事はできません。
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マラソンを例にとると、「マラソンを3時間以内で走りたい!」と強く思うだけでは、3時間以内で走れるようにはなりませんよね。
どういう練習をどういう手順を踏んですれば良いか学習、計画しなければなりませんし、そのプランに基づいて実際に練習もしなければなりません。練習に必要な時間を日々の忙しい生活の中から捻出しなければなりません。月間の走行距離をモニタリングする事も必要でしょう。
練習するにつれて脚力や持久力がどんどんついてくるでしょう。
練習をやり過ぎて怪我をしてしまった場合は、怪我の原因を分析して弱点を強化する筋トレやストレッチも練習メニューに加える必要があるかもしれません。
共通の目的を持つランニングチームに参加すれば、チーム内のベテランランナーからメンターを受けれるかもしれませんし、皆に刺激を受けてモチベーションも持続できるでしょう。
それでもどうしても3時間にもう少しで届かない場合は、最後は道具に頼って、高速シューズやサプリの助けも必要かもしれませんね。
このマラソンの例で挙げられた、練習、手順、学習、プラン、時間、モニタリング、脚力、持久力、分析、チーム、メンター、高速シューズ、サプリ、、これらはキャパシティに含まれる要素です。
これら全てが必須条件ではありませんが、このようなキャパシティがないと、いくら強く思っても目標を達成できない事は理解頂けるかと思います。
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組織改革マネジメント(OCM)のレディネス(自信)評価では、組織文化の評価方法としていくつかの評価ツールがある事を紹介しました。
組織文化評価ツールと同様に、キャパシティの評価ツールも数多く提案されています。
なぜこれらの評価に多くのツールが存在するかというと、「One-size-fits-all」の全てに万能な評価ツールが存在しないからです。
組織文化のレディネス評価方法を紹介する際にも説明しましたが、変革を実現する目的のため組織評価する場合、標準的な評価ツールをそのまま使う事は有効ではありません。
標準的なツールは、包括的で汎用的な内容のものが多く、質問が必要以上に広範囲だったり、逆に細かすぎたり、目的とする変革と視点が合致せず回答に窮する質問もあります。変革プロジェクトは複雑で、変革の課題も組織の数、プロジェクトの数だけあるのに対して、標準的な既存の評価シートは、当然ながら、そのような個々の組織の事情は全く知らない第三者によって作成された、一般化・汎用化されたシートだからです。
残念ながらあなたの組織、改革プロジェクトの課題にぴったりフィットする既存の評価ツールは一つも存在しません。組織、変革の内容や対象範囲に応じて、カスタマイズする必要があります。
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キャパシティ評価表のカスタマイズの過程では、次の事に注意します。
● 意図的である事:ツール、結果をどう使うのか?
結果はチーム内で使うのか、トップマネジメントとの議論に使うのか、組織全体の共感を得るために使うのか?
レディネス評価は変革を後押しするツールでなければなりません。それでなければただの評価で終わってしまうだけでなく、的外れな質問は回答者を困惑させ、変革に必要なエネルギーを浪費する結果に繋がります。逆に、優れたツールは変革のエネルギーを高めます。
評価ツールは最初に評価する時だけでなく、モニタリングツールとして使う事も念頭に入れます。
● 誰が評価するのか?誰がどう結果を使うのか?
トップマネジメント、各マネジメント層の姿勢、結果について議論できる準備が出来ているかによって異なります。
評価する人間によって評価結果はゆがめられる可能性があります。
評価は学習能力のある少数の人間で行うのが良いですが、トップマネジメントをどう関与させるかは慎重に判断しなければなりません。
● どの程度項目を盛り込んだツールにするか?カスタマイズやファシリテーションは誰がするのか?
社内にスキルを持った適格者がいない場合は、チェンジマネジメントの専門家等、外部の助けが必要になります。
変革に適した、また回答者に適した質問でないと、回答者の誤った評価を助長してしまう可能性もあります。
それぞれの組織で良く使われる言い回しがあると思いますが、使われる「単語」も組織で浸透している馴染みのある言葉を極力使用し、馴染みのない言葉は丁寧に説明する事が望まれます。
評価表の質問は強力な武器になり得ます。口頭ではなかなか回答できない・切り出せない課題にもメスを入れていくことができます。一方で特定の部署や人をターゲットにしてしまう可能性のある質問は抵抗を生み、変革の妨げにもなり得ます。
● 評価結果を知る事も大事ですが、ツールをカスタムする過程、自己評価を後押しする過程がとても重要です。
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具体的には、企業文化の評価項目表の場合と同様に、下記のようなキャパシティ(能力)を表すキーワードに関して、現状組織がどのような状態にあるのか、変革によってどのような状態を目指すのか、文章で表現していきます。
表:レディネス評価項目表(キャパシティ)
キャパシティ(キーワード) | 現状 | 目標 | 評価 |
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スキル(個人及び組織) | |||
知識 | |||
経験 | |||
実行力 | |||
持続力 | |||
学習力 | |||
解決力 | |||
適応力 | |||
調整・連携力 | |||
検証・分析力 | |||
定着力 | |||
コミュニケーション | |||
リーダーシップ | |||
コーチング | |||
アジリティ | |||
チームワーク | |||
プロセス | |||
戦略・計画策定 | |||
承認・決定手順 | |||
業務手順 | |||
フィードバック | |||
コミュニケーション | |||
情報共有 | |||
PDCA | |||
問題解決 | |||
システム | |||
組織構造 | |||
業務環境 | |||
人事管理・規程 | |||
情報管理・共有 | |||
職務・役割・権限 | |||
モニタリング | |||
支援 | |||
連携 | |||
報酬・業績評価・インセティブ | |||
教育・研修・トレーニング | |||
指導・メンター | |||
リソース | |||
人員・チーム | |||
時間 | |||
場所 | |||
情報・データ | |||
資金 | |||
テクノロジー | |||
ツール・道具・設備 | |||
外部リソース |
企業文化の評価表を作成する場合と同様に、現状を表す適当な文章が思い浮かばない場合はそれぞれのキーワードに対する事例(ここでの紹介は省略します)を参考にします。
現状は把握できるが、未来の理想的な状況が分からない場合は、過去の失敗事例の原因を掘り下げたり、同様の改革を成功させている他企業をベンチマーキングします。
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キーワードは、改革に影響するだろう項目を残し、関係ない又は影響が少ないと思われる項目については省略し、フォーカスすべき事項を絞っていきます。
評価(点数)は将来のあり方を5点満点とし、現状が5点未満の何点であるかになります。
この作業は個人・改革チームで行い、議論する事が必要になります。
一度限りでなく、アジャイル式に何度も実施します。繰り返すうちに変革で対処する点が明確になってきます。
先に述べたポイントの繰り返しになりますが、評価結果を知る事も大事ですが、ツール利用の最終目的は評価ではなく変革であり、ツールをカスタムする過程、自己評価の後押しと理想の組織を描く過程がとても重要です。